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幸せが約束された白色の婚約はその嘘により手から零れ落ちる。  作者: 唖々木江田
逃げ場の無い黒色の婚約は執着により旅立ちを迎える。

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(本当に……。)




広い街路の奥の方に、まだ遠く小さかったが、聳える教会の門が微かに映るのが見え始めた。

どこまで進んでも桜銭が大量に舞い散るこの風景も残り僅かだと思えば、様々な思いが込み上げてくる。




(引かない項の痛みも、担いでいる人達から発せられる緊張感も、胃に穴が空きそうなこの演出も、もう自分では抑えられない顔の痙攣も、本当に、本当に辛かった……でもようやく……ここまで……)




ゆっくりとだったが、着実に進む神輿の上から、外傷も、精神も、内臓も、顔も、限界まで耐えた顔見せの儀からやっと解放されるのだと心から安堵した。

それにより気力は切れかけ、堰を切るように瞳は潤む。

抑えられず込み上げてきた感情が零れ落ちそうになり、振る手を止めて拭うと、その様子を見ていた周りからは何やら興奮した声が上がり、聞こえていた声が一段と大きくなっていく。




ーーあら?花嫁さん……




ーーこんな素敵な婚姻式だもの感動しちゃうわよね。




ーーそう!これで最後かって何か込み上げてくるのよね!!




ーーなんかッ私まで泣けてきちゃう……。




(………。)




瞳を潤ませたのは、愛でも感動でもなく、ただ肉体と精神が悲鳴を上げた結果の現象だった。

しかし、それを拭う仕草を花嫁の感涙として、集まった人達は受け止め、大きな盛り上がりを見せた。




ーー花婿さんが心配そうに見てる……羨ましい……。




ーーやだ!!あんな顔で見られたら!!




ーーこっちまで照れてきたわ……!!




隣のアレを見なくても感じられる熱視線と共に、繋がれた手に更に力を込められると、人々の盛り上がりは輪をかけ異常なまでに膨れ上がる。




(違うと大きな声で叫んでしまいたい……。)




最後の最後に複雑な気分を抱えることになった顔見せの儀は、その後も大量のお祝いと大きな祝福の言葉をかけられながら、出発した教会の門の前へと時間を掛けて到着し、神輿は集まった人々の正面に向きを変え止まった。




「これにて顔見せの儀式は終了致します。新たなる夫婦の門出の儀にご参列頂きました皆様、誠にありがとうございました。」




教会門の前で長い権杖を手に待っていた神父が、本日街路に集まってくれた人達に声を掛け終わるのを待って、神輿上から一礼する。

それに合わせて、街路を覆い埋め尽くさんばかりの桜銭が上空から大量に降り注ぎ、教会の門が再び重たい音を響かせながら開いていくのを背後で感じた。




(……此処までくるともう祝われているのかすら疑問になるわね。)




集まった人々の顔も見えなくなる程に目の前を覆い尽くす濃い桃色が目立つ桜銭が、ヒラヒラと舞う光景を開いた掌にも感じながら眺め、まるで張られていく帷帳の様にも思えた。




「……皆様におかれましても、本日が良き日になるよう祈っております。」




‘‘カァ…ン’’と小さく鳴った神父の権杖による合図で教会職員達は抱えた神輿を反転し始める。

彼らの表情は街路を回っていた時よりもいっそう厳格に引き締まり、纏う空気は‘’ピィーン‘’と張り詰めたものへと変化した。

しかし、神輿の上でようやく気を緩めていた二人は、担ぎ手である教会職員達のそんな変化にまで、気付く余裕はなかったーー。




(後は、列席者の方々を見送って、教会を出てからスヘスティー家へと向かって、一度着替えてから屋敷でまた集まった方々と晩餐を………え?)




未だに後ろで舞っている大量の桜銭で隔たれた人々に背を向け、神輿が出る時に眺めた教会の歩道が少しずつ広がっていくその光景に、痙攣の止まらない顔をようやく真顔に戻し、一息つこうとした瞬間だった。




ーーヒラ〜ヒラ〜ヒラ〜………




開く扉の死角から、不吉なほど鮮やかな濃い桃色が舞い込んだ。




「「「「「「おめでとう!」」」」」」




突如響き渡る祝声。

そこには、おかえりと言わんばかりに濃桃色の桜銭を抱えた列席者たちが、満面の笑みで整列していた。




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