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09,



 基本的には奇襲ばかりでウォッチスパイダーとソードウルフをメインに狩りを続ける。

 でも毎回同じ状況、種類ばかりを揃えるのは難しい。

 うちのサポートさんが優秀だとはいっても限度があるので、当然違うヴァリアントとも戦闘になった。


 哨戒型は当然ながら、ソードウルフだけじゃない。

 代表的な哨戒型ヴァリアントはソードウルフで間違いないけれど、その次に有名な哨戒型はコイツだ。


 振り上げた前足を超振動ソードG2で弾き、強靭な顎の噛み付きを後ろに飛んで回避する。

 真っ黒の甲殻は超振動ソードG2の超振動でも容易く切り裂けない。

 ただ研究所のドアほど硬くは無いようだ。その証拠に何度も斬りつければ切断できた。

 すでに6本あった足を2本切断することに成功している。

 おかげで機動力はもうほとんどないも同然だ。


 あとはあの強靭な顎を用いた噛み付き攻撃と残った足に注意しながら止めを差すだけ。


 一か八かなのか、無理やり残った足で突進を仕掛け来る巨大な蟻型ヴァリアント――ファングアントを躱し、前足の間接をすれ違い様に切断する。

 大きく体勢を崩したファングアントに後ろから飛び乗り、頭部と胸部の隙間に超振動ソードG2の刃を滑り込ませて一気に切り裂いた。

 ゴトリと頭部が落ちたが、虫は頭がなくても少しの間は生き続けるので注意が必要だ。

 まぁファングアントは蟻の形をしているだけで虫じゃないんだけど。


「目標の完全な沈黙を確認しました」

「ふぅ……。BHG-77を弾かれた時は焦ったよ……」


 目の前に転がる死骸を回収しながら肩の力を抜く。

 ファングアントは哨戒型だけど、ソードウルフと違い単独行動を取る。

 だが単独行動を取るだけあり、攻撃能力も防御能力も高い。

 特に防護フィールドの下にある甲殻が厄介で、BHG-77の銃弾をあっさりと弾いてしまったのだ。

 これには驚いたけど、超振動ソードG2の斬撃なら十分な効果があったのでなんとかなった。


 逃げてもよかったけど動き自体はそれほど早くなかったし、ソードウルフ同様数が多いのでいつかは戦わないといけなくなる。

 なので実験も兼ねて近接戦闘に移ったのだ。

 近接戦闘自体はソードウルフでもウォッチスパイダーでも経験しているし、BHG-77が効かないなら超振動ソードG2で仕留めないといけないのだから仕方ない。


 結果として一撃も受ける事無く問題なく狩れた。

 でも結構ギリギリで避けたところもあったのでもう少し近接武器に射程が欲しいところだね。


「ねぇ、エリーナ。超振動ソードG2以外にも武器が欲しいんだけど」

「ファングアントの因子――『AY-224因子』が手に入りましたので、ソードウルフの因子――『WV-004因子』とヴァリアント素材で超振動ソードG2から派生強化する事は可能です」

「ふむふむ。どんな風に強化されるの?」

「現状はソードタイプのタイラントアイテムですが、派生強化後はポールアームタイプになります」


 ポールアーム? 棒とか槍とかだっけ?

 だったらちょうど射程が欲しかったしすごくいいタイミングだ。


「じゃあお願いしていい?」

「1度派生強化すると元には戻せなくなりますが、よろしいですか?」

「戻せないのかぁ。超振動ソードG2が無くなるのはちょっと困るかなぁ。

 射程が伸びるのは嬉しいけど、その分取り回しが悪くなるはずだし……」


 収納取り出しはいつでもどこでも出来るから状況に合わせて使い分けられるのが強みだ。

 だからこそ色々な状況に対応できるように武器を複数種類用意しておきたい。


「超振動ソードG2をもう1つ生成は出来ないの?」

「必要な因子を複製するためのヴァリアント素材が不足しています」

「そうなんだぁ……。部屋で取り込んだヴァリアント素材ってもしかしてかなりの量だったの?

