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幸せが約束された白色の婚姻はその嘘により手から零れ落ちる。  作者: 唖々木江田
幸せが約束された白色の婚約はその嘘により手から零れ落ちる。

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「ごめんなさい、少し気分が悪いから1度外に出たいの。馬車を止めて頂戴。」




一度休憩を挟んで貰おうと前に居る御者と執事に声を掛けた。




「お嬢様何かご用意致しましょうか?」




「すみません。少し急ぎすぎましたかね……。」




「ヴァルター何も要らないわ、ムッカ大丈夫よ。今日は朝が早かったから疲れが出たのかも知れないわ。少し近くを歩いて来るわね。」




「私もご一緒致します。」




「あまり遠くには行かないから大丈夫よ。少し一人にもなりたいし、直ぐに戻るからヴァルターも馬車で待っていて頂戴。」




「……かしこまりました。」




心配をする御者のムッカと執事長のヴァルターを残し馬車から降りると、あまり遠くない辺りの散策を始めお目当てのものを見つけ摘んでいる隙に、呼んでいた伝書バトにモイヒェルへの手紙を括り付け二人が待つ馬車に戻った。




「お嬢様それは爽菊ですか?」




「ええ。」




「……もう少しこちらでお休みになられますか?」

 



「いいえ、もう大丈夫よ。それにあまり遅くなっても大変だもの。」




「……かしこまりました。またご気分が悪くなったら申し付け下さい。」




「…ありがとう。」




気分が悪い時(主に嘔吐)に嗅ぐと良くなると言われる爽菊を摘んだせいか別に最終的なところまでいっている訳ではないのだが二人の顔は益々心配の色が濃くなった。




(気分が落ち着くわね……。)




先程よりゆっくりとした馬車に再び揺られれば学院を出てから何度も放棄した思考のまま爽菊の香りを鼻腔で吸い込みカーテンの隙間から流れ行く景色を眺めた。




(そろそろ状況を打破する為にも、何か考えなければならないわ……。)




遠目に屋敷が見え始めた頃、放棄した思考を再び動かし始めたが、思考は策ではなく答えの出ない問にまた支配される。




(どうしてフリーデンの事をバラしたのかしら……。)




執事長のヴァルターが耳打ちした言葉がまた頭の中で繰り返される。




(実は、旦那様が読んでいた手紙を握り潰すと本日の祝宴は取り止める様にとそしてお嬢様を呼ぶようにと怒鳴られました。理由にお心当たりはございますか?)




聞いた時はあまりにも想像していなかった内容に変な声を出したがそんな理由は考えても1つしかなかった。




(オーナー名は用意してもらった偽名を使っているもの、その内容で手紙を送ってくる相手は1人しか居ないのよね…。)




国一番の情報通とされるシュランゲも掴めないフリーデンのオーナーの件が知られたとしたら内部からの流出しかあり得ないが、裏切る理由が何も思い当たらず頭の中は再び困惑に包まれていく。




(モイヒェルにどんな得があったの?……呼び出してみたけれど来ないのかしらね……。)




三年と長くも短くない期間だが、共にフリーデンを創りあげ隣国の貴族達から注文が増え始めた頃に次の新しい店舗の構想を口にし始めると、それより先に今働いている全員を紹介して自分と同じ様に従業員では無く仲間だと思ってもらいたい、そう言って初めて作り物では無い柔らかい笑みを向けてくれたあの時に、自分の中では信用できる唯一の相棒となったが、モイヒェルにとっては直ぐに切り捨てる事が出来る何の意味も無い存在だったのだと突き付けられている今の状況を考える度に心は打ちひしがれた。




(ああ…又だわ。)




策を練るために動かした思考も放棄する前と同様次々彼との思い出が蘇り視界がぼやけ始めた。

こみ上げてきたものが零れ落ちないように歯を食いしばり呼吸を整えると瞼を閉じて何度目になるか分からない❘思い出《涙》に蓋をする。




(どうにもならなければ、例え一人だとしても屋敷から逃げ出すわ……。)




父の話しを聞いてから出来ることをしようと考える事を諦めカーテンの隙間から覗く敷地内の景色にもう間もなく屋敷の入り口に到着するのが分かった。




(…話し合いが終わった後なら隙は出来るはずよね。)




項垂れていた身体に力を込め姿勢を正して前を向き直ると爽菊の香りを胸一杯吸い込んで一息吐く。




下がりそうな口元に笑みを作り今できる唯一の装備を取り付ける。




“ガタッ!!”



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