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悪役令嬢改善計画!〜幼い頃から教育していれば性格矯正出来るよね?〜

作者: 八女かえで

拙い文ですがよろしくお願いします。

 僕の婚約者が決まった。

 お互いまだ五歳だけどそういうものらしい。

 特に反対もないし僕も父上や母上の様に仲睦まじい夫婦に憧れてたからワクワクしてた。


 彼女に会うまでは……


 初めて顔合わせをしたのは王宮にある庭園だった。

 僕の父上は国王と言って国で一番偉いらしい。

 だから相手側が僕たちの住むお城に来る。


「よく来てくれたフィリップ」

「ハスターの頼みなら断らんよ」


 父上と仲良さげにしている相手はこの国の公爵と言ってとっても偉い人。

 二人は昔から友達で、周囲の視線がない時はこうして接しているみたい。


「ヨハンも大きくなったなー、おじさんのこと覚えてるかい?」

「えーと、ごめんなさい。覚えてません」


 フィリップさんは僕のことを知っているらしいが、僕は覚えていなかった。

 素直に謝ると「小さい頃だったし仕方ないね」と笑って流してくれる。


「さて、ライラ。挨拶なさい」


 フィリップさんの横で佇んでいた女の子は僕の前にやってきて笑顔で挨拶を――しなかった。


「ふーん、あんたが私の婚約者なのね。ま、顔は悪くないわね」

「こらライラ!陛下と殿下の前でなんて事を言うんだ!」


 腕を組んで僕を足先から頭のてっぺんまで見定める様に眺めていた彼女が僕の婚約者であるライラ・ウォリントン公爵令嬢。

 その態度と言葉遣いにフィリップさんは止めに入るが「子供のする事だ、気にするでない」と父上は許した。


 僕も驚きはしたけどこれくらいじゃ怒らない。

 それでも正直なところ、彼女と上手くやっていけるかは不安が残る。


「せっかく婚約したんだ、二人で庭園をみて回ってきてはどうだ?」


 父上の提案に僕とフィリップさんが賛同し、ライラ嬢をエスコートして庭園を見て回る事にした。


「ライラ嬢、あれが薔薇ですよ」

「知ってるわよそれくらい」


 二人きりになっても一向に距離が縮まる感じがしない。

 それでも僕はめげないで会話を続ける。


「これは王城にしかない珍しい花です、よければプレゼントしましょう」

「分かったわ貰ってあげる」


 僕にとって切り札であるこの花はライラ嬢のお気に召した様だ。

 言葉はまだトゲトゲしいけど素直に受け取ってもらえて嬉しい。

 この後も庭園を回ったり、一緒にお茶をしてどうにか彼女と仲良くなろうと努力した。


 でも僕の努力も虚しく彼女と心を通じさせる事は叶わなかった。

 フィリップさんがライラ嬢を連れて帰った後、父上は「どうしてもダメなら早めに言うんだぞ?」と言ってくれたが僕は丁重に断る。


「ライラ嬢は根はいい子だと思います、今日は緊張して素直になれなかっただけでしょうし僕は大丈夫です」


 いくらツンツンした態度を取られたからと言って見限るには早いと思う。

 父上達の様な仲難しい夫婦になれる想像は難しくなったが、僕たちは僕たちの道を探せばいいだけ。


 このとき僕は彼女の性格を丸くする為努力する事を心に誓った。







 あれから月日は流れた。

 週に一度は会う様にし、僕は仲良くなろうと必死だった。

 きっとライラは寂しいんだろう。

 フィリップさんに聞いたところあまり構ってあげれていないそうだ。

 

