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幸せが約束された白色の婚姻はその嘘により手から零れ落ちる。  作者: 唖々木江田
幸せが約束された白色の婚約はその嘘により手から零れ落ちる。

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ーー




薄暗く、ランタンだけが灯る洞窟内には、岩壁に背を向け無言で控える従者達の間を1人歩く少女の姿が窺えるが、その装いはドレスにヒールとあまりにもこの場所には不釣り合いな出で立ちだ。

地面は石高で、足は既に限界なのであろうか、歩みはぎこちなく、硬い表情の儘、何かに取り憑かれているかのように、休まず一心不乱に先へ向かって行く。




ーーカツッ、カツッ、カッ…ツン。




少女が漸く歩みを止めたのは、煌々とした灯りが漏れ出す大きな横穴が開いた部屋の様な場所に到着してからであったが、その顔色は白磁のように蒼白に変化していった。




(どうしてこんな事に…後もう少しだったのに…隠しきれないなんて!!)




目の前に広がる光景に、今直ぐに腰まで伸びた緩く波打つ金色の髪を掻き毟り、石畳の床に膝をついて大きな声で叫び出してしまいたい衝動に堪えながら父と家令達によって取り囲まれている人物達を、赤褐の瞳に絶望の色を滲ませ見つめる。




(何とかしなければ………。)




そしてまさかこの時の行動によって、自らの運命を大きく変えることになるとは、知る由もなかった。




ーーーーーー


ーーーーー


ーーーー


ーーー


ーー

 



東の大陸にあるビッタウ国の季節が肌を焼くような暑い日々から、心地よい風がそよぎ少し過ごしやすい日々を迎え始めた頃、この国で広大な領地を持つ将家の一つエクソルツィスムス子将家の本邸が建つ敷地内の池上に造られた東屋で、この家の令嬢ボイティ・レナ・エクソルツィスムスが穏やかなお茶の時間を楽しんでいる。




「……はぁ。」




彼女の表情は、どこか夢の世界にでもいるかのように頬を染め、うっとりと東屋の外を眺めていた。




「去年より発芽する種が多かったのね、まるで別の世界にいるようだわ……」



池の水面は通常であれば透き通るような薄い青色だが、今は水面を覆い尽くすように桃源花という珍しい植物が満開に咲き誇り、幾重にも重なった大きな金色の花弁に反射した陽の光により、周辺も金色に輝く幻想的な光景が広がっていた。




「…本当にこの景色眺めながらだとお茶が進んでしまうわ……?!っ!!!」




”!!サアァーザアァー”




目の前に置かれたお茶の入ったカップにボイティが手を伸ばそうとした瞬間、不意に空を切り裂くような風が吹き、池の向かい側に茂る緑深い森のように見えるよく手入れが行き届いた大きな庭の木々を揺らすと、枝が擦れ合う音が東屋の中に響き渡る。




(……そう言えばあの時もこんな風が吹いて……。)




ボイティは突然の風により反射的に瞳を閉じると、ふと懐かしい感覚に包まれ、幼い自分が植物で出来たトンネルから出た先で見た情景が瞼の裏に浮かんだ。




「………あの頃はこんなに穏やかな気持ちで現実を受け入れられる様になるとは思わなかったわね。」




風が弱まるのを感じ瞳を開くと、先程よりは穏やかだが、未だ擦れ合う音が響く庭へ視線を向けて呟く。




「……ふふ。」




少しの間向かい側の庭を見つめていたが両サイドを編み込み後ろで纏めた柔らかな癖のある桃源花と同じ色をした金色の髪が風で遊ばれる様子に意識が向くと口元を綻ばせ再び紅茶に手を伸ばす。




「…本当に味が変わるなんてね…。」




テーブルに置かれた紅茶の表面に歪んで映る自分の柔らかな表情を見つめたボイティの口からは自然と小さな笑いが漏れ、紅茶を一口含む。




「…後は伝える時期だけね…いつにしようかしら?…。」




ソーサーにカップを戻し、まだあどけなさが残る頬に両手を乗せると、再び向かい側の庭へ視線を戻した。

水面の反射によりオレンジの濃い赤褐に変化した瞳を懐かしげに細め、口元は愉しげに弧を描いた。





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