⑨
「………。」
(今何着目なのかしら…。)
「お嬢様、本日のお茶会は中止になるとまた私に嘘をつきましたね?」
リアンに次の相手について聞き終えたアンキラは、入口からは見えなかった巨大なクローゼットに変わった部屋に用意された台の左右にも残された通路から衣装と装飾品を持ってくると、無言のまま数十着分合わせ続けた。
リアンにも手伝ってもらいながら着せ替えられた衣装が仮で決定したのか、ようやく口を開くと、拗ねる様な視線を向けてきた。
「……嘘と言うよりは、貴女は入ってまだ一年も過ぎていないでしょう?それなのにお茶会が決まる度に毎回衣装と装飾品を用意して真剣に選んでくれるから、私に言えないだけで本当は疲れているのでは無いかと心配になってしまうのよ。」
アンキラに困った様に告げると、疑うような表情をしながらも、一番日が浅い事は自覚しているのだろう。
表情も拗ねたものになった。
「お嬢様、以前も申し上げましたが私はお嬢様を着飾らせる事に至福を感じております。ですので今後一切その様な気遣いは無用です。」
「…そう…分かった。なら貴女が疲れたと言わない限りは、全て貴女に任せることにするわね…。」
「ええ!是非お任せください!」
(今後も何かあれ衣装を合わせなければならないのね…。)
もう衣装選びを以前のように侍女任せに出来ない状況が決まり、嬉しそうなアンキラに脱力を感じて、落ちそうになる肩に力を入れた。
「やはり、お願いしていた髪飾りがまだ届いていないみたいですので、今回はこちらで…、妥協して…、でもやはり…、ああ…、全て一つのお店で揃えばこんなにも悩まなくても済みますのに…。」
「………今挿してくれているこの髪飾りとても素敵だと思うわ。これが良いのではないかしら?」
(明日もは絶対に無理よ!)
日が長いビッダウ国でもそろそろランタンに火を灯さなければならない時刻になり、今日で終わらせるために黙ったまま耐え抜き、漸く決定しそうな衣装と装飾品を見つめている、拘りの強いアンキラの瞳に見えた陰りに焦りを感じる。
「動く度に揺れる大ぶりの朴紗石が使われているのは素敵ですが、今回は裾の長い少し大人びた衣装に致しましたので髪飾りはお嬢様のご年齢に合う可愛らしい大きめな花が造形された物にしたかったのですが…、本当に…、本当に!残念ですが…、お嬢様がお気に召したのなら、次回のお茶会の衣装はこちらで決定致しましょう。」
「ええ!とても気に入ったわ。」
細長い白石の下だけが赤く大振りな宝石が揺れるようにあしらわれた髪飾りを見つめ、まだ何処か納得がいかず暗い顔をしているアンキラに礼を伝えたが、その表情は晴れなかった。
「アンキラ…今度外出する時は貴女を連れて宝飾店に寄るから、次に何かあった時に合わせやすい装飾品を選んで購入して頂戴。だからそんなに落ち込まないで…。」
「っ?!………リアンさん、スルジャさん、マーデカさんがいらっしゃる時でしたら我まっ…是非ご一緒致します。」
(ガマって…一体何かしら?)
「…お嬢様、間もなく夕食のお時間でございますので、一度お部屋に戻りドレス替えを致しましょう。アンキラここの片付けをお願いね。」
「はい。」
「ではお嬢様参りましょう。」
「…ええ。」
悲しそうな表情を浮かべていたアンキラに思いついた提案を口にすると、少し固まったように見えた表情は直ぐに真剣なものへと変わり、不思議な言葉が混ざった返答に引っかかりを覚えたが、リアンに促され疑問を口にすることなく、フィッティングルームを後にした。




