㉑
「お嬢様、お目覚めのお時間です。」
続いて聞こえてきたリアンの声に、先程聞こえたのは部屋の扉を叩く音だったのだと理解した。
「……もう…そんな時間なのね。」
瞼を開きまだ真っ暗な室内を見つめ、微睡む意識を現実へと引き戻すために、ベッドから半身を起こしてみると、寝起き特有の気怠さはなく、当たり前だが部屋の中にモイヒェルの姿は無かった。
「お嬢、おはようございます。」
「おはよう、リアン。」
ランタンを手に持ち中に入ってきたリアンがベッドの際まで近づいてくると、少し意外そうな表情で私の顔を食い入るように見つめてきた。
「……どうしたの?」
「……昨日はよくお休みになられたようで、安心致しました。」
「……どんな姿を想像をしていたのよ?」
まじまじと見つめてきた後に眉を寄せて微笑み、安堵するような声音のリアンが想像していた姿が、気になり問いかけてみた。
「一睡もできずに目の下に隈があるお姿ですよ。侍女達全員で心配しておりました。ふふ。」
「……。」
「お気持ちは兎も角、疲れた顔をしている花嫁を見るのはやはり辛いものですからね。」
「……そうね。」
モイヒェルが持ってきてくれた香がなければ、想像通りの姿をしていたに違いないと黙り込み、何とも切なそうな顔をしたリアンをはじめ、長年仕えてくれた彼女達を悲しませることがなくて良かったと安堵した。
「……そうよね。」
忙しさから、身近な人達への配慮も考えられなかった自分に、不甲斐ない気持ちが込み上げてくると、毛布に顔を埋め、すでに残り香も消えた婚姻祝にそっと感謝した。
「花嫁衣装をご準備している隣のお部屋に、お湯などをご準備しております。このまま参りましょう。」
「……ええ。」
(はぁ……とうとう……迎えるのだわ。)
覚悟は決まっているが、それでも重さが引かない腰を上げ、もう二度と使うことの無いベッドから降りるとリアンと共に部屋を出た。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
「間に合ったようですね。」
「母上、ご心配おかけしました。」
昨晩遅くに到着し、まだ眠気の引かない頭を起こすために一人休憩室で茶を飲んでいると、知らせを聞いたのだろう母が一人でやって来た。
「構いませんよ。それよりもエレミタ、……大丈夫なのですか?」
「……あちらの両親に任せてきましたので大丈夫…だと思います。」
遅くなった理由を察しているだろう、母は眉を寄せ、ひどく心配そうな声で尋ねてくるので、何とも言えない状況に苦笑いを浮かべてしまう。
「そう、それなら無茶はしないでしょうね。アイチーのことは貴方の裁量に任せると伝えました。ある意味これで良かったのかもしれませんね……。」
『私は!絶対に!出席するって!言っているでしょう!!!』
「ええ、そう思います…。」
出立する時に、止める相手の両親を引き摺るようにして、しがみついてきた青い顔色の妻を思い出し、帰ってからが大変だなと思ったが、きっと連れて来ても精神的に耐えきれなくなるだろうと、何処か自分を慰めるように肯定の言葉を呟いた。
「……。」
「……私達のことよりも、昨晩遅くに到着してしまってお話できなかった、例の件について今宜しいですか?」
「……ええ、勿論ですよ。どうなりましたか?」
どこか優しげな表情で見守る母に、此処に来た一番の目的であろう話を口にするとその瞳は冷めた色にかわり続きを促した。
「実は……」
その言葉を聞き、母が帰った日の深夜にやって来た相手について話を始めた。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
「もう、疲れたわ…。」




