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幸せが約束された白色の婚姻はその嘘により手から零れ落ちる。  作者: 唖々木江田
幸せが約束された白色の婚約はその嘘により手から零れ落ちる。

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「……大丈夫かしらね?」




部屋から出ていった侍女達が急いで到着した厨房では、それぞれ持って来たティーカップや茶葉をカートの上に乗せ終えると、一角で沸かしていた湯気が上り始める薬缶の前に集まった。




「最近は落ち着いていらっしゃるけど…。」




「それにしても旦那様は何故急に…?」




「分からないわよ。」




「ただ…




何やら部屋から出ていった二人についてのようだが、彼女達の表情は曇っていた。




「心配されるのは分かりますが、お話しはそこまでにして下さい。」




「「「!!??」」」




「お嬢様と旦那様が庭園に入られたと連絡を受けましたので皆さんそろそろ向かって下さい。」




「「「はい、かしこまりました。」」」




燕尾服を着た壮年の男性に声をかけられた三人は、直ぐに話を切り上げた。

ポットに煮立ったお湯を注ぎ入れると、カートにカバーをかけ、急いで厨房から出ていった。




(さて、どうなりますかね…。)




侍女達を見送った後、壮年の執事は別に用意した賓客用のカップをカートに乗せ、厨房から出て、応接室へと向かって行った。




ーーーー


ーーー


ーー




(あら?ここは…。)




ボイティは、ふと横目に小さな赤い実が映り込むのに気が付き、頭に浮かんでいた植物から意識を戻し辺りを見渡し始めた。




「……。」




いつの間にか、花壇の前にある生垣が終わり、休憩用のガゼボへと続く遊歩道の前に建てられた、様々な植物を絡ませ出来たアーチが見えてくる、思いがけない遠い場所まで来ていた事にボイティは父を見つめる。




「……お父様、今回手に入れた植物の植え替えは随分と遠い場所にされたのですね?」




「まぁ…そうだな。だが、後少しで見えてくるぞ。」




何処か硬い表情を見せる父にもそうだが、いつもなら新しい植物は、どんなに遠くても部屋の窓からも見える日当たりの良い庭に植えられていた。

それなのに、大きな木が植えられたここから先の場所に植え替えをしたのを、とても不思議に思ったのだ。




(お父様の後少しって……疲れてもきたし…。でも、ここまで来たのに新しい植物を見もしないで屋敷に戻るのも……。)




父と屋敷を出て既に1時間は歩き続けていた身体は急激に疲れを感じ始め気分も下がっていくが、既に戻るのも躊躇われる距離となり、どうしたら良いのか悩み始める。




「……お父様手に入った植物ですが…もしかしたらあまり日に当たってはいけない植物なのですか?」




「日に当たってはいけないというか、何というか……。まぁ、見てからの楽しみだ!」




「そうですね、分かりました!」




考えた結果、気を取り直す為に自分を待っているだろう植物に当たりを付けるべく父に尋ねれば、少し動揺を見せ、歯切れの悪い言葉を返す父を見て、自分の予想通りの植物に違いないと口元を緩める。




(繭姥…トカリウム…セバレジス…紫葵潤…)




頭の中は予想し絞り込んでいた、強請った事のある日陰を好む植物を思い浮かべると、少し気力を取り戻して重い足を動かし続けた。




(………夜目梛…空樹芽……オンブラ…アタユリン……)




「ボイティ到着したぞ!」  




そう声をかけられたのは、既に強請った事のない植物まで思い浮かべている時だった。

そこはアーチも潜り抜け、長く太い四本の柱にドーム状の屋根で出来た、見慣れたガゼボの前だった。




(どなたかしら?…お兄様のお知り合い…?)




思い出していた植物で埋め尽くされた頭の中は、目の前に映る見知らぬ同い年位の少年が、淹れたばかりであろう湯気の立つお茶を、何故か悠然と飲んでいる状況にただ漠然と疑問を覚えるだけで、父が発する次の言葉を予想する事は出来なかった。




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