㉕
(オクラドヴァニアとの関係が変わっていたことで空元気に見えたのかしら?)
考えたがモイヒェルの表情の意味がよく分からず、自分の本心だと伝わるように、お店が軌道に乗り始めた頃に伝えた言葉を選んで口にした。
「ならないわよ。寧ろ婚姻した後にどう逃げ出そうか
考えていた頃よりずっと幸せよ。」
愛など無く家同士の結びつきや金銭によっての婚姻がこの社会では常識だ、後者での婚約を結んだオクラドヴァニアにもし善意があったとしても極僅かだろう。
(でもそれなら少し失敗したかもしれないわね……モイヒェルの話が事実なら、長期間家を空けたいなどと、手の内を明かすような話しをしなければ良かったわ……。)
オクラドヴァニアへ伝えた内容を少し後悔して、私は顔を曇らせ、視線を下へと向ける。
「……あぁ、そうか、そう言えばそんな事言ってたな。それで?二ヶ月後にはこっちに来るのか?」
「二ヶ月!?……数日ならね。長期間は流石に四、五年後じゃないかしら?そんなに早く出て行って離縁って事になっても大変だもの。」
私の言葉で当時を思い出したのか、神妙な面持ちで話題を隣国に渡る日に変えてきた。
しかし、あまりにも早すぎる時期にいくら相手から了承を貰っていても、嫁ぐヴェルトロース侯将家に残っている問題や挨拶周りで婚姻直後に長期間家を離れるのは簡単ではない。
何よりせっかく素敵な旦那様を手に入れられそうな状況なのに、できればお別れは考えたくなかった。
「了解オーナー様。じゃあ数ヶ月後の日程が決まったら教えてくれ。人数が多いから早く声を掛けておかないと紹介もままならない。そしたら早く新しい店を一緒に増やしていこうぜ。」
「ええ!私も会えるのを楽しみにしていると伝えておいて頂戴、社長様。」
「ああ、伝えておく。」
隣国に行く日程が決まり次第働いている全員を紹介してくれるらしい。
(会うのはとても楽しみだけど、次のお店の計画を早く決めなければならないわよね。出来るかしら?)
全員の紹介が終わるまでは店舗を増やしたくないと言っていたモイヒェルの言葉にもう少し先の話しになりそうだと思っていたが、案外早まりそうな展開にまだ練っている途中の計画書が浮かび、頭が少し重くなった。
「ああ、じゃあまた来月な。」
「ええ、宜しく。」
報告や話しが全て終わり、次に会う約束を口にすると、モイヒェルは窓辺に向かった。
「どうしたの?何か報告を忘れていた?」
いつもならもう姿が見えなくなっている筈だが、何故か未だこちらを向いたまま、微妙な表情で佇んでいるモイヒェルに声を掛ける。
「……一応忠告しておくけど……、今の姿は旦那になる奴にだけ見せた方が良いぞ。」
「……気をつける……わ。」
もう部屋には居ないモイヒェルにそう告げると顔をベッドに埋めた。
(なんて姿を……恥ずかしすぎるわ。)
今の自分の状態を確認すれば、悩みによって乱れた髪に、無意識に膝から下の足を交互にベッドの上で弾ませていたせいで、ドレスのスカートが捲れ上がり、太ももの裏側が露わになっていた。
モイヒェルが途中で苦言を呈した理由に納得すると、入れ違うように“カツカツ”と寝室にノック音が響いた。
「お嬢様、明日の衣装をオクラドヴァニア様から頂いた品と合わせて再度確認致します。フィッティングルームまでいらして下さい。」
「分かったわ。少しそこで待ってちょうだい。」
先程化粧箱を渡したアンキラの声が聞こえると、居住まいを正し、乱れた髪に手早く櫛を通して整えてから、静かに部屋を出た。




