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白姫物語  作者: 空見雪
3/12

ブルー・ムーン 3

「君も、かぐやかい?」

 しばらく戦闘が続き、男の隙を突いた真白が腹に蹴りを入れる。男は蹴りの衝撃で吹き飛び、鉄柱にガンっと骨が割れる勢いで衝突する。

 男の口から零れ出た血黒い液体は暗闇に染まった鉄柱にボタボタと染みを作り、鉄柱に収まらなかった血反吐は底知れぬ夜の闇へと落ちて行く。

(誰かの頭に落ちたら可哀想だな)

 鳥の糞じゃなく人の血反吐を頭に被るなんて、運が悪いにも程がある。

「うさ耳を生やしていないかぐやなんて見たことがないがね。君の脚力はかぐやにも引けをとらない」

 ギラリと獲物を狩る獣の目をした刀身を男のつむじに向ける。血を一滴も吸っていない真剣はやっと血肉が喰えると喜んでいるのか、己の刀身を普段より鋭く牙を向いている。月真剣は既に男の目を食べたというのか、月光を反射させる牙に映る冬三日月は男が浮かべていた不気味な笑みと同一だ。

 今はうつ伏せになっているせいで、男の目を見ることは出来ないが。

(そもそも興味なんてねぇけど)

 真白は知る由もなかった。

「…欲しいな」

 死を目前にしたはずの男の歪んだ笑みと、狂気的な欲望を宿した瞳に。

「何を…?!」

 真剣を向けられていた男はいつの間にか目前から姿を消し、まだ意識がない人間の左腕を掴み宙にぶら下げていた。

 その手を離せば、人間は間違いなく生きてはいられない。

「……ふざけるのも大概にしてくださいよ」

「これがふざけているように見えるかな?」

 愉快げに話す男は何のためらいも無く、人間を掴んでいた手を離した。人間は重力に逆らわず暗い闇の底へ落ちていく。

 気がつけば足が勝手に動いていた。

 「おっと」 

 男の横を走り過ぎ、宙に身を投げる。落ちていく人間に届け、届けと念を飛ばしながら手を伸ばす。

 念が届いたのか、凸凹とした豆だらけの人間の手に触れ、離さないようにしっかりと掴む。真白と人間を支えることができる鉄柱をもう片方の手で掴み、宙吊り状態になる。

 (人間をすくい上げたら老舗旅館にでも放置するか。何にしても、間に合って良かった)

 ホッと安心したのも束の間。

「その様子じゃ何も抵抗できないね」

 瞬間移動でもしたのか、男が目の前に現れ浮いている。

 (最近のかぐやは空を飛べるのか)

 田舎町を放浪としすぎたせいか、真白は非現実的な現状を疑問も持たず受け止めてしまった。ゆっくりとこちらに手を伸ばし、あろうことか真白の胸に手を置いた。

 しばらくの沈黙の末、真白は男に言い放つ。

「この変態」

 男はその言葉にくすりと笑みを溢した。

「君、性別がないんでしょ」

「男でも女でも勝手に体に触られたら嫌なものは嫌ですよ」

 男が何をしたいのか、ただの変態だったのかと困惑している真白に、男は心臓部分をギュッと握り潰す勢いで掴む。その瞬間、心臓がドクンと音を立てて身体に力が入らなくなってしまう。まるで男に力が吸い取られているような感覚に陥り、「ガハッ」と血を吐く。ぐっと歯を噛み締め、鉄柱を掴む手と人間を支える手を離すことはしなかった。男は真白の様子に訳が分からないとでもいうように首を傾げている。

「力を吸い取っているのに、なぜ人間を支えるほどの力がまだ残っている?」

 「んなの知るかよ」と口の中に溜まっていた血溜まりを男の顔にペッと吐き捨てる。額に流れていた汗汁が地上へと落ちていく。

「私はただ、この力を人を護ることに繋げるって約束しただけ」

「無意味な力の繋げ方だ」

 心臓をギュッと一層強く握られ、意識を飛ばさないようにぐっと歯を食いしばる。しかし、鉄柱を掴んでいた手を離してしまい再び落下しかけた。

「癒月!」

 薄れゆく意識の中、若い男性の声が聞こえたかと思うとガッと強く腕を掴まれた。

「ナイス健!暫く持ちこたえろ!」

「嬢ちゃんも癒月の手、離さないでくれよ!」

 ほとんど機能していない頭を上げると、そこには四人の人影があった。

 真白の手を必死の表情で掴む青年と浅葱色のだんだら模様の羽織を纏った三人組の人間が男に斬りかかっていた。

(もう、大丈夫か)

 残っている力を振り絞って気絶している人間を青年に放り投げる。驚いている青年は咄嗟のことに真白の手を離してしまい、真白は闇夜を舞う。

 何やら青年が叫んでいるが、力が一滴も残っていない今は何を言っているのか分からない。

(じいさん、私、力の正しい繋げ方出来たよ) 

 

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