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02,


 長方形の物体――スマホっぽいのから飛び出してきた妖精がくりっとした可愛らしい瞳でボクを見つめている。

 人形のように整った顔立ちだけど、綺麗というよりは可愛い。

 髪は肩口で切り揃えられていて絹糸よりもずっと美しい金色。

 大きさはボクの小さなぷにぷの手のひら3つか4つ分くらい?

 着ている服はゴシックアンドロリータだっけ? なんだかごてごてとレースやらリボンやらがいっぱいついていて、でも可愛らしくてとても彼女に似合っている。

 スカートは膝丈でそこから伸びている折れそうなくらい細い足は網タイツ……大人だ。

 靴はパンプス? ワンポイントにリボンがついている。


 そして何よりも空中に浮かんでいるし、背中には蝶のような羽根が見えていて、時折動いている。

 ただ浮力を得ているわけではないのか、動く回数は多くない。


 そして何より……スマホっぽいのが浮いている円筒形のガラスケースを透過(・・)している。


 ……ホログラム?


「マスターNNTZ7UR1? いかがなさいましたか?」

「ぇ、えっと……君は……?」

「エリーナはエリーナです。

 マスターNNTZ7UR1のサポート妖精です」


 あ、やっぱり妖精なんだ。

 ていうかNNTZ7UR1って何……。もしかしなくてもボクのことだろうか?


「エリーナ、NNTZ7UR1って何?」

「マスターNNTZ7UR1の生体認証コードです」

「せいたいにんしょう……」

「はい、マスターNNTZ7UR1を個人識別するために設けられた認識票です」


 やっぱりNNTZ7UR1はボクの事で正解みたいだ。

 エリーナの説明はちょっと難しいけどわからないこともない。


「えぇっと……つまり名前? 名前ならボクには柏木衿緒(カシワギエリオ)っていうちゃんとしたのがあるよ?」

「承知いたしました。マスターカシワギエリオ」

「あーフルネームじゃなくてもいいよ? 柏木が苗字で衿緒が名前だから」

「承知いたしました。マスターエリオ」


 なんとかボクの呼び名を変更する事に成功したけど、マスターはやっぱりついてしまうみたい。

 まぁそのくらいは許容範囲内かな?


 でもなんとも自然にエリーナの事を受け入れてしまったけど……新しい体なのも影響しているのだろうか?

 ボクの記憶が正しいならこんな本物にしか見えない見事なホログラム映像は実現できていなかったはずなんだけどなぁ。

 まぁそれを言ったらボクの新しい体はどうなんだっていう話だけど。


 あ、そうだ。エリーナ自身がサポートって言ってるわけだし、もしかしたら聞いたら教えてくれるかも?


「ねぇ、エリーナ。ボクは男だったはずなんだけど」

「マスターエリオは女性体ですよ?」

「うん、なんか今は女の子みたいなんだよね。でもボクの記憶では男だったはずなんだ。

 16歳の高校生で、陸上部の長距離ランナーだったはずなんだけど」


 エリーナが可愛らしい顔を傾けて疑問符を頭の上に浮かべている。

 まぁボクもどう見ても裸の幼女に男だといわれたら同じようになるだろう。


「マスターエリオ。エリーナのデータバンクには該当する情報が見つかりません。

 ローカルネットワークへの接続を実行。失敗。

 グローバルネットワークへの接続を実行。失敗。

 スペースネットワークへの接続を実行。失敗。

 マスターエリオ、場所の移動を提案します」

「……えっと、ネットに繋ごうとしてたの?」

「はい、マスターエリオ。ですが失敗しました。

 エリーナの接続可能なネットワークへの接続をすでに規定回数失敗していますので、再試行の場合は場所を移動するのが賢明です」


 えぇとつまりは圏外なのかな?

 でもスペースネットワークとか言ってたけど……。まぁ本物にしか見えない妖精のホログラムと会話しているんだから、もう今更だよね。


「あ、でもエリーナ。ドア開かなかったよ?」

「エリーナにはハッキングが可能ですので問題ありません」

「おぉ……エリーナすごいんだね。でもボク裸のまま外へはちょっとなぁ……」


 自分の今の体を見下ろし、何も身に着けていないのを再確認してちょっとだけ膨らんでいる胸をむにゅむにゅしてみる。


 ……うむ。


「ではマスターエリオ。エリーナを『ヴァリアント素材』の近くに連れて行ってもらえますか?

 衣服を生成します」

「ヴぁり……え?」

「ヴァリアント素材です」

「それがあれば服が作れるの?」

「はい、エリーナの基本機能にヴァリアント素材の加工があります。

 エリーナのデータバンクに衣服のデータがありますのですぐに生成できます」


 エリーナの事は自然と受け入れられたけど、ちょっと頭がついていかなくなってきた。

 だってホログラム映像がどうやって服を作るの?

 でも現状ボクは全裸。寒くはないけど、やっぱりちょっと恥ずかしい。

 部屋には服の代わりになりそうな物もないし、もし本当に出来るならお願いしたい。

 物は試しというし、出来たらラッキーだしね。

 あ、でもどうやって連れて行けばいいんだろう?