 あれだけで超振動ソードG2とBHG-77と天岩戸の3つも生成できたわけだし」

「はい、マスターエリオ。あのヴァリアント素材は高密度凝縮体でしたので見た目以上にヴァリアント素材の量がありました」

「そっかぁ……」

「超振動ソードG2を生成するのにはあとファングアント15体必要です。

 ソードウルフなら57体。ウォッチスパイダーなら285体です」


 ウォッチスパイダー285体……。

 これはファングアントを中心に狩った方がいいっぽいね。

 あーでもソードウルフは3体1組なんだよね。ファングアントを倒すよりはソードウルフ3体を倒す方が早かったりするから微妙なところだね。

 でもBHG-77を使えば残弾が減っていくし、その分ヴァリアント素材が必要になるか。

 やっぱりファングアント中心かな。


「よし、とりあえずファングアントを優先で狩っていこう。

 案内よろしくね、エリーナ」

「承知しました」


 新たな武器を求めて今日はひたすらヴァリアントを狩りまくった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 今日も日が落ちるギリギリくらいで研究所に帰って来た。

 いっぱいヴァリアントを狩っても荷物にならないのはすごく楽だ。

 これが収納できなかったらどこかに死骸を集めなきゃいけないので大変だっただろう。

 保管も大変だし、基本的にヴァリアントは大きいから場所にも困ってしまう。

 まったく収納様様だね。


 今日は昨日に比べてよく動いたので早くお風呂に入りたい。

 とはいっても汗をかいたりはしていないので気持ち悪いわけではない。それでもやっぱりお風呂は大事だと思う。


 パパっとバスタブに水を注いで装置を突っ込む。

 ボディシャンプーやら洗い流し用のタライやらを用意している間にお湯になったので、さっそく全裸になってお風呂タイムだ。


 エリーナはお風呂の良さがよくわからないようなのであんまり興味もないみたいだし、のんびり泡塗れになりながらお風呂を堪能する。

 体を洗うついでに色んなところをむにゅむにゅしてみたけど、やっぱりこの体は至る所がぷにぷにだ。

 それなのに凄まじい力を出せる。

 瞬発力も持久力も高いし、一般戦闘モードにシフトすれば体の微細な震えすら制御できてしまう。

 本当にすごい体だ。


 でも見た目は4歳児。

 可愛い幼女なのだから恐れ入る。


 そういえばもう2日近く排泄していない。

 まだ尿意も便意もないからまだもうちょっと持ちそうだけど……。

 そろそろ覚悟を決めるためにも観察をですね。


 都合よくボクの優秀な妖精さんはお風呂に興味がないので机の上に行ったまま帰って来ないし……。何やってんだろう?

 とにかく今はチャンスだ。

 このチャンスを活かさないわけにはいかない。


 これは学術的好奇心と自身の覚悟を決めるために必要な行為なんだ!

 いざ逝かん、神秘の探究へ!







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「マスターエリオ、首を痛めますよ?」

「はうあッ!」

「心拍数の急上昇を確認しました。

 落ち着いてください、マスターエリオ」


 神秘の探究を進めていたら机の上に行っていたはずのエリーナが不思議そうに首を傾げて、目の前にいた。

 ちょうどボクは見えづらくて一生懸命体を丸めていたから気づくのが遅れてしまったのだ。


 ぼ、ボクは別にやましいことはしてないよ!?


「マスターエリオ、エリーナは別に咎めません。

 マスターエリオは女性体なのですから。

 ……問題ありません」


 うぅ……。エリーナの可愛らしい瞳が半眼になってジトっとした視線が痛い。

 全然咎めてるじゃないか! 問題ありまくりじゃないか! それに女性体ならいいじゃないか!

 ボクだって色々大変なんだよ!


