㉕
「………。」
(婚姻式後って……いつの時かしら?式直後はすぐに衣装を変え、彼の家に行き、自分の家族も含めて列席者の方々との食事会が行われるのだから、お茶をする時間など無いわよね?……そうなると一番有力なのは食事会後に、二人きりになった時間って事になるのかしら…?そうなると……!?待って!そうなるとオクラドヴァニアって、以前から私との夜を迎えることまで考えていたってことにならない!?……婚姻後なのだからそれはそうよね…?……え?そうなのかしら……だって、ラヴーシュカもいたし……あぁ!もう!)
眉を下げて微笑むオクラドヴァニアの話した内容から、自分が全く想像していなかった事実に思い至り、恥ずかしさのあまり自分の顔に熱が集中していくのが分かるほど暑くなってきた。
「顔が赤いようだが大丈夫か?」
「?!っええ!!……落ち着いたせいか少し眠くなってきたのかもしれません。」
「……っふ!はははははっ!!そうか!それだけ式の前に落ち着くことが出来たなら、持って来た甲斐があった。」
「ええ。本当っに……素晴らしい贈り物をありがとうございます……。」
声が上ずるほどの苦しい言い訳に目は泳ぎ、その挙動不審な態度に、オクラドヴァニアの心配そうだった顔は、見たこともない晴れやかな笑顔に変わり口元に手を当て笑い出した。
お茶の作用だけではないことは気付いているだろうが、それ以上聞いてこない彼の優しさに話を合わせ、まだ赤い顔のまま一口お茶を含み、品物への感謝を伝えた。
「お嬢様、そろそろお時間です。」
すると話の終わりを見計らっていたのか、ちょうど良く執事のヴァルターが休憩室の入り口から私に声をかけてきた。
「じゃあ、私は失礼しよう。」
「私もこのまま出ますので、外までご一緒致します。」
立ち上がろうとしたオクラドヴァニアに声を掛け、共に玄関へ向かう為に隣へと並んだ。
「君達の婚姻式に参加するので、また後で顔は合わせる事になるがな。」
「ふふ、そうですね。オクラドヴァニア様、今までありがとうございました。お元気に、お過ごし下さい。」
独りでいたら、このまま落ち込んでいたかもしれない時間を、落ち着くものへと変えてくれた彼に、二人きりで会うことはもう二度とないだろうと、様々な思いを込めて別れの挨拶を告げる。
「……ありがとう。ただあの日居た人達の前で告げた通り、君の力になれる時には私は生涯、助力を惜しまない。たとえ君の名が変わっても、何かあれば……私が生きている限り、何処へ行っても頼ってくれて構わない。ただ、……今日このまま君を連れ出すことは出来ないがな。」
「……っふふ。とても心強い友人が出来て嬉しく思います。」
そんな私に、心強い言葉を掛けてくれるオクラドヴァニアだが、今一番欲しているだろう願いは難しいと困った顔になった。
ただ、その真剣な表情と言葉に嬉しくなり、自然と口から笑いが漏れる。
もちろん、本当に頼ったら後が怖いので、その時は来ないと思うが、一人でもそう声を掛けてくれる存在がいるというだけで、心強かった。
「……友人。……そうだな、生涯そう思ってもらえるようこれからも努力していく。」
何処か淋しげに笑ったオクラドヴァニアだったが、直ぐに持参金はいらないと言った時のような、優しい表情に変わると、馬車に乗り込みその姿を見送った。
(今日が彼とだったならば……。いえ、もう考えても仕方がないわ。)
本来ならばと頭を一瞬掠めたが、遠のく馬車の音に混ざり、近づいてくる馬車の音に小さく頭を振り前を向く。
(自分自身で選んだのだもの、人生最悪な日の幕開けの、準備に向かわないといけないわね……。)
行きたくない気持ちを何とか持ち上げ、目の前に到着した我が家の馬車に乗り込み、教会へと向かう為に乗り込んだ。
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(あぁ……馬車に乗り込む所までは覚悟を決められたのだけれどね………。)




