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(何故今まで忘れていたのかしら▓▓▓▓の婚約者はあの光家のお姫様だったわ、別の将家の娘と婚姻を結びたいからと簡単に解消出来る相手ではないじゃない!)
周りの空気が変わり、ファーレに集中する視線に、冷めた瞳で勝ち誇る。
(もしここで側室としてとでも言いようものなら、例え家格が上でも、お父様も現在ヴィルカーチ侯将家に向けて算盤を弾いているお兄様も黙ってはいない筈だし、最終的にはお母様が出てきてくれるはずよ。)
これで申し込みを撤回出来ると安心したが、ファーレは驚いたように目を見開き何かに納得して頷くと、こちらとしてはありがたくないことを教えてくれた。
「ボイティ、僕が君を不安にさせていた原因を忘れていたよ。あれはパフィーレン姫がふざけて言ってしまったのが何故か広まっただけで、僕には婚約者と呼ぶべき相手はあの時も今もいない。もし疑うなら僕にしているように直接光家に確かめて貰って構わないよ。」
(他の将家に聞きに行くならまだしも、光家に直接話しを聞きに行くなんて…、手紙だとしてもそんな真実でも嘘でも失礼極まりない内容を送れる筈もないと分かって……。)
真実でも何故そんなに話が出回っているのかとその場にいた者の中から犯人探しが始まり、嘘だったとしたらお姫様に非礼を働き、尚且つ婚約者を略奪したと糾弾されかねない、どちらにしても家長としての責任を問われ父が頭を低く下げる状況になるだろうが、その前に兄が何としても阻止するのだろう。
「そう、なら……」
次に考えていた確実に撤回せざるを得ない話しを始めようとしたが、ファーレは話しを被せてくると、そのまま続けてきた。
「それと、父には先に話しを通してあるよ。そして、君との婚姻については公将家家長としての了承を貰って来ている。これで君の不安は全て取り除けたかな?まだ何かあれば今この場で何でも聞いてくれて構わない。」
(公将家家長の了承を既に貰っている?!確実に得られないと思っていたのに…。でもこれは公将家としては難しい筈よ!)
「では、もし私が嫁いでから何か事業を始めたいと言ったら?」
(オクラドヴァニアとの婚姻生活に不安が無くなって生涯使う事は無いだろうと思っていたけど、まさか抜く機会があるとは思っていなかったわ。)
「「「………。」」」
この問いかけについては父と母と兄さえも何とも言えない表情に変わったが、文句を告げる事をしないのは、それくらいの度量も無い相手は最初から相手にしなくても良いのよと、小さい頃から母に刷り込まれ、万が一望まない相手から婚姻を申し込まれたら使いなさいと、言われていたからだ。
(…これでこの話しは終わりね。)
そしてこの言葉を告げるという事は、もう気付いてはいるだろう家族全員に、大声で婚姻は望んでませんと主張したようなものだった。
「好きにすれば良いよ。僕個人としてはもちろん何でも協力するし、それに事業を起こすならスヘスティー公将家の名はヴィルカーチ侯将家の名よりどの国でも使えてとても便利だと思うよ。心配なら書面に残しておくから安心して。他に聞きたいことは?」
「………。」
(書面?!)




