㊳
「少し動きます。お二人共お気をつけ下さい。」
私達が神輿に乗ったのを確認すると、教会職員達によって肩に担がれ、移動の確認が始まった。
私が生まれるより前には、上空に浮かんでいたという桃色の巨木から花弁が舞い散る風景。
それを、壁一面の大部分を占めるステンドグラスが、様々な場面を切り取って描き出していた。
「……。」
その儚い風景に思いを馳せ見入っていると、握られている手に力が込められた。
意識を隣にむけ横目で覗けば、それの表情は厳しい物に変貌していた。
「どうしたの?」
(今度は何かしらね……、あまり外に出てから不機嫌になられても困るわ……。)
「ボイティ……君を奪いに来ないなんて、そんなこと誰にもわからないじゃないか。」
声をかけるのも面倒に思ったが、先程から続く容認し難い行動を外でされたら耐えられる自信はなかった。
先にその表情の理由を尋ねれば、あまりにも拍子抜けのする答えが返ってきた。
「……まだそんな事を気にしているの?」
(私の名を聞いて、泣きながら大金を諦める人が多いらしいけれど……。モイヒェルはこれに話していないのかしら……。)
「……あぁ……でも……いや……そうだよね……大丈夫……だって……」
「………。」
‘’ブツブツ‘’と何やら喋り始めたのを確認して、視線を再びステンドグラスに戻し眺めていると、考えても仕方が無い事が浮かんでしまう。
(全く知らない相手を、何の利もなく連れ出そうなんてしないでしょう。それよりも怖いと断ってくるほどの相手に一体誰が立ち向かってくる!?……父と母と兄ならやりかねないけれど、今日ではないわね……。)
先程の表情を思い出し、もしかしたらと思うが、動くとしても婚姻後に自分が逃げ出してからだろうと、眉を寄せ一人静かに頷き納得していると、次は握られた手を引かれた。
「なに?次はどうしたの?」
「ボイティは花嫁なのだから、そんなに難しい顔は似合わないよ。笑って。」
「!!!!!????………。」
(本当に世の中には、一番言ってはいけない人の言葉って、あるのね……。)
何やら悩みは解決したのか、手を引かれて痛む首を圧して横を向けば、既にご機嫌な表情に戻っていた。
伝えられた言葉に、一瞬眉間に皺が寄るが何とか耐えると、繋がれていない方の、先程まで力を込めていた手元を無表情のまま静かに見つめる。
「確認が終わりました。お二人共市街に向かいますので、お気をつけ下さい。」
教会職員に声を掛けられ、乗っている神輿が動き出す。
ステンドグラスを名残り惜しく見つめながら、裏の入り口から教会を出ると、様々な植物や白い花が咲き誇る広い庭園が目の前に広がった。
(我が家とは違うけれど、綺麗な庭園だわ……。)
神輿が通る舗装された広い歩道の脇には、教会職員の腰ほどに整えられた白い花の生け垣が立ち並び、その奥には様々な花が植えられた花壇が並んでいた。
どの花壇も白を基調とした、教会らしさを感じさせる造り。
しかし、強制されているような息苦しさを感じたのはきっと、このドレスを脱ぎ捨てたいと未だに私が思っているからだろうーー。
なんとなく気落ちしながら見つめた庭園を抜けて、街路へと続く厚みと高さのある扉が見えて来た。
(……既に声が聞こえて来るわ。……一体どれだけの人が集まっているのかしら?あぁ、……胃が痛くなってきた……。)
隔てた先から聞こえてくる大勢の声に緊張が高まり、扉前に到着すると、唇を引き上げる頬に力を込める。
そして、“ギ、ギギギギギギィーー”と重い音を鳴らして、教会職員達によって扉は徐々に内側に開かれていく。
広がる隙間から覗く景色に心臓の高鳴りも一緒に、どんどん速いものになっていく。
「出てきたぞ!!」
「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」
「「「「「おめでとう!!」」」」」
(………すごい。)
「………。」
間近で浴びる大歓声と共に視界を埋め尽くしたのは、濃桃から純白まで狂い咲くように至る所で大量に舞い上がる桜銭だった。
「……。」
「綺麗だね……。」
目の前を染め上げるその風景に圧倒され、来てくれた人達へ礼を伝える為の手振りも忘れて、ただただ呆然とその風景を見入っていると、ファーレの囁くような声が聞こえ我に返った。
横目で確認すると、絡みつくような熱のこもる瞳をこちらに向けていたが、あれは私の視線に気がつくと、唇を上げ正面を向き直し、笑顔で手を振り始めた。
その様子に、私も頬に力を込め表情を作り直すと、続くように手を振り始めた。
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(それにしても、いくら何でもこの量は異常よ……教会職員達がとても辛そうだわ…。)
教会の周りにある街路を一周して終わる顔見せの儀は、既に終了するはずの時刻だった。
それなのに、教会の表口手前に設置されている格子状の門が、ようやく神輿から見えて来た所だった。




