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01,



 ボクは今首を思いっきり傾げている。

 それはもう疑問で頭がいっぱいだからだ。

 漫画でよくある疑問の表現だけど、実際にやる人は少ない。

 でもボクの新しい体(・・・・)は自然とそうなってしまうらしい。

 ただそうは思っても自然とそうなってしまうのでどうしようもない。


 さてボクが疑問に思っている事を順に確認して行こうと思う。

 1度にいくつも考えても解決に導くための処理能力が低下しちゃうからね。

 それに確認をするのはとても大事だ。

 ついでだから声にも出そう。


「まずは……ここどこ?」


 鈴を転がしたような高くて軽やかな声。

 自分の声を録音して聞くと全然違う声になるのは知っているけど、それにしたってこの声はボクの声じゃない。いや、新しいボクの声ではあるので、一応ボクの声なんだけどね?


 声の事はひとまず置いておいて、この疑問を考えよう。

 ぐるっと見回せば今ボクは白い部屋にいることがわかる。

 色々な疑問をすっ飛ばして考えれば、この疑問の答えは白い部屋。


 でもやっぱりこの結論に導くために通った道に疑問がありすぎるし、簡単すぎて答えになっていないので却下かな。


 まず、ボクから見てもちょっと大きい机、椅子。

 よじ登らないと座る事も出来ないような椅子だし、さらに頑張らないと机の上を見ることすらできない。

 持ち主は相当大きな人なんだろう。


 という結論もありかもしれないが、残念ながらボクの体を見下ろしてみると答えが簡単に出てしまうんだ。

 新しい体と言ってる時点でもうお察しなんだけど、ボクの体は記憶にある体とはまったく違っている。

 多少なりとも筋肉がついてちょっとごつごつしていた腕が、ぷにぷにだ。

 手を開いてみればもみじのように小さい。そしてやっぱり、ぷにぷにだ。

 足を見ても、ちっちゃなあんよがぷてんと鎮座ましましていて、ぷにぷにだ。

 陸上部で鍛え上げた見事な下腿三頭筋はどこへやら。見事に、ぷにぷにだ。

 太く立派だった大腿四頭筋なんて見る影もなく、ぷにぷにだ。


 さらにそこから視線を上げれば……もさもさの未開のジャングルにいたインド象は家出をしてしまったらしい。

 さらに未開のジャングルは綺麗に整地されて見事な『聖地』へと変貌を遂げている。


 ……ふむ。自分のを見てもピクリとも反応しないね。その反応するものが家出中なんだけど。


 もう少し視線を上げるとシックスパックとはいかないまでも薄っすらと割れていた腹筋は見事なつんつるてんで、ぷにぷにだ。

 ちょっと首が辛いけどもうちょっと視線を上げてみると見えるのは少しだけ傾斜がつき、頂点にさくらんぼが鎮座している夢と希望が詰まっているアレ。


 ……学術的好奇心で検証してみたけど……ぷにぷにだ。ぷにぷにおぶぷにぷにだ。


 さてここまで観察すれば真実は1つというわけだ。

 ボクの記憶が正しければ……ボクは男だったのだ。

 でも今はぷにぷに幼女。


 ほら、新しい体でしょ? 汚れたら取り替えてきっと悪いアイツも一撃さ。


 ぷにぷに幼女なのだから机や椅子が大きいのは理解できる。

 大人サイズは子供にはみんな大きいものさ。


 だから部屋に置いてある器具が全て大きめの大人サイズなのは、まぁいい。

 でもボクが寝ていたベッドがちょっと問題。


 普通のベッドとは異なり、卵型で色んなコードがついていて、上半分くらいを覆えるプラスチックのような感触の透明な蓋がついている。

 ボクはこんな感じのベッドに見覚えがある。


「コールドスリープ装置的な?」


 わざと声に出してみたけど、予想以上に陳腐だ。

 例え自分の体が見覚えのないぷにぷに幼女でもさすがに陳腐すぎる。

 ちょっと溜め息吐いても仕方ないくらいだよね。


 だって映画や漫画じゃないんだから。


 溜め息と共に色んな疑問も抜けていってしまったのでなんだか気が抜けてしまった。

 突然体が変わってしまっても特に恐怖もないし、何より落ち着いている。

 とても不思議だとは思うけれど、この部屋にボクしかいないので疑問に応えてくれる人はいない。


 卵型のベッドの上に立って部屋を見渡してみても何かの研究室? としか感想がでない。

 一体何の研究をしていたのかはボクにはまったくわからない。


 いや、卵形のベッドが部屋の中央に置かれていることからもボクの研究をしていた?