 だから僕が彼女の心の支えになれば心を開いてくれると信じていた。

 欲しい宝石があれば買い与えたし、流行りのドレスも見繕った。

 有名な女優が出演する舞台だって彼女のために席を確保し連れて行く。


 僕に出来る限りのことは大体したはずだ。

 今年で僕たちも十五歳になり社交界デビューをする。

 王太子になった僕とその婚約者であるライラも出るので例年より豪華にするとのことだ。


「ライラ、今日はよろしくね」

「当たり前でしょ? ヨハンは私の婚約者なのよ」


 会場の控え室でライラと待っていた。

 この日の為に用意したドレスに身を包む彼女は本当に綺麗だ。

 だから僕は言葉にして褒める事にする。


「今日の青いドレスも素敵だね、とってもライラに似合ってるよ」


 笑顔を絶やさず褒めてみたがライラは満足してくれない。

 嬉しそうな顔をしないで、さも当然と言った態度だ。


「それよりヨハン、ダンスは面倒だから踊らないでいいわよ」

「どうしてだい、あんなに練習してきたのに」


 社交ダンスの練習はライラと長い事一緒に練習してきた。

 あまり順調とは言えないが、及第点ではあったと思う。


「なんでって完璧じゃないからよ、あんなダンスじゃ恥をかくだけよ」


 そう言われてしまい僕は黙ることしか出来なかった。

 時間になり僕はライラをエスコートしながら会場へ入る。

 既に会場内で会話に花を咲かせている令嬢はもちろん、子息達も息を飲んでこちらを見つめていた。


 色々な貴族が挨拶にやってくる。

 それを笑顔で対応しようやく終えて自由になった。


「ライラはこの後どうする?」

「私は適当に時間を潰すからヨハンも適当に過ごして頂戴」


 それだけを告げると彼女は料理を食べる為そそくさと移動してしまう。

 取り残された僕は押し寄せる令嬢達の対応で精一杯だ。


「殿下、私とお話ししませんか?」

「いえ、私としましょう」


 彼女達は側室狙いだろう。

 公爵令嬢のライラには勝てないので二番目を狙えばいい。

 きっとそう父親に言われて社交界に臨んできたに違いない。


「後で時間を取るからまた今度ね」


 笑顔で彼女達をあしらい、僕は会場をぐるりと見て回る。

 そんな中で、一人壁際で佇んでいる令嬢を発見した。

 彼女はつまらなそうに会場を眺めている。

 少し興味が湧いた僕は声をかけてみた。


「どうされたのですか?」

「で、殿下!? 何故ここへ?」


 取り乱した彼女は一呼吸置いてから挨拶をしてくる。

 お世辞にも綺麗とは思えないカテーシーだったが真剣さが伝わってきて微笑ましく思う。


「私は貴族というのに馴染めません……」


 彼女はセレスと言って、つい最近男爵家に迎えられたそうだ。

 話してみると意外にも盛り上がり、なかなか切り上げるタイミングがない。


「あの失礼は承知の上ですが、殿下の婚約者についてなんです……」


 先ほどまで明るい話題だったのが一転しセレスも表情を暗くし言葉を紡ぐ。

 話題の内容はライラの事で、あまり貴族に馴染めていない彼女にもその噂が耳に入るくらいだ。


「つまり令嬢達の間ではライラは悪役令嬢と呼ばれているのか」

「ええ、殿下の婚約者だと言うのに失礼な呼び方でご報告しておこうかと……」


 正直言ってライラが悪役令嬢と呼ばれていても不思議ではない。

 裏で気に入らない令嬢を遠ざけたりしていると噂程度で聞いたこともあるし、長年の付き合いで彼女の性格を知っているからだ。


「教えてくれてありがとうセレス」

「いえ、もったいないお言葉です……ですがよろしいのでしょうか?」

「何がだ?」


 急に尋ねられ僕は首を傾げた。

 セレスのいうよろしいの意味が僕には分からなかったからだ。

 

「殿下はそれで幸せなのですか?」

「それは……」


 簡単に答えることが出来ない質問だ。

 十年間の付き合いで思うが僕とライラで円満な夫婦になるのはほぼ不可能。

 幸せな結婚生活を送れないと既に分かっている様なもの。


「差し出がましい様ですが殿下は自分の幸せも考えてみてはいかがでしょうか」

「ああ、少し考えてみるよ」


 重い空気を察してかセレスは足早にこの場を去って行く。

 僕は彼女に言われた幸せとは何かについて考える。

 一体どうすれば幸せだったのか、ライラと結婚しない?


 そんな簡単な話じゃないだろう。

 これは家と家の結び付きで僕の個人的感情は考慮されない。

 だけど自分の幸せも手に入れたいと思ってしまう。


「やっぱりライラに変わってもらうしかないな」


 現状で考えうる最良の選択肢はライラの性格改善。

 悪役令嬢とまで呼ばれてしまった彼女を改善する計画を僕は考えた。

 結婚まで後三年ほど時間がある。

 それまでせめて悪役令嬢と呼ばれないくらいにはしておきたい。


「それじゃあまずはダンスからだ」


 完璧じゃないから踊りたくないと断られたが甘やかしてはいけない。

 多少不出来でも王太子とその婚約者が一緒に踊っていることが重要だ。

 そうすれば貴族達も安心するだろうし、国の安定にも繋がる。


「ライラ、ここにいたのか」


 ダンスに誘うべく会場をくまなく探したがどこにも見当たらない。

 会場から出て王族専用の控え室を確認したところ、一人優雅にお茶を嗜んでいた。


「なぜヨハンがここに?」

「それはこっちのセリフだよ、そろそろダンスの時間だし行くよ」


 僕は近づいて彼女の手を取ろうとしたが避けられてしまう。

 

