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「………。」
「何よ!その呆れたような顔は!!」
始めて人に話した内容に反応が気になり瞼を開きモイヒェルを見ると、何やら生暖かい目で見つめられていた。
「いやしてない。それでなぜ婚姻前に逃げようと?それにオクラドヴァニアのように白いものにしなくても気にしないやつは世の中にいるだろうし、そいつと婚姻を結べば良いだろう?」
生暖かい目を真剣な表情に戻すが、そんなことでと思っているのが見て取れて腹が立った。
この社会何があっても取り乱さずが信条に上げられ、あんな姿を見られたら家を揺るがしかねない。
私には人生を左右する程の死活問題でしかないがこの思いは通じないらしい。
「聞きたかった話は終わった筈よ。良い加減にして。」
「……話を聞いたら余計に気になった。」
「……………。」
「なあ、何でだよ?」
そのことを理解できないモイヒェルから、次の質問をされた。
これ以上話す気にならず冷たくあしらうが、気にする様子も無く、金緑の瞳を真っ直ぐ向けたまま促され、諦める気が無さそうな気配に話しを続ける。
「分かったわよ。モイヒェルの周りではそうかもしれないけれど、私の周りは気にする方々ばかりなのよ。だから婚姻する気は無かったけれど、婚約者候補として様々な方と会った中で、唯一オクラドヴァニア様には触れられても擽ったく感じることが無く、怯えることも気分も悪くなる事もなく共に過ごせて感動したのよ。それでこの人しかいないのかもしれないと思っていたら、つい声に出してしまっていたらしく婚約が決まってしまったの。ただオクラドヴァニア様にだって今は良くても長い婚姻生活じゃ反応を示すようになるかもしれないでしょ?だから式を挙げた後は逃げようとしたのよ。」
「へぇ~、それで?長い婚姻生活の筈なのに何故式直後に逃げ出す必要が?何が心配なんだ?」
私の言葉に不機嫌そうになったがこの答えでは満足しないらしく、そんな細かい部分まで聞いてくるのかと頭を抱えたくなったがここまで来たらもう何でも良いと少し恥ずかしい内容を口にする。
「……だから……その……閨となるとわからないじゃない?だからそういった行為をしなければならない状況は絶対に避けたくて、婚姻と同時に何処かに逃げたいなと思って計画を立てていたら貴方と出会って、逃亡資金と慰謝料を手に入れて……そうしたらオクラドヴァニアとラヴーシュカがそういう仲になってくれて、それを知って白い婚姻なら逃げる事も無いわよね幸せ!だったから……修道院か尼寺ね。」
「なんでだよ!」
当時の心配事で悩んでいた日々が蘇り、自分でも答えにならない良く分からない事を口にし始めていたが、やはり万が一嫁げと言われる我が家より、間違いなく婚姻する必要が無い場所に居る方が安心だなと、自分の中で出た結論を口にするとモイヒェルから鋭い反論が返ってきた。
「あのね、これでも一応将家の娘なのよ。あんな姿見せたらどんな噂が立つか!想像するだけでも恐ろしいわ。」
「あのな、変な声なんて皆出るだよ。お前が気にしすぎだ。」
「気にし過ぎて何が悪いのよ!何も知らないくせに!」
反論されたが全くこちらの事情など気にする必要がない人間が、本気で悩んでいる人間の何が分かるのかと、感情が破裂しモイヒェルに向かって勢いのまま言い返すと、音もなく近づいていたのか、モイヒェルは目の前にいた。
「じゃあ、教えろよ。」




