表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

星森の英雄

作者: 三俣優哉


 それは遠い遠い昔の事。人々が地平の果てを知り、空の天蓋に触れた頃。


 ある大陸の端に、小さいながらもとても美しい王国が在りました。


 世界を護る天蓋に最も近く、星の欠片が頻繁に森に降り注ぐ事から、星森の皇国と呼ばれるその国は、小さな繁栄を享受し、穏やかな日々を過ごしておりました。


 ですが、そんなある日の事でした。

 世界の果てを知った人々が戦争を始めたのは。


 彼らが争う理由は単純でした。少しでも多くの土地が欲しい。少しでも豊かになりたい。求める願いは何時しか欲望となり、大陸を、世界を覆いました。


 水面に落ちた石は轍を生み、反響した戦いの波紋が、星森の皇国に届くのも、そう遠い日の事ではありませんでした。


 国は不安に呑まれました。平和であったが為、対抗の手段が殆ど無かったからです。あるものと言えば、王家に仕える騎士団と天蓋から落ちる星の欠片のみ。魔法が発達し始めた世で、魔法による兵器が存在しなかったのは致命的と言えました。


 日に日に大きくなる不安、星森の王女はこの事態を憂い、悲しみました。しかし、民を思いながらも、王女に出来る事と言えば祈り、願う事のみ。


 だからこそ彼女は誰よりも強く祈り、願ったのです。


 救国の英雄が現れる事を。


 その時でした。王女の見上げる空から、一条の星が落ちてきたのは。


 星森の皇国では、星が落ちてくる事自体は珍しい事ではありません。


 ただ、無数の剣を携えた人間を星と呼べるのなら、ですが。


 一切の音も無く、光輝く剣を纏った人間は、呆然とする王女の前に降り立ち、言ったそうです。


「この剣のある限り、私は貴女の望む者を護ろう」と。


 その日から、空より舞い降りた人間は国の為に、王女の為に戦い始めました。


 幾多の戦場を駆け、味方に只一人の死者を出す事も無く。星の欠片によって生み出された無数の剣を、一振り一振り犠牲にするように振るい続けました。

 星屑の一閃は誰かを護る為に消え。誰かを奪う為にその数を減らします。


 何時しか人間は星森の英雄と崇められれ、文字通り救国の英雄とまで呼ばれました。

 民の不安は消え、笑顔が戻り、星森の皇国は平和を取り戻しました。そして、何もかもが良い方向に廻り始めた、かのように見えました。


 季節が巡りました。英雄は王女に仕え、剣護の騎士と呼ばれるようになり、幸せと呼べる日々が過ぎます。

 しかし、それは容易く壊れました、皮肉にも英雄が皇国に降り立った日に。


 英雄が駆けつけた戦場、皇国の深くまで侵攻されたそこは酷い有り様でした。優秀な資源である星の欠片、それを狙った大陸の国々による蹂躙の後。

 英雄は戦場を駆けます。無数であり、無限でない剣を何処より呼び出し。振るい。三日三晩の間戦い続けました。


 黄昏を超え。月の無い夜を抜け。全てを護り続けました。

 しかし、それも限界でした。彼は護る為に剣を犠牲にします、無数であり有限の剣は数を減らし。彼の手元に残された剣は僅か一振り。自らを護る最後の剣のみ。


 ですが、命の天秤に触れた彼は悩みませんでした。

 その一振りは自分の為に使わない。

 願わくば、愛する人を、愛した物を護りたい。


 英雄は自らの全てを賭け、大地に剣を突き立てました。


 溢れ出た光の奔流は、国全体を覆う程の光の波となり空へと消えます。

 平和と、大切な何かを護り、大切な誰かを失わせた星森の英雄。


 彼が生きた意味を知る事は出来ません。ですが、自らを想う人の涙を彼が知る事は無かった。それだけは歴史の片隅に残されています。


 そして、英雄は知りません。自分が騎士の憧れとなった事を。

 星森の皇国が、彼女が、今も帰りを待つことを。




魔法使いの始め方以後、久しぶりに書きました。

あとがき思い浮かばず。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