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「【?!なぜ…貴方がそれを………あり得ない…!】」
ファーレが囁いたその言葉を聞くや否や、驚きにより目が見開き、口から小さく疑問の声が漏れると、彼の足を踵で思いっきり踏みつけるが‘’カンッ!‘’と小さく鳴った高い金属音が耳に入る。
ファーレが履いていた靴に仕込まれた鉄板により、自分の渾身が阻まれたのが分かり、思わず眉を顰めてしまう。
(!?本当に!!もう!!何なのよ!!)
私の行動が自分の想定通りだったのか、ファーレが愉しげに喉を鳴らして笑いだすと、腰を抱く力は更に込められ、向かい合い、抱きしめるような態勢に変わった。
睫毛の本数が分かるほど至近距離にある、その整った顔を今直ぐに殴ってしまいたい衝動に駆られたが、両手はこれ以上近づかれるのを防ぐ盾に使ってしまい、それも出来なかった。
「驚いてくれると思った……その顔が見れて嬉しいよ。」
「?!……ふっ…ふ……。」
(……ふざけるなぁーー!!!絶っっっっ対婚姻なんてしないわよ!!!!)
その耳元で囁かれた言葉にも、彫刻の様に整い過ぎている顔にも、用意周到過ぎる茶番劇にも、益々腹が立ち、目頭に集中していた熱は冷め、婚姻式を迎える日までには、何としても逃げ出してやると心に決め、怒りに震える両手で相手の身体を渾身の力で押し返す。
この日、白いものになる筈の婚約は、呼び出した最悪な相手により真黒に染めあげられた。




