㉜
丁度到着したのか馬車の揺れが止まり、降りる為の準備をしている音が聞こえてきたが、すぐに静かになると扉が開いた。
(いよいよね。)
手に持っていた爽菊を横に置き座席から腰を上げるといつも通りの笑顔で馬車から降りた。
「「「「「おかえりなさいませお嬢様。」」」」」
(え…あ?…え?少ない?)
ドアが開かれ馬車から降りると予想と違うと言う事もだが、いつもよりも少ない人数の出迎えに肩透かしを食らう。
(お父様なら逃がさないように馬車を中心に全方位大勢の従者に取り囲ませていると思ったけれど……。)
「お嬢様がお戻りになられましたら旦那様の居る地下のお部屋までご案内するようにと申し使っております。お疲れかと存じますがこのまま参りますので、くれぐれもお足元にご注意くださいませ。」
余りにもいつもと違う状況に不気味さを感じていると、出迎えに来ていた年配の侍女頭のラートが一歩前に出て説明を始めた。
「そう……わかったわ…。」
(……え??もしかしてこのまま話しすらまともに聞かれずに地下に監禁されるの!?商売をしてたからってそこまでする!?)
口で了承を伝え侍女頭の後ろを付いて歩いて行くが、嫌な予感に汗が背中を伝い”ッつ!”と声が漏れ、腕に掛けていた扇を開いて口元に持って行くと、落ち着くために深呼吸する。
(空気が重いわ……何か聞ける雰囲気でもないし。)
誰も何も言葉を発する事なく屋敷奥にある階段を下りきり、地下室に続く石で出来た階段を更に下り、ようやく石敷が敷き詰められた平な道に出て更に歩くと、ゴツゴツとした岩壁に石畳で出来た石高道に変わり、それぞれ少し歩みが遅くなる。
(どこまで歩くのかしら?ヒールでこの道は辛いわ……。)
地下室に続く壁際には等間隔で明かりが灯されたランタンが吊るされ、薄暗い通路内は確認出来るが、ヒールで凹凸のある道を長時間歩いている足に痛みが走り始め限界を感じてきた。
ただ、ここで立ち止まる訳にはいかないと足を動かし後ろを付いて行き、更に奥まで進み続けた先に突然周りに人が集まっている洞窟が見え、その横には人が何百人居ても動かせ無さそうな大きな岩が聳えていた。
(あら?ここって確か……。)
来たことは無いが父と母から聞いた事があるとある場所を思い出した。
『万が一の時は動かせないような岩が扉になっている其処が一番近く安全だから逃げ込め!』
『ふふ、本当は方法さえ分かれば簡単に開くのよ?後ボイティなんとそこは逢引にも使えるみたいなのよ。ねえ?あなた。』
『………そうだな。でもあれはそういうのとは違うと言ったでは無いか!』
『と言う事が昔ありまして、オクラドヴァニア様のお屋敷にも何かあった場合に使う逃げ込むお部屋は地下室にございますか?』
……… (!?まさか!)
ある日の父と母の会話とオクラドヴァニアとのお茶会を思い出すと血の気が下がるのを感じ歩く度に痛む足に力が入らなくなりそうになる。 もし居るとしたらフリーデン以上に誤魔化しが利かない状況に、焦りを覚えると、鼓動の高鳴りが頭に響き渡り胸を誰かに掴まれているのかと思う程、痛み始める。
(どうか二人は居ませんように!)
案内していた侍女頭が入り口前に立っていた家令に到着を告げると家令達が岩壁の際に控え、塞がっていた秘道を痛む足でゆっくり進み、見えてきた明るく開けた部屋の様な場所の前に到着すると、足に力が入らなくなり立ち止まる。
(!?…っ………。)




