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ーー“カンッカンッ!!”
「………どうぞ。」
「お嬢様次回のお茶会で着る衣装合わせのご準備が出来ましたのでお呼びに参りました。」
どれくらいか分からないがそのまま少し微睡んでいると、部屋をノックする音が聞こえ、返事をすると、部屋に入って来たのは幼少期から仕えてくれている侍女のリアンだった。
「リアン……疲れているから衣装選びは貴女に任せるわ。」
「お嬢様、そうして差し上げたいのはやまやまなのですが…旦那様が本日非番にした筈のアンキラを呼び出しております。どうしてもとおっしゃるのでしたら、このお部屋に全てを持ち込む勢いで待っている彼女にご自身でお伝え下さい。」
「!?」
衣装選びはリアンに任せて再び長椅子で微睡もうとしたが、休みにした筈の侍女の名前が聞こえ反射的に視線を向けると、何とも言えない笑顔をこちらに向けていたリアンにため息とともに眉が下がる。
「それは……難しいわね…。」
諦めてソファから身を起こすと、重い体に力を入れて立ち上がった。
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ーー
《次のお相手は……
「…ああ良かった…。」
先程手にしたそんな言葉から始まる手紙を、執務用の机と椅子だけが置かれている閑散とした室内で、安堵の籠もる声が響いた。
ーーカサッカサッ
手紙を読み終わると渦のような八角形の模様が押された白い封筒に戻し、引き出しを開け数十通はあるだろう同じ封筒の上に重ねて引き出しを閉めた。
「あと……もう少しだね…。」
今度はどことなく切迫した雰囲気を感じさせる声で呟く。
その少年の髪色は、日が沈みゆく時に見せる燃えるような色だった。
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〜♫〜♬〜♪
(お茶会が終わった後のこれが辛くて今日は休みにしていたのだけれど……はぁ。)
リアンと共に重い足取りでフィッティングルームへ到着すると、中から聞こえてきた楽しげな鼻歌に、機嫌の良さそうな侍女の姿が浮かび、脱力を覚える。
「……お嬢様。」
「どうしたの?」
「今日で決まらなければ明日も…と、アンキラは嬉しそうに申しておりました。」
「?!」
前を向き表情が見えないリアンは白い扉の取っ手に手を掛けながら、不穏な言葉を告げた。
そして開けられた扉から見える室内の光景に、驚き言葉を無くした。
(これは……終わらせる気があるのかしら?)
広い筈の部屋は、真正面に人が一人通れる程の通路幅を残し、それぞれ別の部屋に置かれている膨大な衣装と装飾品が並べられていた。
そして長い時間でも耐えられるようにだろう、手を付いて休める台が通路奥に行き止まりのように用意されているのが見えた。
「お嬢様、お待ちしておりました。」
「アンキラ…今日は一段と気合が入っているわね。」
「ええ、先程迄半休を頂いておりましたのでとても調子がいいのです。」
「……。」
「お嬢様、さあ!こちらにお越し下さい。」
いつも以上にやる気に満ち溢れた侍女のアンキラに出迎えられ疲れは増したが、早く終わらせる為に多少棘が含まれている言葉を聞き流し、彼女の後ろを付いて行くと、静かに台の上に手を置いた。