「うぅ……エリーナがいじめる……」

「むふふ。マスターエリオはとても可愛らしいです」

「うわーん」


 バスタブの端っこでシクシク涙を流したあと、いじめっ子が半眼で見つめる中泡を流すハメになりました。


 寝巻き用に新たに生成されたワンピースを着て、卵型のベッドで体育座りをしながら完全栄養バーのチョコクリーム味を食べるとやっと調子が戻ってきた。

 さすがにその頃にはエリーナのジト目も収まっていたので今日の収穫で出来ることを確認しておく。


「本日回収したヴァリアント素材では超振動ソードG2は生成できません。

 まだもう少しヴァリアント素材を回収する必要性がありますので、今回回収したヴァリアント素材で新たなアーツを生成し、インストールしましょう」

「今の通常戦闘アーツではだめなの?」

「通常戦闘アーツは体の動きや使用法などを総合的に強化するためのアーツなので、それぞれの武器を十全に扱うならば専用のアーツをインストールすることをお奨めします」


 ふむぅ。

 剣術とか槍術とかそういうのなのかな。

 まだヴァリアント素材が足りないならアーツをインストールしておくのはいい手だ。

 それに派生強化しても状況に応じて使う武器は変更するんだから、超振動ソードG2をもっと上手く扱えるようになるのならやっておいて損は無い。


「わかった。

 それじゃあボクに必要なアーツってどんなの?」

「マスターエリオに必要なアーツは『派生戦闘アーツ:ソード』、『派生戦闘アーツ:ハンドガン』、『派生戦闘アーツ:コンバットフィジカル』。

 超振動ソードG2を派生強化後には『派生戦闘アーツ:ポールアーム』です」

「結構あるね。でも全部生成できるの?」

「今現在のヴァリアント素材で生成できるのは1つまでです」


 あれ……。ってことは結構ヴァリアント素材使うってことだよね?

 超振動ソードG2を生成するのにも必要だし、派生強化させるのにも必要だし……。

 アーツを生成するのは本当に今やることかな?

 でもエリーナがわざわざ言うって事はやる価値があるんだろうなぁ。

 この妖精さんはいじめっ子だけど、非常に優秀だ。

 だからその辺は全幅の信頼を置いていい部分だ。


「ふむー。エリーナのお奨めは?」

「派生戦闘アーツ:コンバットフィジカルです」

「よし、じゃあそれで!」

「生成完了しました。

 派生戦闘アーツ:コンバットフィジカルをインストールします」

「うぐ……。むぅ。

 前よりは痛くないけどやっぱり痛いね。毎回こんな感じに痛いの?

 それに前みたいな急激な変化はないみたいだね」


 通常戦闘アーツをインストールした時はもっと頭が痛くなったんだけど、今回はそれほど痛くは無かった。まぁそれでもそれなりに痛かったけどさ。

 それに前は万能感にも似た高揚感に支配されたのに今回はそれほどでもない。

 やっぱり下地として通常戦闘アーツがあるからかな?

 通常戦闘アーツをインストールする前は口喧嘩すら数えるほどしかしたことなかったボクだったしなぁ。


「マスターエリオを一般戦闘モードへのシフトを実行。成功」

「……なるほど、こうなるわけか」


 エリーナが突然ボクの心を戦闘用にシフトさせると派生戦闘アーツ:コンバットフィジカルの効果がよくわかった。

 今までも戦えてはいたけど、それはほとんど力任せな強引な肉体制御だったみたいだ。

 派生戦闘アーツ:コンバットフィジカルではもっと上手に繊細に肉体を制御できるようになる。


 例えば今までは超振動ソードG2を勢いよく叩きつけていたのが、必要な力を必要な分だけ見極め、今まで以上の結果を出せるようになる。

 体の動かし方に関してもそうだ。

 一事が万事、勢いと肉体性能頼りだったところが技術(・・)を使って効率化される。


「アーツってやっぱりすごいね」

「すごいのはエリーナです」

「はいはい、ボクのサポート妖精さんはとっても優秀だね」

「むふー」


 褒めろと態度と言葉で示す妖精さんに苦笑しながら望み通りにしてあげれば、鼻を大きく膨らませて大変満足そう。

 明日以降の狩りは確実に今日以上に効率的に行えそうだ。



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