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幸せが約束された白色の婚約はその嘘により手から零れ落ちる。  作者: 唖々木江田
逃げ場の無い黒色の婚約は執着により旅立ちを迎える。

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そして教会に到着した現在、侍女達の手によって支度を全て仕上げられ、一人控室にいたが、婚姻式の時間が刻一刻と近づくにつれ、押さえ込み諦めた筈の感情が、どうしても嫌だと叫び出し、逃げ出してしまいたい感情に支配されていた。




(何が、‘’俺に怖いものはないから‘’よ!モイヒェルだってアレが怖いんじゃない!!!)




ファーレとの茶番劇が始まる前に言っていたモイヒェルの言葉まで思い出すと、既に侍女たちが丹精込めて整えた髪型は、見る影もない状態だったが、更に両手で掻き毟り、取り付けられていたクラルティダイヤが嵌め込まれた髪飾りが、‘‘ゴトッ’’と重たい音を立てて床に落ちた。




「……はぁ……。」




転がった髪飾りを拾うことなく見つめ、軽くなった頭に、衣装も今直ぐに脱ぎ捨てたい衝動にかられたが、カーテン一枚見当たらないこの控室では、それは出来ないと諦め、ため息を吐いた。




ーーートンットンッー。




(……一体何をしに来たのかしらね。)




部屋をノックする音が聞こえると、声をかける前に”ガチャッ”と扉が開かれ、苛立ちの元凶が一人幸せそうな顔で入ってきたのが鏡越しに見え、思いっきり顔を顰めてしまう。




「ボイティ…服は着ているみたいで残念だけど、髪は見る影もないほどだね。僕としては君の魅力的な首筋が参列者の目に晒される事が無いから、嬉しいよ。」




「…やめて頂戴。」




機嫌の良さそうな声で一歩ずつ近づいてくると、乱れた髪から一房掬いあげて自分の唇に当てたのが鏡越しに映ると、嫌悪感を覚え掬いあげられた髪を勢いよく引き抜き、身体を翻すと、ファーレを正面から睨むが、いつも通り気にする様子はなく、表情は蕩けるような笑顔のままだった。




「……それにしても、私が隣国で商売を始めたことをいつ知ったの?」




ファーレがあの日囁いてきた言葉は‘’フリーデンは僕から君への個人的な贈り物だよ‘’だった。

発表前にも関わらず、パフィーレン姫様の輿入れですら、号外として記事を上げた、国一番の情報屋であるシュランゲが、この国の者がオーナーなのではと、高い報奨金を掛け、情報を募っても未だ辿り着けていないのに、何故ただの公将家の子息であるファーレが知っているのか、大きな疑問だった。




「ん〜、教えても良いけど君からキスしてくれる?」




「………自分で調べるわ。」




首を少し傾け唇に指先を這わし、ニッコリと笑いかけるファーレに、これに何か聞こうなんて間違っていたと考え直し、身体の向きを背後の鏡台に戻そうと、横に向きかけると、それを阻止するように腕を掴まれ、もう片方の手は敏感な背中をツゥーーッと優しくなぞられ、いつも通り抑えられない声が口から漏れると、薄く開いたその唇に、ファーレが深く重ねてきた。




(?!本当に何なのこいつ!!)




そして、重ねた口の中は突然むせそうな程の甘みが広がり、何が起こっているのか分からず、抗議をするために、ファーレの胸元を力いっぱい押し返そうとするが、何故か力が抜けていき、足に力が入らなくなると、彼の服を掴んでまるで縋っているような状況になる。




(身体に…力が入らない……?)



 

長く続くそれに、完全に力が入らなくなった身体は、自分の意志とは関係なく、預けるようにして彼に凭れ掛ると、そのままゆっくり長椅子に寝かされ、ぼやけていた視界は次第に白い世界で覆われた。




(え?どうして急に……一体何が起こっているの!?)




「ボイティが…ようやく…僕のものになる……なんて幸せなんだ……」




ファーレの声が徐々に小さくなり、遠くから聞こえているような、はっきりとしないものに変わる。

全身の至る所を触られているような感触を微かに感じるが、身体の自由が効かず、自分の声が出ているのかどうかも分からない、まるで起きたまま夢を見ているような状態だった。




(何かされてる……?)




どれだけ時間が経っているのかも分からないが、聞こえていたファーレの声が途絶えると、少しの違和感の後チカチカと目の前に光が瞬くと、身体は急激に怠さを感じ、何故か喜ぶファーレの声が再び遠くから聞こえてきた。





(嫌…何……?怖い………誰か!!!)





まるで獰猛で狡猾な野獣が、見つけた獲物を死なない程度に痛めつけているような状況に不安を覚えると、目の前の真っ白だった風景が、よく知る人物へと変化し、助けを求めるように、声を上げた気がした。




(!!!!!)




その瞬間、急に頭が何かに締め付けられているのかと思うほどの苦痛に襲われ、周りの雰囲気を肌で感じられるようになったが、それはいよいよ捕らえた獲物で遊び飽き、とどめを刺そうとする捕食者と同じものだと察して、逃げ出さなければと思うが、頭の痛みが更に酷くなり、とうとう意識を保っていられないほどの激痛に変化すると、遠くの方でドアを叩く大きな音が聞こえた気がしたが、そこで意識は途切れた。




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