「ダンスは踊らないと言ったでしょう! 何度も言わせないで!」

「そうは言っても踊らないとダメだ。僕たちは王太子とその婚約者なんだよ」


 必死に説得を試みるもライラは譲らない。

 彼女は意地でも踊る気がないと宣言したくらいだ。


「ああもうしつこい! あっち行ってなさい!」


 先ほどまで飲んでいた紅茶を勢いよく僕にかけてくる。

 一瞬何をされたかわからなかったので呆然と立ち尽くしていた。

 

「……今度はちゃんと踊ってよ」


 着替えないといけないし、いくら説得しても無駄と分かり撤退をする事にした。

 ライラはソファにふんぞりかえり「わかればいいのよ」と一言言ってから新たにお茶を入れて飲み始める。


 今日は失敗したが次こそは成功させる。

 そう誓い社交界デビューは幕を閉じた。


 



「ライラ、今日のお茶会には出てくれる?」

「は?なんで私が出なきゃいけないのよ、嫌よそんなの」


 お茶会で令嬢達とコミュニケーションをとってもらう作戦は失敗。

 次にかけよう!




「ライラ、一緒に公務に行こう。市井の者に僕たちを知ってもらう必要があると思うんだ」

「なんでそんな面倒くさい事私がしなきゃならないの? 一人ですれば?」


 分かっていたけどまた断られた。

 何度も食い下がっていたらビンタをお見舞いされてしまったよ。

 うん、次こそは成功させるぞ。




「ライラ、欲しいものはないかい?」

「あるわ、宝石とドレスよ。早く商人を呼んで頂戴」


 物で釣る作戦だけは上手くいくけどこれじゃ意味ないよね?

