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幸せが約束された白色の婚約はその嘘により手から零れ落ちる。  作者: 唖々木江田
逃げ場の無い黒色の婚約は執着により旅立ちを迎える。

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ーー



地上よりも天空が近い建物の最上部では、まだ空が白ずんでいる時刻に、淡い空色の髪を無造作に靡かせた少女が、両足を露台から投げ出し遠くに広がる静かな街並みと、その手前に生い茂る底のない穴のようにも見える樹海の森を見つめていた。




(逃げ出さないための籠に、私は何時までいるのだろう…。)




少女が羽織っているのは白の長い襦袢一衣だけで、地上よりも気温の低いこの場では異様な格好であった。

変わらない風景に飽きたのか、手摺に両手を重ね、その上に片頬を乗せたが、何処からか聞こえて来る小さな物音に目を凝らし、辺りを見渡す。




ーーカザッ、ガザッ、ガザッ、……ッバッサー。




すると、下の樹海から小さな枝の擦れる音と共に、大きく翼を広げた鳥が現れ、羽ばたきながら何処かへ向かって飛んで行くのが瞳に映った。




(あの時に逃げ出さずに、諦めていれば良かったのに……。)




少女は届かないと分かっている鳥に手を翳していたが、他の大きな鳥に捕まり姿が見えなくなると、その腕を力無く手摺に投げ出し、これから始まるだろうある計画に鳥の姿を重ねた。




そしてまさかこの時の行動によって、一人の少女の運命を大きく変え、自分の運命をも変える事になるとは、知る由もなかった。




ーーーーー


ーーーー


ーーー


ーー




ーー“カーン ゴーン カーン ゴーン カー………”



ビッダウ国内において最も歴史のある最大規模の教会からは、本日執り行われる婚姻への祝福として、高低二音の鐘音が雲一つない青い空に響き渡る。

婚姻の儀を執り行うのは、三公将家の一つスヘスティー公将家。




この教会に集う列席者は、国の最高権力者である光家を筆頭に、公将、侯将、伯将、子将、男将といった将を冠する全ての家の家長と夫人、及びその子息・令嬢が勢揃いしていた。




「ファーレ様の婚姻が思っていたより早かったわね……。」




「ええ、卒業してまだそんなに日も経っていないのに急すぎますわ!!!」




「しかも相手は……。」




教会の広い庭先には集まっていた年頃のご令嬢方が、本日の花婿、スヘスティー公将家子息ファーレ・テン・スヘスティーの唐突な婚姻について噂し合っていた。




涙を浮かべ嘆息する声が多く、この婚姻を心から祝福する者は少ない様子であった。




「私は、何となく分かっていたからそんなに落ち込まないのよね。それに、お幸せになられるわよ。」




「……そうかしら。」




「そうよね…どちらもお幸せになれると…良いわね。」




「…ええ。」




「ここで嘆いてばかりもいられないし、私達も、そろそろ挨拶に向かいましょう…。」




「うっぅぅ……。そうね……そう致しましょう。」




令嬢の一人が紺色の髪を靡かせ、何度目かの祝いの挨拶をするべく、囲まれているスヘスティー公将家と光家の面々に目を向け歩き出すと、続くようにその輪にいた令嬢たちも歩き始めた。




同じ様な光景は他三名の令嬢が居る場所でも見られたが、皆一様に悲痛な面持ちだった。


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