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「皆様、今回のスヘスティー公将家ご子息の発言は、私の顔に免じて許してくれないだろうか?」
「「「「「「「………。」」」」」」」
あまりにも大きくなる罵詈雑言に、静かに声を発したのは光家の家長であった。
「?!」
「何故貴方様が!?」
「いくらスヘスティー公将家が力を持っているからと言って、今回の件を貴方様が謝罪する必要が?」
「そう言う訳ではない。ただ皆も、いつもの彼のことを、知っているだろう?」
「「「「「「「「「………。」」」」」」」」」
光家家長の問いかけに、何とも言えない表情で皆一同に黙り込んだ。
「本来ならばもう少し期間を設けてから、落ち着いて式に臨める筈が、我が娘、パフィーレンの輿入れにより時期が早まり、神経を尖らせてしまっているのかも知れないと思っただけだ。特別に扱っているつもりはない。」
「確かに……。しかし、それでも……」
「言いたいことは分かりますが……。」
「分別と言うものがありますから……。」
「まだ卒業して間もない。それに、これからのビッダウ国を支えるために必要な人間を育て、見守るのも我が家の務めだ。それは、此処にいる全ての者達にも言えることだがな……。」
そう畳み掛けるように言葉を発した後に、光家家長は優しげな微笑みを浮かべ、それぞれの家長の隣にいる子息・令嬢を見渡した。
その視線を受けて各家長は、自分の子供に視線を向けると、眉間に皺を寄せ始めた。
「そう言われると我が家もまだ……。」
「少し駄々をこねただけと言われれば……。」
「日がなく心に余裕が無くなったと言われれば……。」
各々思い当たる節がある話に、頭を悩ませながらも何処か納得を示し始めた。
その様子を眺めていた光家の家長は、スヘスティー公将家家長に目配せをした。
「……皆様、この度は私の息子が失礼な発言をしてしまい申し訳ない。教育の不足は私が今後埋めていくことをここに誓おう。」
「まぁ、私も大人気なかったかもしれない……。」
「私の子供達に比べれば。まぁ……。」
「それだけ花嫁への愛情が深いのかもしれないしな……。」
「今は、まだ未熟な我が息子のこの良き日を、どうか最後まで見届けて欲しい。」
「「「「「「「………。」」」」」」」
頭を下げたスヘスティー公将家家長を、会場に居た人々は声を発することなく静かに見つめた。
「元々そのつもりですよ。」
「私達は友人の婚姻式に招かれて来ただけだから、この後も参加するわよ。」
「ええ、そうですよね。」
「私、ボイティのお陰でとても良い婚約者と結ばれましたので少し思うところはありますが、今はまだ、関係ありませんので。」
ボイティの友人達が、その静寂を破るように各々喋り始めると、張り詰めていた雰囲気が柔らかいものへと変化した。
そんな子供の様子をそれぞれの家の家長達は仕方なさそうな顔で眺めた。
「では、……そろそろ一度休憩用の部屋に行こうか。」
「そうですわね、旦那様。」
「お話はまた日を改めて、お願いしますね。」
ボイティの父ファトゥがスヘスティー公将家家長に声を掛けると、花嫁側の親族達が立ち上がり移動を始めた。
それに続くように周りの列席者達も次々と式会場を後にしていく。
「父上この後もありますし、私たちも参りましょう。」
「あぁ、そうだな。」
光家家長は息子に声を掛けられると、おもむろにスヘスティー公将家家長に近づいた。
「ご子息は、とても良いお嬢さんを選ばれたようだね。」
「……はい。」
スヘスティー公将家家長は下げていた頭を上げて、光家家長を真っ直ぐに見つめると、その言葉を噛みしめるようにしながら頷いた。
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(あぁ……婚姻式の衝撃で忘れていたわ。そう言えば、まだ終わりではなかったわね…。)
広間を出た後も、ひたすら機嫌よく通路を進むファーレに、抱きかかえられたまま何処まで行くのかと考えていたが、奥の方に見えてきた神輿によって、まだ婚姻を結んだ二人の顔見せの儀式が残っているのを、ボイティは思い出した。




