暇を持て余した守護者の娯楽1
セ〇ムンファンの方、石を投げないでください。
忍耐強く思慮深いとされていた私は存外誘惑に弱かった。
好奇心をそそるものがない場所で生きてきたのだからそれに気づかなかったのだけれど。
私は【時空扉の守護者】。【神の血を継ぐ者】で名を比良坂という。
時間を持て余して少しばかり休眠癖のついた、孤独な門番だ。
生まれも育ちも時空扉の前で、出会った人の数も片手で足りるほど。
【時空扉の守護者】には犯してはならない3つの禁忌がある。
ひとつ、いずれの勢力にも介入するべからず
ふたつ、守護者は扉を使うべからず
みっつ、持ち場を離れるべからず
最後の『持ち場を離れるべからず』はごく最近付け加えられたもので、【時の狭間】に迷い込んだ当時の権力者が押し付けてきたものだ。
相手はただの人間。押し付けられるいわれはなかったが、門番として私語は慎みたいので了承して早急に立ち去ってもらった。
不満はない。そもそも禁忌を破る機会はないであろうし、すすんで破りたいと思わないので。私にとってあってないようなルールがこの、べからず三原則である。
ただ時間だけは持て余す。
これまで流れた時間も相当だったがこの先も無限に続いていく。
無の空間にあった極小の点から宇宙が誕生し、際限なく今だ膨張しているように、時も永劫に刻むのだろう。
だからその中である一瞬、それまでと別方向に思考が働くことだってある。暇過ぎて休眠状態だった脳に知人の顔がちらついたのがいい例だ。
その半数の者が既に他界しているだろう。何人かは輪廻転生を果たしているかもしれない。そこに興味が惹かれた。
【神の血を継ぐ者】である私は人が言う悠久の時を生きている。いわゆる【不老不死】の【能力】があるので、かつての知人が転生している可能性を考えていなかったのだ。
ふと好奇心が湧いた。それがいけなかった。
後悔はしていないもののこれののち、私は永い時をかけて苦悩することになる。
あの人は今どうしているのか。
そう思い至ったのは、地球に人類現る→火山一斉噴火で滅ぶ→氷河期→人類とは別の高次元高知能生物が地上を支配→太陽活動活発化の影響で各地戦争勃発のち絶滅→そして誰もいなくなった→地上に居ついた異星人と実はいた地底人の異種格闘技戦→そして誰もいなくなった、を何度か繰り返した頃。今更と言える時がたっぷり過ぎてからのことだった。