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白姫物語  作者: 空見雪
9/12

徒桜

「真白は名前の通り、白が似合いますね」

 見覚えがある白い着物を身に纏う私と顔が黒い靄に隠された『彼』。二人っきりの暗い世界にまた来ることができた。

 『彼』に触れたいのに、伸ばす腕は『彼』の身体をすり抜ける。

 夢だと理解しているのに、どうしてこんなにも『彼』に心動かされてしまうのだろう。どうして『彼』の声を聞いただけで無性に泣きたくなるのだろう。

(待ってくれ)

 黒い靄が私たちを包み込み、『彼』を暗闇に隠す。『彼』のいた方向に手を伸ばすが、その手をとってくれる人は誰もいなかった。

 『彼』を消した靄は晴れ、手に残っていたのは汚れ一つ無いまっさらな白い着物だった。

 水滴が一つ、二つと白い着物に斑点を作っていく。

(私が欲しいのは着物じゃなくて『彼』だよ)



 

――




「またか」

 ため息を吐き、少し湿っている頬に触れる。

 視線だけ周りを見渡すが誰一人居ず、ほっと安堵の息を吐く。

 重い身体を起こすと、額から濡れた手拭いが毛布の上に落ちた。誰かが看病をしてくれていたのだろう。その看病してくれていた人も今は見当たらないが。

「そういえば雪の上で寝たな」

 誰がここまで運んでくれたのだろうと考えながら布団と毛布を畳み、部屋を出ようと襖を開く。看病してくれた人が部屋に帰ってきた時、病人の姿が見えず驚くかもしれないが、それまでに戻ればなんとかなるだろう。

「どこ、ここ」

 デデーンっと効果音が付きそうな程の大きな屋敷は、つい最近まで住んでいた田舎町にはなかった建物だ。

(眠ってる間に連行しやがった)

 一日や二日で辿り着く街には、これほど大きな屋敷は建てられていなかった。

 私が眠りすぎていたのか、あるいは幻夢組の歩くスピードが私の知っている人間とは比べ物にならない速さなのか。

 身体の硬さからして前者だろうと予想して、縁側を歩く。

 その予想は想定外の発見により正解だったと後に気付く。


 


 凍えていたはずの冷たい風が、春の訪れを告げるようなポカポカとした温かい風に変わり、木の葉の代わりに雪を積もらせていた裸の木は始まりを告げる桜を綺麗に咲かせていた。

「何ヶ月眠っていたんだろう」

 しばらく屋敷を散策して見つけた一本の桜の木を見上げながら呟く。

 木々の間から覗く日光が眩しく、手の甲で日光を遮るように顔に影を作る。するとそれに怒ったかのように、大きな桜の木がゆらりと木の枝を揺らした。

 振動に耐えられなかった桜の花びらが揺れた反動で宙を舞う。たくさんの花びらが華麗な踊りを魅せながら一枚、また一枚と地面にひらりと舞い落ち、最後の一枚が地面に散り、小さなショーは幕を閉じる。

 足元に散った花びらを一枚拾い上げ、掌に乗せる。木を揺るがすほどの大きな風は、しばらく吹かないだろう。仲間の元に返すように、掌に乗せた花びらにふーっと息を吹きかける。

 ゆるりゆるりと落ちていく花びらは寂しそうに見えた。

「終わっちゃった」

「来年もあるだろーが」

 ゴンッという音と同時に、頭に鈍い痛みが走る。頭を抑えしゃがみ込む。後ろを振り向くと田舎町で知り合った幻夢組が背後に立っていた。

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