 ただライラを甘やかしているに過ぎない気がしてならない。

 うん……これも失敗だな。

 あと、お金使いすぎ……



 何度やってもライラの性格を矯正する事が出来ない僕は気晴らしに城下町に赴いた。

 変装さえすれば案外バレないもので、悠々自適な休日を謳歌している。


「あの、もしかして殿下ですか?」


 小声で声をかけてきた女性は社交界デビューで話した相手、セレス嬢。

 彼女は元々市井の者で、男爵家に迎えられてからも度々外を出歩いているらしい。

 二人で立ち話をしていたところ、彼女からある提案がなされた。


「せっかくですし市場を案内しますね」

「いいのかい?君も休みを利用して来ているんじゃないのか?」


 セレス嬢は気にしなくていいと言ってくれたので僕は彼女の提案に乗る事にした。

 市場で売っているものは城では見ることがないものばかりでとても新鮮だ。

 僕が驚くたびに彼女も笑顔を見せてくれる。

 こんな日々がずっと続けばいいのにと思ってしまうほど、セレス嬢と過ごす時間は有意義なものだった。


 日も傾き始め楽しい時間も終わりを迎えようとしていた時。

 セレス嬢は「最後にとっておきの場所を案内するね」と言って、僕の手を引いてどこかを目指していった。

 そこは王都を一望できる小さな丘で、辺りには沢山の花が咲いている。

 この街で生まれて長いがこの様な場所があるとは知らなかった僕は、教えてくれたセレス嬢に感謝を伝えた。


「いい思い出になったよ、ありがとうセレス嬢」

「お役に立てて嬉しいです!」


 今日1日を通して分かった。

 僕は彼女の事を好きになってしまっている。

 一緒にいるだけで幸せな気分になるし、彼女の優しさが心に染みる。

 どうしようもないくらい彼女の事を好きになってしまったのだ。


「セレス……僕は君のことが……」

「どうされました殿下?」


 セレスに向き合い僕は真剣な表情をして言葉を紡ごうとした。

 彼女も雰囲気を察してか、僕に合わせて真剣な表情で待ってくれている。

 しかしこの先の言葉を口にしていいのだろうか。

 僕は王太子で、この国の次期国王だ。


 感情に流されて告白していいのだろうか。

 それに婚約者であるライラがいる。

 いまだに彼女の性格改善計画は続けていたし、それを放り投げたくはない。


「すまないセレス嬢、なんでもない。そろそろ帰らないと完全に日が暮れてしまう

ね」

「そ、そうですね。帰りましょうか……」


 帰り道は不自然なほどに会話が少なかった。

 貴族街に入るまでエスコートをして、途中からは別行動にする事になったのでそこで解散。

 僕は裏道を使いそそくさと王城へ戻り、誰にもバレない様自室へ入った。


「本当にあれでよかったのかな……」


 ベッドに倒れ込みセレス嬢とのやり取りについて想いを馳せる。

 いくら考えても答えなんて出ないのは分かっているが、考えずにはいられなかった。



 いつもの日常に戻り、僕は相変わらずライラの性格改善計画に全力を注いだ。

 一緒にいて楽しい時間を過ごしたいと思ったので、彼女が好きな事をさせようと思う。


「ねえライラ、今日は一緒に好きなことしない?」

「好きなこと? それじゃ宝石商を呼んでくださる? 私宝石を眺めるのが好きなの」


 どうしよう、これもダメだ……

 他のことを提案しても話を聞いてくれすらしないし、結局ライラの好きな事をして過ごした。

 でも僕はまだ諦めていないから次の提案をし続ける。





 想いを新たに悪役令嬢改善計画を進めること三年。

 明日は僕とライラの結婚式だ。

 計画の方だけど……何も成果は得られなかった。


 くる日も来る日も作戦を立て実行してもライラには通じない。

 流石に父上やウォリントン公もう無理に結婚しないでもいいと言ってくれたりしてた。

 二人の賛同を得られるとなれば断る事は容易いだろう。

 だけど、僕はその提案を断った。

 何故なら――


「彼女の性格を改善出来なかったのは僕の責任で、彼女は悪くない」


 そう言うことだ。

 もちろん僕だけが悪いとは思わないけど、僕にも責任があるのは確かだ。

 その責任を果たさないで逃げ出す様では王は務まらないだろう。


 市場を一緒に回ってから定期的に連絡を取り合っているセレス嬢にこの事を告げた時――


『そうですか……殿下がお決めになったのならそれがよろしいかと』


 と落胆された。

 過去を振り返っていた時僕の部屋にノックが響く。

 入室を許可するとライラが佇んでいた。


「どうしたのライラ? 僕の部屋に来るなんて珍しいじゃないか」

「……どうしてですか?」


 部屋に入って来たライラはいつになく真剣な表情をしていた。

 彼女から尋ねられた質問に答えようとしたが、どう答えていいか分からないため、僕は困惑する。


「どうしてってなんのことなの?」

「殿下はどうして私を選んでくださったのですか?」


 目元に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうなライラを僕は初めてみた。

 いつも傲岸不遜な態度しか取らない彼女のしおらしい姿には不覚にも心を惹かれるものがある。


「僕はライラの婚約者だしね、僕のわがままで婚約破棄なんて出来ないさ」

「ッ!」


 この言葉を聞いて彼女はついには泣き出してしまう。

 僕は抱きしめ、彼女が落ち着くのを待ち続ける。

 暫くしてから今までどうしてそんな態度をしていたのかを話してくれた。


「最初は恥ずかしくて素直になれなかったの、でも殿下がいつまでも態度を変えないで私を思い続けてくれたので変わりたいと思いました」


 胸の内を全て曝け出した彼女はすっきりとした表情になっていた。

 これから夫婦となるので気持ちを新たに素直になりたいと宣言する。

 言いたいことを言った彼女は明日のために今日はもう寝ると残し、部屋をさった。


 僕は今の状況に思考が追いついていないので暫く寝ないでぼーっとしている。

 ライラの態度はただの照れ隠しで素ではない。

 これからは素直になって円満な夫婦になろうと言うもの。













 






 いや、無理でしょ。




 結婚するのは責任を取ると言う意味で彼女を愛せる自信はない。

 さっきはちょっと可愛いかも?と思ったが冷静に考えれば今までして来た事が酷すぎて無いって思う。

 

「せめて社交界デビューの時に言ってくれたらよかったのに」

 

 あの時に言ってくれたら僕はライラを愛せた気がする。

 お茶をかけられる前なら今までされたことなんて可愛いものだ。

 それにセレス嬢との邂逅も大きい。

 国のため、責任を取るために彼女を振ったと言うのに今更言われても正直困る。


「あっでも悪役令嬢改善計画は成功したんだな……」


 計画は成功しても敗北した気分だ。

 こうして僕はなんとも言えない気持ちのまま眠りにつき、翌日の結婚式を複雑な気分で乗り切った。

 ライラとの結婚生活が上手くいくかはまた別のお話。


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