「エリーナ、どうやって連れて行けばいいの? このケースごともって行くの?」

「マスター登録が済んでいますのでマスターと融合します。ケースに触れてください」

「ゆ、ゆうごう……?」


 危なくないのかな……。だって融合だよ? 融合。

 体が全然違うといっても確かに今のボクの体はこの体なんだ。痛いのはやだし、よくわからないのは怖いからいやだ。


「エリーナ……。融合はちょっと怖いよ」

「承知しました。ではバングルタイプでの一時接触ではいかがですか?」

「あ、それならいいかな? ケースに触ればいいんだね?」

「はい、マスターエリオ」


 別に融合じゃなくてもいいみたいだ。

 あっさりと違う案を提案してくれた。

 でも融合とバングルではかなり心理的ハードルが違うと思うなぁ。まぁいいか。


 円筒形のガラスケースに触れると何の抵抗もなく、ケースの中にぷにぷにの手が入ってしまった。


「ちょッ! ふわ……」


 驚きの声を上げ終わる前にスマホっぽい長方形の物体が歪み、中に入ったボクの手首に巻きついてしまった。

 でも重さなんかは一切なくて違和感すらない。

 すぐに手を引っ込めてケースから抜いたけど、そのままボクの左手首には元スマホがくっついたままだった。


「スマホじゃなかったんだぁ……」

「エリーナはマスターエリオのサポート妖精ですのでスマホではありません」

「そっかぁ」


 手首に巻きついてちょっとオシャレなバングルになったスマホを触って、感触を確かめながらエリーナの言葉に相槌を打つ。

 感触はなんともいえない。ほんのり暖かくて硬いわけでもなければ柔らかいわけでもない。不思議だ。


「それではマスターエリオ、あちらです」

「あ、うん」


 エリーナが背中の蝶の羽根を少しパタパタさせて空中を滑る様に移動していく。

 ボクはその後をずっと短くなってしまった足で適当についていく。

 でも机の上だったのですぐ移動できなくなって、よじ登ったところまで戻ってから頑張って降りた。

 登りより降りる方が遥かに怖かったよ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 エリーナの案内でたどり着いたのは壁に埋まっているタイプの収納? だった。

 引き手を引いてみたけどどうやらロックがかかっているらしくまったく開かなかった。

 でももしこれもコンピューター管理なら……。


「エリーナ、ロックされて」

「解除しました」

「はやっ!」


 ハッキングをお願いしようと思ったら言い終わる前にロックを解除してしまったみたいだ。

 あまりの早業にちょっとどころじゃなく驚いた。

 というかやっぱりコンピューター管理だったのね。


「……わぁほんとに開いてるし。エリーナってすごいんだねぇ」

「当然です」


 手放しでちっちゃな妖精さんを称賛すると薄い胸を張って、フンスと得意げにしていた。

 そんな仕草はとても可愛らしくて、ちっちゃな頭を撫でてあげたくなる。

 ……撫でられるのかな?


「おぉ……」

「ふぁ……ま、マスターエリオ……恥ずかしいです」


 試しにエリーナの頭を指で撫でてみたら感触があった。

 絹糸のように細くて触り心地のいい金色の髪はずっと触っていたくなるくらいで、エリーナが恥ずかしそうにしているのと相まって凄まじい破壊力だ。

 ボクの胸がきゅんきゅんしちゃってやばい。


「マスターエリオ、心拍数が急上昇しています。落ち着いてください」

「えぇー……」


 エリーナにドキドキしながら髪を撫でていたら、突然真顔になった彼女が平坦な声で告げてくる。

 もう一気にドキドキなんて引いてしまうくらい冷めちゃったよ。

 なんていうか仕事の顔と素の顔が違いすぎて、引く。


 もちろん素の顔が髪を撫でられていたときの可愛らしい彼女で、仕事の顔がネットワークに繋いだり、心拍数の上昇を告げたりした顔だ。

 怖いくらいに違うんだもの……。


「ではマスターエリオ、衣服を作成しますが何か希望はありますか?」

「え、えーと……。今何月? 外って寒い? ここは快適だけどさ」

「現在6月です。外の気温はわかりません」

「んー6月かぁ……。風邪引いてもやだし、暑かったら捲ればいいよね。

 長袖の上着とズボンと下着をお願いできる?」

「承知しました」


 収納の中に入っていたのはまたもやガラスケースで、その中にはごつごつした石みたいな物が入っていた。

 これがヴァリアント素材?

 量はそれほどではなく、1辺がエリーナ1人分くらいの立方体が1つだけしかない。


「それではマスターエリオ。ヴァリアント素材に私を近づけてください」

「あ、うん。……ちょ!?」


 エリーナに言われるままにバングルが巻きついている左手をヴァリアント素材に近づけると、バングルが一気に形を歪めてガラスケースを透過して飲み込んでしまった。

 それは一瞬の早業で、それなりの体積があったヴァリアント素材はもう跡形もない。

 飲み込んだはずのバングルはもう左手首に戻っていて重さも変わっていない。


 ……何コレ……。


「生成完了しました。顕現します」

「けんげ……えええぇ……」


 左手首のバングルを驚きのままにみつめていたら、エリーナが例の仕事中の顔でそう告げたと思ったらボクの手の中に服があった。

 何を言ってるのかわからないだろうけど、ボクも何があったのかわからない。

 超スピードとか残像だ、とかそんなチャチなもんじゃない。宇宙の法則が乱れかねない何かを味わったよ……。


「おぉ……。服だ、ね……」

「マスターエリオに似合う服を選びました」


 仕事の顔じゃないエリーナがフンスと胸を張っているので彼女のお奨めなのだろう。

 でもいやにひらひらが多いんですけどこの服。

 あとボク確かズボン頼みましたよね? なんでスカートなのかな? 間違っちゃったのかな? おっかしいなー!



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