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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第5章【天岩戸】

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3話【贖罪】

――科学部隊・研究棟・隊長室――




白い光が、容赦なく差し込んでいた。


窓の外――光の鉄塔が白濁した空を支え、影を許さぬ都を維持している。


その光は、優しさではない。


逃げ場を奪う光だった。


まるで――罪を暴くように。




窓辺に座る白衣の男は、目を閉じる。


思考の中で、あの言葉が何度も繰り返される。


『光が強ければ強いほど、影は濃くなります』


否定されなかった。


だが、受け入れられもしなかった。


ただ――踏み潰された。




彼は、幼い頃から科学が好きだった。


壊れた玩具を分解し、構造を理解し、直す。


元通りに動いた時。


周囲は驚き、褒めた。


その笑顔が、嬉しかった。


――人の役に立ちたい。


その想いだけで、彼は科学部隊に入った。


電子刀。


ホバーブーツ。


自動追尾の矢。


ジェットパック。


多種多様なものを開発した。


彼の手で生み出された技術は、確かに人を救った。


称賛された。


表彰された。


誇りだった。


だが――


その裏で。


彼は、怪人を解体していた。


バイオ技術との融合。


秘薬。


増強剤。


人体への応用。


そのすべてが、“素材”の上に成り立っていた。




怪人は危険な存在。


人類の敵。


だから――犠牲は正当化される。


そう教えられてきた。


そう信じていた。


だから。


罪悪感は、なかった。


――あの時までは。




――回想――




対怪人部隊に捕らえられた怪人は、

虐待、拷問、壊される。


そして、

利用価値のある者だけが、研究棟へ送られる。




その日。


彼は、雨の怪人――雫の研究をしていた。


対怪人部隊によって、焼かれた両手。


薬品に侵され、皮膚が崩れた指。


その皮膚を採取する。


焦げた肉の臭いが、雫の黒髪にこびりつく。


雫は叫ばなかった。


声を上げることすら、許されていないように。




そこへ――


結月が運ばれてきた。


潰れた眼球。


血の涙。


憔悴した顔。


雫と同じ牢獄へと投げ込まれる。




総代からの直令。


「未来予知の神通力を解明しろ」


彼は、雫の研究を中断した。


迷いなく。


当然のように。


組織の歯車として。




――検査中。


結月の手に触れた。


その時。


「……貴方。娘を授かるわ」


唐突だった。


あまりにも静かな声。


それでも、確信に満ちた声だった。




彼は苦笑した。


非科学的だ、と。


そう切り捨てた。


だが。




「私は……成長した我が子を見たかった……」


続く、弱々しく、絶望した声。


空気が重くなる。


項垂れる。




その時は、理解できなかった。


だが。


帰宅した夜。


妻が震える声で言った。


「……できたの」


妊娠。


現実が、言葉に追いついた。


胸の奥。


あの言葉が突き刺さる。


抜けない。


消えない。




――事件の日――




研究棟は、混乱していた。


「結月が脱走しました!」


報告が飛び込む。


彼は走った。


牢獄へ。


そこにあったのは――


黒い染み。


そして、雫。


結月はいない。


雫と目が合った。


ひび割れた顔の悲しげな目。


逃げ場のない視線。


その瞬間。


彼の中で、何かが崩れた。




……沈黙。


彼は、決断した。


混乱に乗じて。


雫を連れ出す。


出口で、振り返らない。


ただ、秘薬を渡した。


「強く生きろ」


それだけ言った。


それ以上は、言えなかった。




――数ヶ月後――




娘が生まれた。


小さな手。


かすかな呼吸。


指を握る、弱い力。


涙が溢れた。


妻と笑った。




だが――


『成長した我が子を見たかった』


その言葉だけが、消えなかった。


胸を抉る言葉。


自分は見ることができる。


しかし、

結月は――奪われた。


自分たちが奪った。




――現在――




窓の外。


白い光。


影を許さぬ都。


だが。


胸の奥には、濃い影がある。


消えない。


消せない。




「光と影は表裏一体……」


静かに呟く。


「切り離すことは、できない」


それは理論ではない。


実感だった。




机の引き出しを開ける。


娘の写真。


笑っている。


未来を信じている顔。


それを見つめる。




――結月は、見られなかった。


その現実が、指先を震わせる。


写真を、鞄に入れる。


秘薬も数本。


そして。


未公開の防具。


高性能忍装束に、袖を通す。


カチッ。


ホバーブーツを装着。




最後に――


二本の刀を手に取る。


神通力を宿す試作品。


あの日以来、人知れず開発したもの。


自分にしかできない"贖罪"の形。


もう、目を逸らせない……




キュイーン――


起動音が静かに響く。


彼は立ち上がる。


もう戻れないことを、理解したまま。


窓から。


白い光の中へと、飛び立つ。


舞い上がる風。


赤光を引いて滑り去る。




そして――


組織の歯車は外れた。


彼は、光統院から姿を消した。

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