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あの日、神輿から身体を投げ出した妹に急ぎ腕を広げた俺ともう一人の相手。
『『ボイティ!!』』
話に聞いていた依頼主のもう一人がオクラドヴァニアだったのだとその時、母と俺は気が付いた。
そして、それは相手も同じだったのだろう。
父にボイティを預けた後に、ぶつかった視線の強さが物語っていた。
「はい。あれはラヴーシュカから渡されたものだったようです。」
「ラヴーシュカが……?」
「ええ。どうしても叶えたい願いが出来た時に使って欲しいと、あの地下の部屋で渡されたと言っていました。」
葬儀参列の礼を伝えに後日彼の屋敷に出向き、通された部屋の一室で、どちらともなく情報の交換が始まり、そこで耳にした話だった。
「そう、ですか……。」
「未だ彼女の足跡は掴めませんか?」
(彼女の本当の狙いは何だったのか……。)
真実を尋ねてみたいが母が探し出せない相手を自分がみつけられるとは到底思えず、聞いた後も探索には踏み切らなかった。
「ええ。……ただボイティがいなくなった今、彼女がこちらに接触してくるとは、もう思えませんが。」
「……母上は、彼女の狙いが妹だったとお考えなのでしょうか?」
「……そんな事は分かりません。ただ……」
「ただ?」
「他に狙いがあったとすれば、あの日に姿を消す理由が見当たらないだけです。」
「……。」
俺の話を聞き目的について何か気付いた様子の母に、その意味を探るように問いかけると、手紙に綴られているある箇所を指でなぞり、当たり障りのない答えが返ってくる。
その声音から何かを隠しているのは明らかだったが、伝えてこないということは、まだ話ができる段階ではないのかと、それ以上深く聞くことなく手紙の上をなぞる母の指を見つめる。
「……用件はそれだけです、手紙は此処で処分してから出て下さいね。」
「はい……。」
「また連絡します。」
母はこちらに向けて困ったように微笑むと、建物から出て行った。
(会った事を父上には伝えるなと言うことですか……。しかし、こんな事になるならやはりあの時に止めておけば良かったな……。)
『……なぜ……なぜお前が!!……』
母が居なくなると、不意にあの日の父の叫び声が耳に響き、親族による最後の別れの式で妹が眠る柩の前で力無く蹲り、離れようとせずに泣き叫び続ける父の姿が蘇り、俺の顔は苦渋に歪み遠くを見つめる。
『……どうか、この地ではない場所でも安らかに。』
その横でオクラドヴァニアが後悔を滲ませた声で語りかけながら、眠る妹に着けさせた品々が鮮やかに蘇る。
(あれをどうやって手に入れたのか……注文先のフリーデンは謎が多すぎる……。)
急遽そのまま教会で葬儀を行う事になり、故人に贈るものを取りに一度屋敷へ向かった。
その際、なぜか我が家に来たオクラドヴァニアが侍女に伝え持って来てもらった物に、本当に実在したのかと内心動揺していた。
‘’何を見ても騒がないように。‘’
何を言っているのかは謎だったが、事前に母から凍えるような瞳で言われて居なければ、どんな醜態を晒していたか分からなかった。
「はぁ……。」
知らない人から好奇の目を向けられないよう、気が付かない振りをした選択が裏目に出た結果に、溜息を吐く。
(それにしても、あれほど形が変わっても俺達のように気が付く人間が居たとはな……。そしてお前はどうして……。)
再び頭痛の種になっている問題の多すぎる手紙に目を向ける。
第二王太子の婚約相手は最近見つかったフェガロフォト大尉という人物の忘れ形見の少女らしい。
そして、身に着けていたという宝飾品が一般的に出回る石とは違う名で書き綴られている一節に、無事な目覚めに安堵しつつ、予定とは違う状況に頭を抱えた。
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(やはり……!全然!話が違うじゃない!!)
薄い金色の布を何重にも重ねたヴェールと仮面で顔を覆った少女は、同じように仮面で顔を覆っている相手に抱き止められていた。
耳元で囁かれた言葉を受け、彼女は奥に見えている人物へ、更に怒りに据わった視線を向ける。
『ボイティ!!逃げろーーーー!!!』
怒りを向けている相手に手が届かない状況に、この広間へと続く扉が閉まる直前、必死に手を伸ばしていたこの国に連れて来た相手の顔を思い出し、怒りの矛先を全て向ける。
(モイヒェルの……モイヒェルの……モイヒェルの!!嘘つきーーーー!!)
身動きができないように強い力で抑え込まれる相手と続けられる、長く熱い抱擁ーー。
(もう!!離してよ!!!私はこんな白でも黒でもない灰色の婚約は望んで無いのよーーーー!!!!)
こうして異例ではあったが、ビッダウ国で亡くなったとされたボイティ・レナ・エクソルツィスムス改めユウェル・シャ・フェガロフォトは、スピーア国第二王太子である知家のペルデンテ・ゾン・コノシェンツァの婚約者として、不本意にも決定されたのであるーー。




