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「今日のドレスも素敵ね。」
「ありがとう。あなたのドレスも素敵よ。」
「そういえばこの間…………
卒業式当日。昨日散々合わせて決まった青色のグラデーションで染められたドレスを着て学院の入り口前で待ち合わせていた友人達と会話をしながら廊下を歩いていた。
「もう毎日のように会うことはないのね…。」
「…………。」
そう何処からか聞こえてきた呟きに、気分は一気に感傷に浸り、距離はいつもと変わらない筈なのに、今日は何故か普段より早く卒業式が行われる講堂に到着した気がした。
「学院から届いた封書を確認しますので手に持って扉前に居る教師に渡して下さい。確認が終わりましたら中に入り其々の座席で式が始まる迄お待ち下さい。」
通常は閉まっている緻密な文様が描かれた講堂前の重厚な両開きの扉は開放され、数名の教師達がその前で生徒達が持っている卒業案内の封書を確認すると中に通していた。
「エクソルツィスムス子将家ご令嬢様確認が終わりました。ご卒業おめでとうございます。」
教師に封書を渡し中身の確認が済むと、中に通され薄暗い通路を少し進み歩けば、直ぐに様々な花や色布で飾られ、いつもより明るく華やかな内装に変わった講堂が目の前に広がった。
正面の高さのある壇上には真っ白な演台が用意され、すり鉢状に造られた席では先に到着していた豪華な衣装に身を包んだ同級生達が談笑する姿に、改めて実感が湧き上がり、良き日を噛み締めたが、同時に違和感も感じていた。
(あぁ、本当に卒業するのだわ……それにしてもこの引っかかる感じがするのは一体何なのかしら?……。)
友人達が席を確認している間、違和感の正体が気になり周囲に意識を向けると、講堂内は友人達も含め昨日モイヒェルに渡され目を通した資料で見かけた珍しい素材で着飾った同級生達ばかりだった。
(モイヒェルが言っていた我儘な貴族って……同級生達の事だったのね。)
「まぁそのドレス砂鰐を使っているの?」
「ええ、フリーデンで誂えたのよ。」
「この石はミントダイヤでなくて?よく手に入ったわね。」
「お父様が隣国にいらっしゃる時にフリーデンにお願い致しましたのよ。今日の卒業式に間に合って良かったですわ。」
自分達の席が用意されている場所迄向かい始めると、自分がオーナーの店名が至る所で話題に上がる声が聞こえ、心の中で(お買い上げありがとうございます。またのご利用をお待ちしております。)と、腰を90℃の角度にして頭を下げ回りながら感謝を伝え進んで行く。
「ボイティのその装飾品素敵ね。フリーデン?」
席に到着すると左隣に座った紺色の髪を上の方で一つに束ね、薄茶色の瞳をした友人のカメラから話しを振られ、90℃に頭を下げ続けている自分から意識を戻した。
「ええそうよ。オクラドヴァニア様が1年程前にお願いしていたみたいで、昨日贈って頂いたのよ。」
「素敵な婚約者ね〜。」
そう言って笑う、緩く巻かれた薄茶色の髪に、緑色の瞳をした右横に座っていたアミに声を掛けられる。
「ええ。アミの婚約者と一緒で私には勿体ないくらい良い人よ。」
「ボイティったら、ふふふ。そうねエンプレアード様は凄くお優しいから。」
アミの腕と指には、婚約者に卒業式の日に身に着けて欲しいと贈られたアイスフラワーという大きな一粒石なのに細かな結晶の様にも見える珍しい宝石を使った腕輪と指輪が光を反射して複雑な色で輝いていた。
もちろんフリーデンの品だ。
「でも、私達より貴方が履いてるそのクリスタルパールの靴が会場内で一番目を引くわよ。とても素敵だけど、どうやって作ったのかしらね?」
カメラの隣に座ったオレンジ色の短い髪に青い瞳をしたメイトがカメラの靴を見て称賛すると皆一様に首を振り同意した。
(本当に凄いわよねフリーデンの職人……。)
ーーー「馬鹿みたいな依頼がきた……。」
皆と一緒に頷きながらも、既に数か月前に不機嫌な顔で報告しにきたそのあり得ない品をモイヒェルから伝えられていた事で知っていたが、目の前で実物を見ると、資料で見たり話しで聞いていた時よりも遙かに疑問は深くなる。
(どんな技術を駆使したらこんなに素敵な靴に仕上げる事が出来のかしら?)
クリスタルパールは深海にのみ生息する鯨貝の中で出来上がる外はダイヤのように無色透明な鉱石で内は乳白色の柔らかなパールのような2層の異なる性質を持つ大きな球体の宝石だ。
「どうやって作ったのかしら。」
「見ても分からないわよね?」
手に入れるのも相当難しいが、加工するのは熟練された職人でも投げ出す程の代物と言われ、城のオブジェや諸国への献上品としてそのままの形で楽しむのが一般的だったが、どうにかして作られたよく出来たその靴は、カメラが不快な素振りを見せる事なく歩く姿から履き心地も悪くなさそうだった。
「ありがとう。フリーデンの品よ。」
周りも興味津々で見ているとカメラはイタズラが成功した子供のような顔になり靴が見やすいようにか足を伸ばして決めゼリフのように告げてきた。
「「「「っふふふふふふ。」」」」
「これより卒業式を始める。皆静粛に。」
自分でも面白くなってしまったのかカメラも含めて友人達と、声を押し殺して笑い始めると壇上に副学院長が現れ演台の前に立つと講堂は水を打ったように静かになり、伸ばした足をゆっくり戻すカメラに何とか笑いを堪えている間に開式の辞が終わり、学院長が演台の前に立ち式辞が始まった。




