お試しにも程がある 86
「一緒に行ってもいい?
荷物預かるよ。」
「行ってもつまらねぇぞ、拓海。
あんなヤツの顔見るだけで損する。」
「そんな嫌いなの?その人。」
「あぁ、質が悪い。
工房長が代替わりしてから、本当に駄目になった。
おやっさんの時は良かったのにな。」
少し寂しそうなデックス。
「デックス、来てくれるのか、恩に着る。」
やっと手を離したルクラは、脱力して座り込んだ。
「お前もあんな奴、早く見限ったほうが良いぞ。」
「お前みたいに腕がある奴はな。」
「だからほら、一緒にやろうぜ!」
「気楽に言ってくれるよ。
はは、ありがとな。」
デックスとルクラはお互い疲れた顔で、笑い合う。
デックスの荷物を両手から取り上げ、俺はウエストポーチにしまう。
「これで両手は軽くなったろ?
やりたいことやらないとな。」
「あぁ、その通りだな拓海。
とっちめてやる。」
「私手伝うよ!」
「いやいや、みさとは怪我するから手を出すなよ。
最終的に殴り合いになるからな、多分。
気持ちだけ貰っとくよ。」
デックスは、みさとに笑いかける。
やっと明るいデックスになってきた。
俺はみさとが手を出さずに終わる事を願うがな。
「じゃあ行くか。
ところでよぅ、期限まで短すぎねーか?」
「もっと前だったけど、お前が見つからなかったんだよ。」
「あいつらが試して諦めて、やっと俺を探させたんじゃないか?
往生際が悪いからよ。」
「おいおい、知ってたのか?」
「簡単に想像つくじゃねーか。」
悪態をつきながらも、目的地に向かうデックス達。
俺達は、後ろからついて行く。
「無事に終わると良いねぇ。」
「そうだね。
なんだかんだ、デックスは人が良いからな。」
「嫌なことは嫌って言えそうだけど?」
「ちゃんと言うと思うよ。
言葉で言うか拳で言うかは知らんがな。」




