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幸せが約束された白色の婚姻はその嘘により手から零れ落ちる。  作者: 唖々木江田
幸せが約束された白色の婚約はその嘘により手から零れ落ちる。

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「あれ?ボイティ、どうしたの?」




「……。」




「他に聞きたいことは?」




「……。」




「もし、君が不安に思う事を全て解消できたのなら、僕と婚姻を結んで、……共に死を迎えるその日まで隣に居て欲しい。」




掴まれた腕から手が離され、今度は右手だけを指先で持ち上げられると、ファーレはその右手を自分の口元に持っていき、唇を寄せながら2度目の婚姻を申し込んできた。




その表情は先程の様な笑顔は無く、真剣そのものだが、確実に逃さないと言わんばかりの圧力を感じ、心が恐怖で埋められていく。




この婚姻は申し込まれた時点で、最初から後ろに落ちる崖も無く、見上げても分からない程に高い真黒な壁際に追い詰められていただけなのだと気づいた。




(スヘスティー公将家家長が来てから全てが嘘だなんて言ったら、ヴィルカーチ侯将家家長も呼ばなければならなくなる。そうなれば3将家の問題になってしまうわ……。それに▓▓▓▓は自分の事を棚に上げて責任と言う形でお父様に私との婚姻を迫ってくると言いたいのね。確かに……そうなれば今より婚姻の条件は悪くなる…。)




考えれば考える程大きくなり逃げられない問題に、これは隣国に渡って済む話しではなく、存在をこの世から消さない限りどうにもならないと諦め、最後の言葉に引き攣りそうな口元を無理矢理抑え込みきつく瞼を閉じる。




ーーコクッ。




口を開いて余計な事を言ってしまわないように、頭を一度だけ下げて頷き、ファーレから申し込まれた婚姻を受け入れた。




「本当に!?嬉しいよボイティ!ようやく僕等は結ばれる事が出来るんだね!」




大事な物でも扱うかの様に抱き締めてくるファーレに、未だ気を張っていたお陰で声を耐える事が出来たが、これからはこの状態を保って日々生活をしていかなければならないのかと、想像すれば絶望を通り越して絶無に陥った。




(この先どうなるか、何も想像できないわ。)




されるがままの私を抱きしめ離さないファーレに、呼び掛ける父の声が聞こえてきた。




「ファーレ・テン・スヘスティー殿、少し……お待ち下さい。今一娘が貴方様に好意を寄せているようには見えないのです。ボイティ正直に言いなさい、お前はファーレ殿の何処を好きになったのだ?」




父の心配そうな瞳に、既に事情を察している父と母に、全てを話してしまいたくなるが、そんな事をしても次から次へと状況が悪くなり、縺れ過ぎた糸は解かれる事なく、ファーレ(公将家)に切り捨てられて終わりだと、どうもしようのない言葉を飲み込み、父を見つめたまま一度も考えた事がない答えを出すために重たく鈍い頭を回転させる。




(……好きな所?好きな所?好きな所?いや唯一の長所と考えれば……そんなの……)




全く見当たらず困惑してしまうが、考え方を変えれば1つだけ思い当たる所が見つかった。

ただ、果たしてこれで良いのかと悩みながらもこれ以上は何も長所無いと、口開く。




(それは………




「それは………顔です。」




父に向かって言い切ると、こちらに手を伸ばしかけた後例えようもない何とも言えない顔になり、隣の母は何故か顔色を失くしていた。




「……そうか。分かった。」




「ん゛!!」




父は力なく呟くと、何故か今にも泣き出してしまいそうな表情に変わり、その表情を不思議に思ったが、後ろからファーレに勢いよく抱き締められ、気を抜いていた身体は擽ったさを感じてしまい、漏れ出る吐息を押さえる為に急いで口元を手で塞ぐ。




「僕はボイティの全てを愛しているよ。」




「っッ!」




後ろから抱きしめたまま、ファーレが耳元で囁くように告げると、そのまま耳に唇を落とされ、鳥肌が立つほどの嫌悪感と背後から感じる身体の熱に口から声が漏れる。




「では今回の件はお互いに非があったとして、オクラドヴァニアの件は不問とする。」




疲労を感じさせる弱々しい声で告げる父の言葉に、オクラドヴァニアとラヴーシュカに処分が下される決定は取り消され、結果として成功したが、理由に失敗して終わった茶番劇は幕を閉じた。




「それと、スヘスティー公将家からの婚姻の申し込みについては、家長からの正式な書面が届いてから、もう一度家族で話し合いの場を設けて、お返事致します。」




「分かりました。本日戻り次第、父に伝えておきます。」




「……ええ、その様にお願い致します。」




今、この場での婚姻の申し込みについては父が保留にしてくれたが、ファーレの嬉し気な声音から、明日、明後日中には申し込みの書面は届くと予想できた。




(本当にもう……。)




これで本当に全てが終わり、その緊張感が切れかけると、自分自身とファーレへの言いようのない煮え滾るような苛立ちが湧き上がり、その収まらない熱が目頭に集中していくのを感じた。




(終わったわね…。)




その気持ちを落ち着ける為に、一度別室に移動しようと、隣で腰を抱くファーレの手を外すために、自分の手を重ね力を込めるが、一切外れる気配が無い上に更に力を込められた。

その行動により更に感情がかき乱されるが、此処で泣くものかと藻掻き続ける。




(あああ!もう!こんな嘘付くんじゃなかったーーーー!!!!)




心の中で声に出すことが出来ない叫びを大声で張り上げると、ファーレに何か伝わったのか、顎を指先でなぞられ、顔を自分の方に向けさせる。




「ボイティ、………」




蕩けきった顔が近づき口を耳元に寄せて囁いてくる。



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