㉓
約束の時間にやって来た訪問者にエクソルツィスムス家の執事であるプロムスは、恭しく、乱れぬよう固めた黒髪の頭を下げて一人出迎えた。
「ご安心ください、旦那様から伺っております。どうぞこちらに、ご案内致します。」
申し訳なさそうにする相手に、主人から先に承っている旨を伝え、目的の場所へと案内をする。
「はい、かしこまりました。こちらでお預かり致します。」
案内の途中に後ろを歩く相手から声をかけられ、布に包まれた手土産を預かった。
「お話の途中でのご用意でございますか?…失礼ですが、この場で一度中身を確認致しても宜しいでしょうか?」
相手から品の説明を受け、了承をもらうと、包んであった布を開き、陶器の中に入っていた缶の中身の確認をした。
その品から漂う香りに不審なところはなく、見た目からも高級品なのが窺えたが…。
「……一度私共で確認して、問題無いようでしたら、お声がけ頂いた折にお席でご用意致します。」
その中身よりも、これから向かう場所で待つ相手が好みそうな、何とも言えない花の絵が描かれた陶器が気になり、その独特な意匠に目が離せなかった。
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『じゃあまた後でな。』
(まだ早い時間なのにお兄様はどこへ向かったのかしらね…。)
兄は少し行く所があるからと、まだ早い時間だったが燕尾を羽織ると席を立ち何処かへ向かってしまった。
そして、入れ違いに入って来たヴァルターから、‘’一刻後には屋敷を出る‘’との父の伝言を受け取り、用件が終わると、彼はすぐに準備のため下がっていった。
(いつも通りとはいかないみたいね…。)
誰も居なくなり静まり返った休憩室で独り、庭を遠い目で眺めた。
(時間まで、後少しになってしまったわ…。)
‘‘カチッ、カチッ、カチッ…’’今日は規則正しく時を刻む音が、いつもより大きく耳に響き、心を落ち着かせようとしても、頭の中はこれから始まる婚姻式のことに支配され、いつものように目の前の景色に没頭することができなかった。
「お嬢様、失礼致します。」
声を掛けられ入り口に顔を向けると、そこには執事のプロムスが佇んでいた。
「プロムス?……何か予定に変更があるのかしら?」
まだ出発までにはもう少し時間があったが、何か事情があり早まったのかと、少しぎこちない表情で問いかけた。
「いえ、そのようなことはございません。」
「そう。ではどうしたの?」
少し身構えた雰囲気を感じ取ったのだろう、苦笑しながら否定するプロムスに、最悪な知らせではないことに安堵し、胸を撫で下ろすと、用件を尋ねた。
「お嬢様にお会いしたいと、お客様がいらっしゃいましたので、こちらにご案内致しました。」
「お客様…?そんな予定…」
(こんな時間に誰かしら?)
列席者の人数が多く、教会までの道が混雑する前には到着すべく、漸く起きる時間を迎え、後数十分後には家を出るという時間に現れた思いがけない訪問者がプロムスの後ろから姿を現し、目を少し見張りその人物の名を呼んだ。
「……オクラドヴァニア…様…?」




