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たった二人の為だけに

作者: 格安ちゃん

「多分、私たちってこの光景を見るために生まれてきたんだろうなあ」

「うん、そうなのかもしれないね」



そう語る二人の少女。お互い、名前は知らなかった。知る必要もない。何しろ、もうすぐ世界は終わりを告げるのだから。知る必要もないくせして、その少女たちは何故だか手をつなぎたくなったらしい。手をつなぎ、その異様な光景を見守っている。


ひしゃげた空が星を喰っている。何万キロ、というどころではない。何十万キロ、何百万キロ、何光年と先にあるはずの、名前も知らぬその星々。それが、喰われる音を立てているのだ。音など届くはずもないというのに、何故だかその音が生々しく耳に残る。

聞いたこともないおどろおどろしい音だった。ばり、とも、むしゃ、とも違う。不協和音と称するのも甚だしい、血生臭いその音を聞いて人々はみなその顔に様々な表情を浮かべていた。


何が起こったのだと思考を止める者、驚き、慌てふためき、足元をすくわれる者。何もできずにただ立ち尽くすもの。三者三葉の顔を浮かべ、終末の到来を見届けていた。

化け物は、見えなかった。いいや、「大きすぎて見えなかった」という方が正しいだろう。何しろ、相手は空なのだ。空の大きさなど誰が分かろうか?雲も、星々も、世界的に名を馳せるような科学者だって分かるはずがない。

絶望とも、混沌とも、地獄とも言い難い、おおよそこの世にある言葉では例えがたい何かが口を開き、我々をただ優しく見守っている。

その先に何があるのかを知る者は誰一人としていない。もしそのような者がいれば、その者は教祖か、英雄か、未来予知者として讃えられるだろうが、現実はそう都合よくできていないのだ。



「あ!見て、電線が倒れてる」

「すっごい音するね、なんだか生き物みたい」



強烈な風が吹いて、電線が鳴いて、そうして倒れた。讃美歌を聞いたこともないくせして、まるで讃美歌のようだ、と語る少女達の姿ときたら異様なものである。

しかし、それは案外正しいのかもしれない。もしかしたらあの巨大な化け物は救世主で、我々を新たなるステージへ導く教祖様なのかもしれない。

それを逃げ惑う人々が聞けば、ふざけるな、というのであろう。しかし、その馬鹿げた発想を間違っている、ということを証明できるものはいないのだから、可能性としてはゼロではないのだ。ようするに、悪魔の証明というやつである。



そんなことを考えていた少女は語る。悪魔の証明って単語、かっこいいよね、と。少女はまたもや、なんとなくでしか知らない言葉を語感だけでかっこいいと語っている。

それはまさしく、思春期の子どもそのものであった。背伸びしたがって、恰好をつけたがって、たいして知りもしない言葉を何となく格好いい、という理由で覚え、浅い知識を披露し、そうして周囲を困らせる。

しかし、それの何が悪いのだというのだろうか。それもまた、成長に必要な過程である。おそらく、高い可能性で今後”成長”という未来がないであろう少女たちは、今もなお成長の旅路を辿っていた。

それは輝かしい、実に輝かしい光景である。まあ、今の宇宙はこの有様であるから、思春期の子どもたちがよく言われ、人によってはその薄っぺらさに辟易したであろう言葉にランクインしそうな言葉である「無限の可能性」といったものは、おそらく今後発生しえないのだが。



「わぁ、見て、あの太陽!よく見たらさ、光がぼとぼとって落ちてる!」

「え、よく気付いたね、きれーい!」



太陽がほどけている。うっすらとしか見えないが、太陽が、何故だか光をこぼしている。

星々とは、ああ、悲しいものだ。誰と仲良くすることもできず、ただ一人孤独な宇宙を漂い続け、そのような運命の果てに誰にも看取られないのだから。

彼らはきっと涙したことだろう。思考を失い、パニックになった人間どもたちを尻目に、彼女たちはたしかに星々を看取っていた。

彼女たちは喰われる星々を見てはしゃいでいるのだから、看取る、という表現は文法的には間違っているのかもしれない。

しかし、看取ることが何故厳かである必要がある?未来のない世界において、そのような常識など無粋だ。繋がれた手が、どちらの汗だろう。たしかに汗ばんでいた。



「見てみてみてっ!あそこ!虹が!」

「えー!なんで虹が急に!?バグみたい!」

「あ、でも割れちゃったよ!?ぱっかりと!」

「こんな光景二度と見れないよ!スマ……ああ、そっか、もう写真撮る意味なんてないんだったね」



何の予兆もなく虹が表れ、少女がきれいだと思ったのもつかの間。ばき、と音を鳴らしてその虹は二つに割れた。

それから、何故だろうか。虹が、周波数の合わないラジオの砂嵐のようにざああ、と音を発しているのである。そうして、虹が甲高いとも、鈍重いとも言い難い悲鳴をあげた後に、ぱり、と音を鳴らして粉々に砕けていった。

