お試しにも程がある 85
「美味しかったね、ご馳走様でした!」
「ここは俺のお気に入りなんだ。
安くて美味くて量もある。
最高だろ?」
「あぁ、良い店教えてくれてありがとう。
食料仕入れたら、家に帰る?
送ってくよ。」
「助かるよ。
いつもはカート持ってくるんだが、すっかり忘れちまったからな。」
「移動手段、必要だね。」
「だろ?」
顔を見合わせる俺とデックス。
シビックはみさとに口を拭いてもらい、一段落。
食材を仕入れ両手いっぱいの荷物を抱え、帰ろうとしていたその時。
「デックス、待ってくれデックス!」
呼び止める声に振り返る俺達。
「ルクラじゃねーか、どうした?」
「よ、良かった、間に合った。
頼みがあるんだよ、お願いだから聞いてくれ。」
「だから聞いてるじゃねーか。」
息を整え、ルクラはデックスの方を向いた。
「お前が最後に作った剣を買った客から、同じ切れ味の剣が欲しいと言われてるんだ。
あそこまでできるのは、お前しかいないんだ。
頼むよ、もう一度作ってくれよ。」
デックスは険しい顔になった。
「武器はよ、もう作りたくねぇんだよ。
悪いが、そっちでどうにかしてくれ。」
さっきまでの明るいデックスは消えてしまった。
立ち去ろうとするデックスの足に取りすがり、ルクラはもう一度懇願する。
「なぁ頼むよ、今回だけでいいから。」
「俺を追い出したのは、そっちじゃねぇか。
今更泣きつかれてもな。
俺の役目じゃねーよ。」
「頼むよ!工房の奴らには俺から話すから。」
「あの剣を作ったのはトレジアってことにしたんだろ?
工房長の馬鹿息子が。
あいつが打てないなら、工房長が打てばいい。
また名前を変えてな。
名前だけで打てないなんて、最低の職人だ。」
「その工房長から頼まれたんだよ。
1番付き合いが長かった俺に言ってきてくれって。
連れて来るまで戻るなって。」
「あの野郎…どこまで最低なんだ。
おぅ、丁度いいから、俺と一緒に別の開発しないか?
武器はやめてよ。」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!
言われた期日が明後日で、どうにもならないんだ。」
「諦めんな、頑張れば打てるって工房長に言ってやれ。」
「お前なぁ、言えると思うか?」
「そうだよな。
しょうがねぇ、俺が行って断ってくるよ。」




