⑯
(お嬢様の様子は、特にお変わりないみたいだし……。)
先日見た光景が頭から離れないままリアンは、明日の茶会で出す茶葉を数種類用意し混ぜ合わせていた。
(お嬢様は見なかったのかしら?)
「リアン。……その茶葉、何名分用意するの?」
「え?……っきゃあぁぁ!!??」
声をかけられ手元を見れば、考え事をしながら配合していた茶葉は、ブレンド用の容器から溢れ返り、作業台にもこぼれ落ちていた。
「はぁ……これはやり直しね。」
新しい容器を用意すると今度は作業に集中した。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
(今日のお茶会は気持ちが軽いわね〜。)
彼らの仲を知った翌週にオクラドヴァニアと毎週定期的に開かれている二人だけのお茶会の日を初めて迎えていた。
(はぁ、お茶が美味しいって何て素晴らしいのかしら!!)
それまではお茶会日が近づくと婚約解消の為に冷たい態度を取らなければならないと憂鬱な気持ちになっていたが、もうその必要が無くなり、無理をしなくても良いのだと思えば、今日がとても待ち遠しく思えた。
「珍しく機嫌が良さそうだが何かいいことでもあったのか?」
「特に何もございませんが、オクラドヴァニア様にはそう見えるのですか?」
「いや……そうか。」
いつものように黒の軍服を着用して来たオクラドヴァニアは、今まで無表情のまま無言で話を聞き返事をするだけだった私に戸惑い、難しい顔をしているようだった。
それでもそれ以上は特に聞いてくることもなく、庭を見つめつつ、いつも通りの流れでお茶会が終わった。
(彼と話をするだけなら楽しいのかもしれないわね。次はもう少し色々聞いてみようかしら。)
そのお茶会日を境に少しずつ会話を重ねるようになり、彼と話をすることにも慣れた。
そして、何度目かのお茶会の時には人目を忍べる逢瀬の場所を提供……うっかり話の流れで伝えたり、自分の予定を伝えるついでに、侍女達の休みをさり気なく話題に出した。
「そうか君も侍女達も大変だな。あまり無理をせずに過ごすのだぞ。」
無表情だと強面にしか見えないオクラドヴァニアの顔が、無意識なのだろう柔和な笑顔に変わる。
それと同時に彼の耳がピクピク動くのをボイティは食い入るように眺めた。
(……今のは一体何かしら?)
笑顔よりもその不思議な現象が気になり、そこから侍女達の話題を毎回出すように変え、観察し続けた。
(そういうことね!!)
そんなある日、耳がピクピク動く理由が、余りにも分かりやすい行動だったのだと気が付き、思わず口元がニヤけてしまう。
「ふふふ。」
「どうかしたのか?」
「いいえ何も。オクラドヴァニア様のお話が面白かっただけですわ。」
「そうか……。」
(興味がある話題の時だけ無意識に動くのだわ、年上だけど結構可愛い人だったのね。)
ラヴーシュカの行動や休日の話の時にピクピク動き出し、その後は少し余韻が残る耳。
強面な顔に大きな体躯で自分の領地や鍛錬の内容を真面目な顔で語ってくるオクラドヴァニアの嘘をつけないと言われている彼らしいその癖は、他にはどんな話題で動くのだろうかと益々興味が湧いた。
身内から聞いた、様々な話題を振ってみたが、その耳が動く事はなかった。
ただそのお陰か、彼へ友人としての好感度は上がり、関係は良好なものに変化していった。
「お嬢様。……最近何だか楽しそうですわね。オクラドヴァニア様と何かございましたか?」
「ラヴーシュカ。……以前よりはお話をするようになったけれど、それ以外は特に変わってはいないわよ。」
「そうですか……。」
「あっ……ええ。」
何処となく浮かない顔のラヴーシュカに声を掛けられ心が痛みだした。
しかし、今計画を伝えても仕方が無いと、喉から出かかった言葉を、私は飲み込んだ。




