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幸せが約束された白色の婚約はその嘘により手から零れ落ちる。  作者: 唖々木江田
塗り固められた灰色の婚約は塵となり形を変える。

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ーー




暗闇に覆われた屋敷の中に‘’ギシッ、ギシッ、‘’と一定の間隔で軋む音が静寂の中に響き渡る。

窓から淡く差し込む光で映った人物はスラッとした印象を受ける長身に全身黒装束を纏っていた。

そして、とある階に辿り着くと、上に続く階段に見向きもせず通路を歩き始めた。




(ここか……。)




ノブが設置された様々な扉を開けて確認することなく通り過ぎ、最奥の扉前まで辿り着くと、足を止めドアノブへ手をかけた。

‘’ギーッ‘’と蝶番の擦れる音が部屋の中に響いたが気にする様子を見せず扉を更に開き、占領するように置かれた天蓋付きベッドに目を向ける。

そこにはカーテンを閉めずに金色の長い髪をベッドに広げ横たわり、穏やかな呼吸を繰り返す少女の姿があった。




(これで!)




部屋に吸い込まれるようにゆっくり近づいていくと、眠る少女の胸元に飾られた一粒ずつに別れた石が連なる中に一本の線が引かれたように小さな光が浮かび上がる首飾りに手を伸ばす。

その瞬間、脳裏に焼きついている暗闇の中に佇む相手に向かって、ほくそ笑んだ。




(やっと代われる。)




そしてまさかこの時の行動によって、自らが破滅することになるとは、知る由もなかった。




ーーーーー




ーーーー




ーーー




ーー




東の大陸にあるスピーア国内ーー。




その季節が、程よい暖かさから、肌を斬りつけるような風が吹き荒ぶ頃、この国の王城内の一室ではようやく見つかったとされる一人の少女が広い寝具の上で安らかな寝息を立てていた。




「まだ目覚めないのか?」




ようやく日が差し込み始めた早朝、少女の白い肌を触って確かめていた青年は、苦しげな表情のまま金緑の瞳向けて見続けていた。




「ボイティ……。」




少女の名を呟くとその瞼が微かに動き始めた。

祈るように顔を覗き込んでみると、自分の長い黒髪の前髪が流れ、少女の肌を撫でるように触れ、寝返りをうった少女はいつものように反対側を向いた。




「……お前本当はずっと前から起きているんじゃなか。」




「それも考えられるな。」




「……ここでは普通に入って来いよ。」




青年は背姿を見せる少女に呆れるように呟くと、いつも通り音もなくやってきた白髪の青年に向かって冷めた視線を向けた。




「もう癖みたいになってるからな〜。」




「……それで何の用だ?」




「いや、さっきからお前ずっっっっと飯だって呼ばれてんだろ?」




白髪の青年はその視線を特に気にする様子もなく、部屋に来た理由を強調しながら眉を顰め告げてきた。




「あぁ、そうだったな。」




何度も声を掛けられていたことを思い出したが、彼女を看て守ってくれる程の腕が立つものがいなかったことに、この場を外すことが出来ないでいた。




「はぁ……。俺が見ててやるから早く行ってこいよ。」




「……分かった、頼む。」




状況を察したのだろう。

此処にいると相手が口にしたことに安堵して、ようやくベッドの横に置かれた椅子から立ち上がると部屋を後にした。




「はぁ……。お嬢ちゃんいい加減目を覚ましてくれないとあいつ……モイヒェル?がここから動かなくなっちゃうぞ。」




「……。」




入れ替わるように椅子に座り、ベッドの上に腕を預けて少女に声を掛けてみたが、反応なく呼吸音だけが返ってくる。




「まぁそれでもいいけどさ……。」





「……。」




本心を独り言のように呟くとまた寝返りをうち仰向けになった少女の横顔を見つめながら、やはり起きているのではないかとその頬を撫でてみた。

しかし何の反応も示さずそのまま眠り続ける少女に、自嘲すると黙ったままベッドの上に頭も預けた。




「あぁ!!!もう!!!よくこの状況をアイツは耐えられるな!!!」



「……。」



「そう言えば王子様の口づけで目覚める話があったような……取り敢えず試して……」




しばらくその態勢で少女を見守っていたが、元来何もせずに黙っているのが苦手な白髪の青年は遂に痺れを切らし、仰向けで眠る少女の顎に指を添えると企むように微笑んだ。

そして、自分の唇を少女に重ねるようにゆっくり近づけていく。




「プトゥ……。どんな消され方が好みだ?」




「……お前の気配を感じて揶揄っただけだろう。そんな目くじら立てるなって!!じゃあまた飯の時間になったら来るからな!!」




(心を乱した事がない人間が、急に足を止められるとこれだからな……。全く嫌になるよ……。)




すると出て行った黒髪の青年、モイヒェルが音もなく殺気を纏わせ背後に立つと、首裏に‘’ヒヤリ‘’とした特有の冷たさを押し当ててきた。

白髪の青年、プトゥが少女から手を離し両手を挙げて見せると、冷たさが消えた首筋にじわりと滲む温かいものに、モイヒェルへの呆れを感じながら部屋から姿を消した。




「はぁ……。一度は目を覚ましたのにな……。」



モイヒェルは窓の外に浮かぶ金橙の巨木に哀愁の籠る視線を向け自嘲した。

その瞳は次第に焦点を失い、ボイティが目覚めたあの日へと深く記憶の沼に沈んで行った。




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