お試しにも程がある 84
「色々あるねぇ。
まるで道具市みたい。」
街について見て回っていると、みさとがそんな感想を述べた。
確かに、食べ物より道具の店の方が多い。
部品だけも製品になっているものも様々だ。
車を透明化して近くまで来て、その後歩くことで30分も歩かずに済んだ。
特に検問もなく、気軽に見て回っているが、少し視線を感じる。
デックスの行きつけの店で一緒に買い物していると、店員がデックスに大きい声で内緒話していた。
「おいおい、ありゃドワーフじゃないだろう。どこの種族だい?」
言われたデックスは気にもしていなかったので、言われて初めて気づいた様子。
「拓海達は、ドワーフじゃないのか?」
「そうだね、ドワーフじゃないよ。
人間種っていうのかな。
デュアリスって国から来たよ。」
「だそうだ。
まぁ、悪いやつじゃないから俺達と変わらんよ。」
「そうか、なら良いか。」
ガッハッハと、デックスと店員で大笑いしている。
そんな調子で、買い物を続けた。
部品の店は、螺子・歯車・ボルト・ナット・蝶番、工具の類も置いている。
装飾品の店もあり、石もつけたペンダント・髪飾り・ブローチ等々、どれも細工が細やかだ。
武器の店・防具の店・工具専門の店・刃物研ぎの店・修理請負の店等、本当に賑やかだ。
あんな辺鄙なところに暮らしているが、デックスは顔が広く何処に行っても声をかけられる。
食事ができる店に入った時も、奥のテーブルなのに何人かが声をかけてきた。
皆口を揃えて「生きてたか、元気か、調子はどうだ」と心配してくれてる様子。
デックスの家に気軽に遊びに行けないんだろうなと推測できる。
「デックスは人気者だね。
皆声をかけてくる。」
「いや何、騒がしいのが偶にしか顔を出さなくなったからだよ。
こっちに住んでたときは、自分のしたい研修が頼まれ事で中々進まなかったからな。」
「頼りにされてたんだね。」
「いやいや、偏った知識が多いだけさ。
そのうち皆の方が知識が多くなってくれば、お呼びではなくなるよ。」
「またまた。
基本の知識と新たな知識の組み合わせで、開発が進むんでしょ。」
「そうだと良いんだがな。
おぅ、美味そうなシチューも肉も来たぞ。
どんどんやってくれ、俺の奢りだ。」




