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「?!」
(こんなの聞いていないわよ!!)
ファーレも聞いていなかったのだろう、握り続けていた手を更に強めに握ってくると、浮かべている笑みを深くした。
(本当にもう限界なのよ……。)
一瞬休ませた顔を急いで笑顔を作り直し、痙攣により感じていた痛みが再び襲ってきたが、鞭を打ち笑顔を固定をする。
(私は今、笑っているのかしら……。)
濃桃の桜銭が舞い散る教会の庭園の歩道を、先程よりもゆっくりと進む神輿の上で、痛みにより感覚が無くなってきた笑顔のまま手を振り応えていると、少し進んだ先の列の手前にはパメラ、アミ、メイト、カメラートが“おめでとう”と複雑そうな表情に涙を浮かべ声を掛けてきた。
(本当ならもっと簡素な式で皆とも話しが出来たはずなのに……。)
微妙な気持ちになるが、婚姻式でのファーレの行動に、引き攣った笑顔を見せる人達もいる中、光家が当たり前のように、それ以外の将家家長とその夫人も不自然な様子を一切見せることなく自然に微笑む姿に、招待している側としてそれは許されないだろうと、気持ちを立て直し、下がりそうになる眉に力を込める。
(想像もつかないけれど……私もいつかこうなるのかしらね……。)
その表情に尊敬の念を持つが、それと同時に恐怖も感じ、これからこの人達の仲間入りをしていくのかと思うと、今直ぐに神輿から降りてしまいたい衝動に駆られた。
強く握られた手と今も囲うように撒かれている桜銭に、それはもう難しい事だと諦めて、手を振り続け教会の庭園をゆっくり過ぎて行く。
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(もう少し前の方に行くべきか……。)
教会の入り口前にいたオクラドヴァニアは胸元から懐中時計を取り出し時間を確認すると、少し眉間に皺を寄せた。
「先程から時間を確認されてますが、この後何かご予定があるのですか?」
「いえ、特には……。ただあまりにも時間が掛かっているので、少し気掛かりではあります。」
近くに居たボイティの兄であるエレミタが、人好きそうな笑顔をこちらに向け話しかけてきた。
当たり障りのない理由を告げると、瞳の奥が少し揺れた気がした。
「妹がですか?」
「ええ、何やら顔色が悪かったようなので。」
「まぁ、……あの式では仕方がありません。」
「……そうですね。」
エレミタの言葉が心に突き刺さるが、この状況に返す言葉はなく、ただ相手の意見に同調した。
「そう言えばオクラドヴァニア様は、妹に会いに屋敷に来ていたようですが、どんなご要件だったのですか?」
「……今回の件の謝罪が主な理由ですが、一緒に飲もうと思っていた珍しい茶葉をお土産にお持ちしました。」
笑みを深めたエレミタが何かを探っているのか、ただ気になっただけなのか、分からないながらも、会いに行った理由を説明すると、少し考え込むように顎に手を当て上を向くと、何か思い出したのか目を見開いた。
「あぁ、そう言えば今日付き添っている侍女がそのような事を喋っていましたね。とても美味しかったと言っていましたよ。」
「……それは喜んで頂けて良かったです。」
本当にただ気になっただけなのかと、お茶の感想を素直に受け止め礼を返し、遠くの庭園で桜銭が舞う様子が横目に映るのを確認して、間に合いそうだと‘‘ホッ’’と安堵した。
「因みにどちらの品なのですか?妹がとても気に入っていたようなので、出来れば今後も手に入れてやりたいと思いましてね。」
「それは……」
「「「「「おめでとう!!!」」」」」
再び声を掛けられたエレミタのその瞳の奥が怪しげに光るのが見えると、渡された時の言葉と情景を思い出し、少し喉に引っかかりを覚える。
すると、丁度良く近くで歓声が上がりそちらに顔を向ける。
「「………。」」
華やかな桜銭と色とりどりの花が咲き乱れる庭園に浮かぶ神輿の上で無理をしているのが分かる彼女のその笑顔が、こちらに向けられた瞬間崩れ、今にも泣きだしてしまいそうな表情を一瞬浮かべた。
直ぐに戻してはいたが、瞳に涙を浮かべた表情に、ボイティの兄と共に言葉を無くした。
その様子に、湧き上がる悲痛な思いを抱え静かに神輿を見つめた。
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(お父様……お母様……お兄様……オクラドヴァニア様……。)
もう載せている話の誤字脱字や抜けがあったところの訂正を今から始めます。
更新が続きますが3章ではないのでご注意下さい。
黒色の続きはまた明日上げます。