 でもやっぱりわかるのはその程度。


 ボクが起きてもう30分以上は経っていると思うけど誰も様子を見に来ない。

 どこかにカメラでもあるのかと探してみたけど、ボクの手が届く範囲はそれほど広くないわけで。

 結局やっぱりよくわからない。


 そろそろ部屋の外に出てみるべきだろうか。

 一応扉はあるんだよね。

 ただ近未来映画とかに出てきそうなタッチパネルがついている、プシューとか開閉音がしそうな感じでスライドしそうな扉だ。

 ロックとかかかってそう。


 でも何もしないよりはマシ。


「男は度胸! あ、今幼女だった!」


 突っ込んでくれる人がいないから仕方なくセルフで突っ込みを入れて、ちょっと背伸びをしながらタッチパネルをぷにぷにの指で突付いてみた。

 ……反応なし。


 首を傾げて次へ。

 自動ドアかもしれないのでタッチパネルじゃなくて、ちゃんとドアの前に立ってみる。

 ……反応なし。


 取っ手やノブもないし、引っ掛ける部分もないので手動であけるのは無理っぽい。

 ……あれ? 詰んでない?


「どうしよう……」


 一言呟いてみたけど、それで事態が好転するわけでもない。

 現状差し迫った危機があるわけでもない。あ、でも水や食料は必須だよね。トイレだって部屋でするわけにもいかないし……。


 仕方ないので部屋の探索をもう1度してみる事にした。

 今のボクにとってはちょっと大きい机に、椅子やその辺に落ちてた何に使うのかよくわからない物を駆使して机の上になんとか顎を乗せてみた。


「なんか発見!」


 卵型のベッドの上からじゃ見えない机の奥の位置に何やら円筒形のガラスケースみたいなものがあった。

 机の上には他には何もない。

 円筒形のガラスケースの中には白い長方形の物体が浮いていて、なんだか見覚えがあるようなないような。


「あ、スマホか」


 そう、ボクが見た感じではスマホだった。

 でもただの長方形の物体という可能性も否定できない。

 机の上に辛うじて顔を出しているだけのボクの位置からではそれほどよく見えないのだ。


 やっと身近な物が出てきたのでちょっと興味が沸いたので必死に机にしがみ付いて登ってみた。

 この机、引き出しとかないから登るのに結構苦労した。

 まったく、もっと低く作ってほしいよ。


 ちなみに椅子の上に立つのは危険だと判断したので使ってない。だってキャスター付きで机の上に顎を乗せるときもガタガタしてたし。


 さて何はともあれこれで机の上に乗れたので円筒形のガラスケースを色んな角度から覗いてみた。

 スマホだったら電源ボタンやボリュームボタン、カメラやスピーカーがあるはずなんだけど……ない。


「……スマホじゃないのか……」


 ちょっと意気消沈して悲しい声が出てしまった。

 でもそうするとこれなんだろう。ただのインテリアなのかな。

 半円のガラスの中にミニチュアを入れて飾るお土産みたいなものだろうか。


 まぁこれ以上見ていても何もわからないし、もし本当にインテリアなら時間の無駄だ。

 ちょうど机の上まで来たんだからここから部屋を眺めて……と円筒形のガラスケースに手を置いたときだった。


 長方形の物体の上に何かの絵が出現した。

 ロゴマーク?


 出現した絵は数秒で消えて、すぐに画面はブラックアウト。

 かと思ったら画面から妖精が(・・・)飛び出してきた(・・・・・・・)


「へ?」

「生体認証NNTZ7UR1を確認。

 コードE8V10Xを実行。失敗。

 コードER82LIを実行。失敗

 コードEGH7Y1を実行。失敗

 コードE41OPWを実行。失敗

 コードEVN786Vを実行。成功。

 マスター設定をNNTZ7UR1に移行しました。

 初めまして、マスターNNTZ7UR1。

 エリーナは『エリーナ』と申します。以後よしなに」


 突然飛び出してきた妖精は目をチカチカさせながら何やらよくわからない事を機械的に喋ったあと、ペコリとお辞儀をしてきた。



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