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「……ええ、分かったわ。」
「公将家の方と連絡が着くまでお嬢様はお部屋に、オクラドヴァニア様は別室にてお待ち頂きます。」
「……ボイティ、君と最後に話しが出来て良かった。」
「オクラドヴァニア様……。」
夢から覚めたように瞳からはまた光が失われたオクラドヴァニアは、まるで最後の別れの挨拶のような言葉を告げると、家令達によって連れられていき、その場では動くことができずただ名前を呼びその背を見送った。
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「え゛ぇ゙ーーもうどうすれば良いのかしら?二人と一緒に逃げ出したいけれどそんな事をしていたら私の人生本当に終わってしまうし……。」
地下室から出て部屋に戻り寝室のベットにうつ伏せ状態に倒れると、勢い余り頭と腕が縁から投げ出す形になり長い髪は床の絨毯に広がり、傍から見ればまるで死人のような態勢になったが、今はそれどころではなく、これからどうしたら良いのかと悩み始める。
(荷物だって纏めなければならないのに……)
オクラドヴァニアと二人で婚姻後の話しをしている最中から敗戦色濃い話し合いが終わった後に二人を連れだし、三人を匿ってくれそうなヴィルカーチ侯将家まで逃げ延びる道筋を考えたがどうしても最後は父に捕まる想像しか出来ず頭が痛みだした。
「お前本当に令嬢辞めてないのか?」
「……気持ち的には絶賛辞めたい所よ。」
相変わらずいつの間にか来ていたモイヒェルの言葉が頭上から聞こえた。
「いきなり “人生終わった。逃げ出す準備をするから来て” って連絡が届いて急いで来てみればいつもより酷い恰好だなどうしたんだ一体?」
「モイヒェル貴方?」
「何が?」
首を動かし上目遣いで今回の件を伝えたのかとカマをかけてみるが本当に知らないのかモイヒェルは訝しげな視線を向けてくるだけだったが、隠し事が上手い職業だと思うと今一つ信じ切ることができなかった。
「何でも無いわ!あなた優秀だから隠し事も嘘も上手いし聞いても無駄ね。」
「喧嘩腰でいきなり何なんだよ!!」
今回の件で半ば八つ当たりのような言葉を吐き捨てるように伝えると、本当に意味が分からないのか眉を顰め腹立たし気に怒鳴るように言葉を返してきた。
「……匿名で連絡があってオクラドヴァニアとラヴーシュカの事がお父様にバレたの。」
「うわ〜陰険な上に悪質だな。」
いつもはこんな事では声を荒げたりせず流して終わる筈のモイヒェルのその行動にやはり怪しく感じつつも、本当に知らないのかと別に怖かったからではなく反応を見る為に、何があったのか伝えると顔を歪め酷く嫌そうな顔で呟く姿にモイヒェルではないのかもしれないと少し信じる事が出来た。
「知ってるのは当事者の二人と私と貴方だけじゃない?」
「お前俺の事疑ったのか?俺に何の得があるんだよ。」
「この中なら貴方が一番理由が考えやすかったのよ……フリーデンの権限を全て手に入れたいからと思ったのだけれど、貴方ならこんな回りくどい方法より、私のことを物理的に消すわよね?」
今回この件で婚約解消になれば動くことが出来なくなった私から知らない間にフリーデンの全権を握る事が出来るモイヒェルが一番可能性が高かったが、言葉にしてはみたものの気が変わったとしてもやはりそんな遠回りな方法は取らずにもっと手早い手段を取るだろうと可能性を捨てた。
「……まぁな。」
私の話しを聞き不満げな表情になるが少し考えてモイヒェルは嫌そうに同意をした。
「はぁ…誰に得があるのか全く分からないのよね。」
周囲の人間で他に誰がこんな事をしてきたのか分からなくなり起き上がるとベッドに座りなおした。
「ラヴーシュカは?」
「それも考えたけど、理由として最も考えられる、候将家夫人になりたいと言う話しならオクラドヴァニアに直接伝えた方が良いでしょ?それに態々手紙を書くなら子将家にでは無くヴィルカーチ侯将家に送った方がまだ勝算があると思わない?我が家に送って見つかったら正妻どころじゃないじゃない。現に今この状況だわ。」
一応夫人としての立場を求めてと始めに考えたが、到着した時に見た酷く怯えた表情に除外していた。
「オクラドヴァニアは?」
「………殺されかけているのよ?」
論外と考えることもなかった。
「じゃあ街で見かけた見知らぬ誰かじゃないのか?」
「見知らぬ誰かが何故我が家の一族しか知らない誰も使ってない秘密の部屋を知っているのよ?」
今回の事で家令にバレてしまったのであの部屋は一族だけが知る秘密の部屋では無くなったのだろうがまだ何部屋か残っているので安全面は大丈夫だろう。
「じゃあ………残す所はお前だけだな。」




