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「…モイヒェル、連絡も無く来ていきなり何よ。」
アミの夜会にオクラドヴァニアと一緒に参加して数日後、報告の日でも無いのにやって来たモイヒェルに責められたが訳が分からず眉を寄せてしまう。
「口々にお前の家の名前を伝える客が来て注文がいきなり増えてんだよ!!」
「あぁ…、この間お試しで作ってもらったドレスで招宴に行ったのよ。その時お会いした数名にお店の名前を伝えたけど…?」
思い当たる節があり説明すればモイヒェルは表情を無くし頭を抱えだした。
「……お前がオーナーとしての仕事をするのは構わないが、今後はどんな事でも連絡しろ、対応出来ないだろ。」
「そんな事言われて……」
「用意した素材が全て無くなったから取りに行かなきゃならないが、生憎注文の多さに出られる人員が居ないから増やさなければならないが、取りに行って帰って来られる程の腕がある奴じゃなきゃならない、そんな奴らは中々居ないし、居たとしても訳ありだから、きっちり上下関係を分からせる……
「分かった!分かったから!今後はどんな些細な事でもお店の名前を出した時は連絡を入れるわ!!」
多くの人に話しをした訳でも無かったので連絡を入れ無かったがどうやら大事になっているらしく、言い返そうとする私の話しを遮り、淡々と冷え込むような声で話しをするモイヒェルに何かが切れてしまっているのを感じ慌てて約束を口にした。
「分かってくれて良かった。俺はこれから足りない素材取りに行かなきゃならないから、何かあったらこいつで連絡入れろ。後、来月の売り上げの連絡は遅れるだろうからそのつもりでいろよ!!オーナー様?」
よく見れば目の下に大きな隈が出来ているモイヒェルに掌に乗る小さく不思議な色をした伝書バトを渡されると初めて会った時のような綺麗な笑顔を作り直ぐに部屋から消えて行った。
(これは確かに大変な事になったみたいね……。)
モイヒェルが不満を口にしたのが分かる程自分が着用したドレスはビッタウ国内で瞬く間に流行り出し、それを着て外交に向かったディプロマティア公将家夫人のお陰で、フリーデンの名が諸外国でも知られるようになると売上は見る見る上がっていった。
(後で何故あの時に助けたのか落ち着いて理由を考えたけど、少しずれた覆面の隙間から覗いた顔が好みだったからだと言うどうしようもない結論に自分の呑気さを少し反省したけど、今となっては呑気な私に感謝しかないわね。)
資料が残り僅かになりそろそろ毎月楽しみな資料を確認するために意識を戻し集中して紙を捲る。
(この状態が永遠に続くことは無いだろうし早く違うタイプの店舗を増やしたいのよね。)
ここ一、二年は月を追うごとに増えているが、ずっとこの状態が続くことは無いだろうと前々から話していた服や小物、装飾品を買い取る店と多数同じ品を作り安価な価格帯の既製服の店を起ち上げるべくオクラドヴァニアとの婚姻後は隣国や他国に新たな店舗を作る計画を練っていた。
(店舗を増やす為にも資金は必要よね~。)
ページを捲り最後の二枚になった所で現れた毎月銀行から発行してもらっているのだろう確実に増えていく会社と個人の貯金額が書かれた資料を交互に眺めると今月も顔がうにゃりと緩みきる。
「相変わらず締まりの無い顔だな、何の資料見てるかすぐに分かる。」
「毎月これが楽しみなんだから邪魔しないで頂戴。」
貯金額を見ている人の顔に毎回とやかく言ってくるが増える数字にどんな店舗にしようかと夢が広がるのだから仕方が無い。
(それに店舗が増えるのはモイヒェルにも関係がある事なのだから、もう少し興味を持っても良いと思うのだけれどね……。)
最初の話し合いの時も金銭の割合はどうでも良いと言い放ったようにどうやらその辺は全く興味が無いらしい。
「……それよりそろそろ起き上がらないか?」
未んだにベットうつ伏せのまま起き上がることなく資料に目を向けている私にモイヒェルがまた文句を告げてくる。
「……必要?」
「おまっ……いや、別に良いけど珍しいな?」
(確かにいつもより緊張感は無いかもしれないけれど自分の部屋で寛いで何が悪いのかしら?)
不機嫌を露わにしてみせると彼は自分の手に顔を埋め下を向いて溜息を吐き、何かを諦めたように再び顔を上げると今度困った様に眉を寄せ肩を竦めてみせてきた。
「……今日のお茶会でオクラドヴァニア様から聞かれた言葉の意味を考えて少し疲れているのよ。」
その顔と行動に何処か罪悪感を覚えて今日の気が張らない理由を資料から手を放し伝える。
「へぇ~。どんな話しだ?聞いてやるから言って見ろよ。」
「えっう~…………そうね……貴方なら何か気づいてくれるかもしれないわね。」
モイヒェルは口角を片方上げた笑みを浮かべて面白がっているのだろう揶揄うように悩みを聞いてきたその姿に少し迷ったが、一人で考えても答えが出ないだろうと今日のお茶会での出来事を簡単に説明した。
「お前……本気で言ってるのか?」
「…本気よ?何か気が付いたみたいだけど、どういうことだと思う?」
最初は真剣に聞いてくれた彼は途中から何故分からないのかと言いたげな表情になったがそれでも最後迄聞き終えてから自分では考え付かなかった答えをくれた。
「あのな、明日卒業だろ?自分みたいにお前にも想いあっている相手がいるんじゃないか、婚姻前に確かめるために聞いてきたんじゃないのか?」
オクラドヴァニアとラヴーシュカの件を伝えていたモイヒェルはどうやらオクラドヴァニアが私にも同じ様な相手がいるのではないか考えて聞いたのだろうと面倒臭そうな顔で話してきた。
「何よそれ?そんな相手いないでしょ?」
「自分の事だろ聞くなよ!それにお前一度変な噂が立っただろう!!」
あまりにもあり得ない話しにとても自分の事だとは思えず誰か別の話しを聞いている気になったが、モイヒェルの指摘に納得し相手の思惑が分かり面白くなった。
「っふフフフフフ!確かにそうよね。それに、自分が想い合っている相手がいるから私にもって考えたのならあの質問にも納得出来るわ。それなら婚姻せずともオクラドヴァニアには違約金って形でお金が入ってくるのだから損はしないし、ラヴーシュカとの事を知らなければそれも良かったかも知れないわね。」
「お前……。オクラドヴァニアは善意だったかもしれないだろ?それに、仮にそうだとして言ってて悲しくならないのか?」
こちらに向けていたモイヒェルの顔が何故か心配そうに変化した。




