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002:「イライラしていると眠れないよね」

 俺はヨミ・アーカイブの事を考えるととてもではないが眠れなかった。ガチ恋とかそう言ったロマンチックな感情ではない、殺意にも近い憎しみをヨミ・アーカイブに俺は持っていた。


 寝苦しい夜、俺は新作を書いていた。ハーレムを書こうか悩んだ末に入れておくことにした。またヨミ・アーカイブが好き放題叩くかも知れないが、読者が求めている以上それに応えたいと思う。正解のない文章を延々とキーボードを叩きながら考えていった。それを文章に起こしていって、結局自分と大勢の読者に合わせた作品になりつつある。


 ヨミ・アーカイブは叩いていたがハーレムは現にウケがいいのだ、それを書いて何が悪いというのか。恥じる要素など一つも無い、ただ俺は読者に少しで楽しめる物語を提供するだけだ。


 しかしアイツの指摘した箇所には確かに繰り返すべきではない間違いもあった。それを多少は受け入れて妥協した産物を書き始めた。読者はヨミ・アーカイブが全てではない。俺はたった一人のVTuberのために書いているのではなく多くの俺と直接関わりのない読者のために書いているのだ。誰のために書いているのかを忘れてはならない。


 そして少し書いたところで落ち着いてきたので寝ることにした。なかなか意識が消えることはなく、歯がみをしながらベッドに横になっていたら、いつの間にか意識が落ちていた。


 朝、さわやかな光がカーテンの隙間から差し込んでくるが、それは闇属性の俺には堪えるものだった。陰キャであり、気分の落ち込んでいる時の日光は肌を焼かれるかのような刺激物かと感じてしまう。


 カーテンをしっかり閉めて起床する。天井から降り注ぐLED照明が俺が浴びることの出来る明るさの限界だった。登校もしないとならないので制服に着替える。制服に着替えると少しだけ眠気が覚めた。服装が気分に影響するというのは本当なのかも知れない。それに学校では俺のWEB小説を叩くようなやつはいないのだから家庭と切り離された学校というのは案外に便利な小さい社会なのではないだろうか?


 気持ちを切り替えて朝食を食べに向かう、もうすでに食事をしていた妹の良子(りようこ)が挨拶をしてきた。


「おはようございます、お兄ちゃん、また夜更かししたんですか? そんな生き方をしていたら長生きできませんよ?」


「俺だって夜更かししたくてしたわけじゃないんだよ……」


 まさか自分の小説が酷評されたので悔しさで眠れなかったとは言えない。良子に知られてはならないと思っている。


「父さんと母さんは?」


 良子はあきれた顔をして答えた。


「私がもう朝ご飯を食べ終わりかけている時点で察しましょうよ。もう二人とも出て行った後ですよ」


 ああ、時計に目をやるとそろそろ登校準備を始めないとギリギリの時間だ。アイツがあんな嫌がらせのようなレビューをしなければ俺だって夜更かししなかったよ……そうだ、ソシャゲの周回をしないと……


 俺は朝食のトーストをかじりながらデイリーミッションをクリアしていく。


「お兄ちゃん、お行儀が悪いですよ」


「時間がないのが悪いんだよ」


 そう言ってちゃちゃっとオート周回機能を使ってデイリーミッションを攻略して石を手に入れた。有償石は持っていない、無課金で頑張っていくのが俺のスタイルだ。


「ふぁぁ……」


 そのあくびは俺ではなく良子のものだった。


「どうした? お前も寝不足か?」


 そう問いかけると良子はゆっくり頷いた。


「ええ、ちょっとスマホを弄りすぎましたね」


「程々にしておけよ」


 PCに張り付いて注目していた俺が言っても説得力の欠片も感じられないが、自分の体調より妹の体調の方が優先だ、良子がどうして夜更かししたのかは分からないがあまり健康にいいことではないからな。


「お兄ちゃんも夜更かししてるじゃないですか……どうせまたえっちな動画でも見ていたんでしょう?」


「人をむっつりみたいに言うんじゃない! 昨日は色々夜更かしする理由があったんだよ!」


「じゃあ何をしていたんですか?」


「MeTubeを見てた」


 その言葉に良子は少し顔をひくつかせていた。何か思うところでもあったのだろうか? コイツはあまり俺の事を詮索するようなやつでもないからな、それ以上の追求はなかった。


「お兄ちゃん、動画は程々にしてくださいよ? 夜更かしして成績が下がったら私まで禁止される可能性があるんですからね?」


「勉強の方はちゃんとやってるから大丈夫だよ……」


 むしろ良子の方が成績に苦戦していることを知っている。それでも平均よりは上なので文句を言われていた様子は無い。中学でそこそこの成績が出ているので高校に期待されている。それが重荷になっているのだろうか?


 ちなみに俺は現代文の成績が一番良い。割と勉強しなくても点が取れるからだ。だから現代文は課題だけ終わらせたら必要以上に勉強はしていない、その時間を数学や化学に回している。


「良子こそ勉強はしているのか?」


 やや天才肌なところがあって良子はフィーリングでテストを済ませることがあるらしい。それでもなかなかの点数を取るのだから結構なことだ。


 しかしその質問に良子はビクッと体を震わせて答えた。


「当たり前じゃないですか! 私は毎日勉強していますよ。ただ昨日はチャンネル登録しているMeTuberを見ていただけです!」


「ふーん」


 イケメンが金を浪費する動画でも見ていたのだろうか? 最新スマホを買っては紹介している連中でも見たのだろうか。


 朝食のトーストを口に放り込んで食事を済ませる。バターの良い香りがしていたのだが、それを堪能するような雰囲気ではなかった。


「お兄ちゃん、私は先に出ていますね。いくら高校が中学より近いからって遅刻しないでくださいよ?」


 それだけ言って良子はさっさとキッチンを後にした。玄関の開く音がして駆け足の音が離れていった。


 俺は僅かな時間でスマホを取り出してアクセス数の確認をする。悔しい話だがヨミ・アーカイブの配信後、アクセス数は確かに増加していた。その中からイラッとする感想を削除して平和なコメント欄にして学校に向かうことにした。イライラと承認欲求が俺の心の中で喧嘩をしながら食器を洗った。


 そして鞄を持ってネットとは関係無いリアルの世間に玄関から出て行った。

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