それは、多くの人がなんとなく雰囲気だけでありがたがっている初日の出よりも、語呂合わせだとか語感だけで担がれている縁起物よりも、祝福の心が詰められた誕生日のケーキよりも、ずっと、ずっと綺麗であった。

間違いなく壊れているその光景は、しかし、少女たちの記憶に「きれいなもの」として焼き付いた。虹も割れた意味があったというものだろう。

意味を求めることほど空虚なことはないが、それでも意味を求めたくなるのが人々というものだ。それは、虹という自然現象においても当てはまるのかもしれない。

幸か不幸か、終末は、誰にとっても平等である。虹は”きれいなものである”という使命を全うして、そうして死んでいった。安寧の息が聞こえた気がしたが、それが何処から来たものなのかは分からない。



「ねえ、なんで世界ってこんなことになったと思う?」

「神様が怒っちゃったのかな」

「いや、案外侵入者とか、そっち系なのかも」

「いやいや、もしかしたらなんの意味もないのかもしれないよ?」

「うーん、違うかも。きっとこの世界は時限式で終わるように設定されてた、とか?」



常識が通用しない空間において、妄想は無限の可能性を秘めている。彼女たちはその妄想を存分に楽しんでいた。

彼女たちは世界の終わりにおいて、ただひたすら語らっている。「世界が終わるとしたら何がしたい?」漫画や小説でよくある、王道の展開。実際、そのようなものが来れば、人々は理性的に行動できるかと問われれば、多くの場合において否である。

「世界が終わるとしたら、家族に電話をしたい」と言ったそこのおばあ様は、その光景を前にしてただ立ちすくんでいる。

「世界が終わるとしたら、ぱあっと酒を浴びるように飲んで寝たい」と言ったそこの壮年は、酒、という単語を忘れて言葉にならぬ言葉を叫んでいる。

「世界が終わってほしい」と語っていた自称自殺志願者の女性は、彼くんとやらを探して彷徨っている。人とは、そういうものだ。

今この場において、もっとも理性的な者は二人の少女であった。「世界の終わりを楽しむ」という目標を存分に達成している。彼女たちは火だるまになる街の光景を見て、こう語る。



「ねぇ、世界を滅亡させたのが私って言ったら、信じる?」

「えー、信じたとして、何が言いたいの?」

「うん……えっとね、あなたは私よりおかしいね、って」

「え、そう?どうして?」

「だって世界の滅亡を喜べるのなんて、私しかいないはずなのに」



少女の一人がそう語り、少女の一人がううん、と眉を顰める。回答に困っている、というほどでもないが、想定外の質問に少し驚いたらしい。

しかし、その言葉はすぐに出てきたらしく、少女はそうだ、と言葉を漏らす。

こんな終末世界において言葉を紡ぐことに、はたしてどれだけの意味があるかは分からないが、少女はそんなことを微塵も気にしていないようだった。

少女というものは呆れるほどに無邪気な生態をしているのかもしれない。黒煙が立ち上っていることも気にせずに、ぴょんぴょんと身体を跳ねさせながら少女はその言葉を紡いだ。



「んー、なんでだろう?あのね、強いて言うなら、私死にたかったけど勇気が出なくてさ!こんな死に方できて最高にうれしいの!ねえ、あなたがもし、本当に世界を滅亡させた張本人だったとしたら――私はあなたにお礼を言いたいな!ありがとう、救世主様!」

「………そっか、終末は君と、それと私の為にあったんだね!ああ、ずるいなぁ。この終末を独り占めしようと思っていたのに。でも………うん、二人で迎える終末って、最高に楽しいね!次は来世かな?それとも、死ねない地獄の中かな?天国かな?どこで会えるんだろうね、私たち!」

「うーーーん……私は、新世界に一票!」

「じゃあ、私は地獄に一票!賭けに勝った方が、その世界の新しい料理を奢ろう?」

「いいね、絶対だよ?約束だから!」



世界が、たった二人の為だけに終末を迎えている。血まみれになった人々も知らず、臓物が腹から飛び出す形で死んでいった者のことも知らず、ぐしゃ、と押しつぶれて原型を保たない形で死んだ者たちのことも知らずに、二人はただ語り合っている。

あーあ、世界って最高!そう言ったのは、どちらの少女だったか。答えを知る者は、いずれ誰一人としていなくなるだろう。

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