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幸せが約束された白色の婚約はその嘘により手から零れ落ちる。  作者: 唖々木江田
幸せが約束された白色の婚約はその嘘により手から零れ落ちる。

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ーーーーー



ーーーー



ーーー



ーー




「ボイティ!!!」




9歳になったばかりのある日の事、突然父が機嫌の良さそうな弾むような声を上げて部屋へと入ってきた。




「!!??………お父様?急にどうなさったのですか?」




「以前頼んでいた珍しい植物が今日屋敷に届いたのだが、一緒に見に行かないか?」




「!!!ぜひ!早く行きましょう!」




あまりの勢いに最初は驚いたが、理由を知るとすぐに驚きは消え、誘うように伸ばされた手を反射的に力強く握り、父を急かすように部屋から飛び出した。




「そんなに急いだら危ないだろう。」




「お父様!?」




「見に行く前に怪我をしたら大変だ。」




「……。」




早くその場に行きたい思いが膨らみ駆け出そうとするボイティを、父は部屋から出てすぐに抱き上げてきた。

幼少期以来のその行動に気恥ずかしさを覚えながらも、ボイティは黙り込むと甘えるように、父の首にそっと手を回す。




ーーーーー




ーーーー




ーーー




ーー




入って来た家長を微妙な表情で出迎えた侍女達は、二人が出ていった部屋の扉を見つめていた。




「「「………。」」」




今日の誘いを事前に聞かされていた侍女達は、何とも言えない複雑な気持ちを抱きながら、異議を唱える術もなく、ボイティが選んだ想像通りの結果を受けて、ただ黙って見送るしかなかった。



「……もう近くには居ないみたい。」




「さぁ!早く終わらせてしまいましょう。」




「私寝室に行くわね。」




侍女達は二人の姿が見えなくなったのを確認してから素早く室内を整え直し部屋を出ると、後を追いかけることなく“使用人用”と書かれた扉の中へ入ると急いで何処かに向かって行った。




ーーーーー




ーーーー




ーーー




ーー




「お父様!今回はどんな植物が我が家に来たのですか?」




屋敷から出るとボイティを腕から下ろし、今度は手を差し出してきた父のその手を握り、ボイティは小道を歩き始めていた。




「聞いたが忘れてしまったな。……ただ覚えていたとしてもボイティ、お前の楽しみが減るから内緒だな。」




「手に入った植物について尋ねても、お父様はそればかりね!」




「ハハハッ!」




「もう!……ッふふ!」




ボイティはまだ見ぬ新しい植物に心を弾ませながら質問したが、いつもの様に誤魔化しながら微笑み教えてくれない父に、少し拗ねる様子を見せたが、相変わらず豪快に笑う父の姿につられて一緒に笑ってしまう。




(今回はどんな植物かしら!!とても楽しみ!)




父との会話が途切れると、頭の中には以前強請った植物達が次々と浮かび上がった。

その度に歩む足取りが軽くなると、気が急いているからか、その速度はどんどん早まる気がした。




「……。」




前を向きご機嫌な様子を見せるボイティを見つめていた父は、何時もより少しずつ歩幅を広げていく。

その表情には、何処か言い知れぬ不安気な様が浮かんでいた。




ーーーーー




ーーーー




ーーー




ーー




「父上何故僕が!どういう事ですか!?」




同じ時間、別のとある屋敷の一角ではまだ高さの残る少年の声が響き渡った。

部屋の中は細やかな装飾が施された本棚が何台も並び、大きな窓が等間隔で二つ設置された間に目を引く風景画が飾られ、一見談話室のようにも見えるが、机に積み上げられた書類の山に、そこが執務室だと分かった。




「……もう決まった事だ。」




積み上げられた書類を手に取り目を通していた、まだ青年にも見える風貌の男性は、手に持っていた書類を机に置くと、今入って来た少年に感情の籠もらない金色の瞳を向け、低い声で諭すように呟く。

よく見れば隠しているようだが、眼窩には疲れが滲み、その色は紫がかっていた。




「っ!そんな…僕はずっと前から彼女、ボイティとの婚約をお願いしてきたではありませんか!!!」




父親から凍りつくような視線を向けられた少年は、一瞬顔を強張らせたが、両手をギュッと力を込めて握りしめ、瞳を見つめ返す。

そして、震える唇で少し荒げるような声で話し始める。




「……お前の言いたいことは分かっている。だが今回の件は、父親としてではなく、家長としての決定だ。意味は分かるな?」




「!!……。」




しかし、父から返ってきたゆったりと身体に響く低い声で、上から押さえつけられるような言葉に、少年は息を呑み、顔を渋面に歪めて下を向き、肩を震わせる。




「……分かったなら出て行きなさい。」




父親は少し苦しそうな表情を浮かべ、顔を下げ動かなくなった息子に労るような声音で退室を促す。

そして、表情を厳しいものへと戻し、読んでいた書類を再び手に取ると、目を通し始める。




「…………はい。」




(家長としての決定だろうと、僕は、絶対に諦めない……。)




少年は下を向いたまま父の言葉に返事をすると、自分の足元に浮かぶ影を鈍く光る瞳で見つめ、踵を返し、入って来た扉へと向かい始める。




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