お試しにも程がある 89
「いやー美味かった、ご馳走さん。
異国の料理も面白いな。」
「お口に合って良かった。
お茶も淹れますね。」
料理は様々なものをテーブルいっぱいに出したが、デックスはシビックと張り合うくらい食べていた。
物珍しさもあったと思うが、本当によく食べる。
食器を片付け、お茶とデザートを出すみさと。
全てリュックから出し入れするのを見て、やはり不思議そうな顔のデックス。
俺はシビックの口を拭いてやりながら、声をかける。
「デックス、武器苦手じゃないじゃん。
なんで辞めちゃったの?」
「あぁ、そうだな。
細々不満は溜まっていたが、例の剣で我慢ならなくなったんだ。
工房長は、俺の兄弟子でよ。
昔は仲良かったんだ。
おやっさんが亡くなる時に、あいつを工房長にしたのさ。
その時は、俺も喜んださ。
でも、あいつは変わっちまったんだ。
自分も腕は良いのに、何故か俺と比べたがる。
持ち味が違うんだから、それで納得してくれりゃ良かったんだよな。
変に意固地になって嫌がらせ三昧だった。
おやっさんに恩があったからそのまま居たけど、俺が嫌になって出て行ったんだ。
ま、過去の話さ。」
「そうなんだ、話してくれてありがとう。」
「いや何、逆にスッキリしたよ。
それにしても、みさとは強いんだな。
圧倒的すぎて笑っちまったよ。」
「偶々だよ。
私が手を出さなかったら、たっくんが魔法で停めてたでしょ?」
俺の方を向くみさと。
「そうかもしれないけどさ、「あ!」って思った時にはもうみさとが動いてたからね。
何もすることなかったよ。」
肩を竦める俺を見て、みさとはクスクス笑う。
「さてデックス。
君のやりたい事は一から全て作ること?
参考資料も要らない?」
「参考資料か。
見たこともないものを作ろうとしているから、そんな物があるとは思っても見なかったが。
細部まで教えてもらうのは嫌だが、意見を貰っていろんな発想をするのは有りだな。」
「了解。
じゃあ改めて、1人用の乗り物・簡単に操作できて楽ちんなものだよね?」
「あぁ、そうだ。
持運び出来る動力源として魔石があるが、効率が悪い。
山向こうの耳長なら別なんだろうかな。
俺達で出来るものにしたい。」
「山向こうの耳長?
もしかして、エルフ族の事?」
「あぁそうだ。
武具が発達してきたのも、そいつらとの戦争のせいだからな。」
「そういう間柄なんだ、知らなかったよ。」
「ここ暫くは無かったが、皆備えをしているさ。
何でも、耳長より強力な魔法使える奴が従えたとかで、大人しくなったんだとか。」
「あ、あはは…」
レジアスか。
こんなところで伝説を耳にするとは。
閑話休題、魔石が動力源になるのか。
俺はそっちを知りたいかも。
「俺が知識として知っているのは、こんな感じのもの。
自分で漕いで動かす自転車ってやつと、電気や燃料でモーター動かしてるこういうものとか。」
みさとに貰ったPCで、画像を出して見せた。
デックスは画像にも興味を持ったが、媒体にも興味を持ったようだ。
「何だこりゃ、本物みたいな絵だな。
これも魔法か?」