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「この度はおめでとうございます。」
「急な日程でしたが、お越し頂き誠にありがとうございます。」
本日の主催者側であるスヘスティー公将家の周りには招待者が集まり輪のようになっている。
対応している白髪交じりの髪を固めた矍鑠とした老父と柔和な雰囲気の上品な老婦の二人は疲れた様子も見せず、列席した人々からの祝福の言葉を優し気な笑みを浮かべ対応していくがその奥に覗く眼光は鋭く、挨拶に来る人達に不審な所が無いか目を光らせていた。
「パフィーレンお姫様のご婚姻決定誠におめでとうございます。」
「ありがとう。急な事で皆には負担を掛ける事になるが宜しく頼む。」
その隣にいる光家の家長夫妻と若君夫妻にも人が集まりこの場には居ない姫君の婚姻への祝福の言葉に礼を伝えているが、どことなくその顔には疲れが浮かんでいた。
『皆様ご無理はなさらないように。』
『はは。寧ろそなたも無理をするのでは無いぞ。』
『なんの!まだまだ息子と張り合えるくらいは余裕があります。』
『父上…やめて下さい。』
『ふふふ、頼もしいですわね。』
『ただ、…孫には少々負けてしまいますがね。』
『……君の孫息子には私も言い負かされたよ。』
『そうでしたな…あの子は我が強過ぎました。孫に嫁ぐのは苦労するでしょうが、我が家一丸となって、穏やかに暮らせるように守ろうと思います。』
『……そうか。……私もそうあればと願っている……』
(……は!いかんいかん、今は集中しなければならないというのに。)
会場入りをした控室で光家の方達と息子夫婦との会話を思い出していた白髪の老父…スヘスティー公将家元家長は、祝福に来ていた相手にまた意識を集中させ対応していく。
(何も起こさなければ良いが…な…。)
本来この場には現家長である息子夫妻が中心になって対応する筈だったが、教会の中にいる孫が気になり、列席者達への挨拶が途中だった息子夫婦を向かわせた。
『お祖父様……飛び立とうとする鳥を助けに来る者が居たとして…その翼が手折られていたら諦めるのですかね?』
それは今朝会った何も入っていない鳥籠を見つめ聞いてきた、孫のあの異常とも言える発言と瞳の輝きにどうしても胸騒ぎが止まらなかったからだ。
(本当にあのお嬢さんには苦労をかける事になるだろうが、どうか孫を見捨てずにいて欲しいものだ。)
対応していた列席者の話しが終わり次の相手を待つ一瞬、教会を見上げると花嫁が控えている一室に哀愁の色を滲ませた瞳を向けた。
歴史ある教会の中は様々な部屋があるが、どの部屋も全面ステンドグラスが嵌め込まれ外から光が当たると、様々な色の光が差し込み幻想的な雰囲気に変わる造りになっていた。
その中でも一際光が差し込む一室は、花嫁の控室に使用され、中には薄く化粧が施され、一つに纏められた髪は複雑な色に輝く、大粒のクラルティダイヤが埋め込まれた飾り留めが輝き、光沢のあるシワや汚れのないレースがあしらわれた上品な純白の衣装に身を包んだ花嫁は、今日という日を迎えた喜びに嘸かし幸せな、……とは言い難い血の気のない顔で鏡台の前に座っていた。
(とうとう…迎えてしまう…。)
逃げ切ることが出来なかったボイティは、花嫁衣装に身を包み、真っ青な顔で、侍女達の手によって綺麗に整えられセットされた頭上に両手を乗せ抱え込んでいた。




