お試しにも程がある 73
「ジジイめ、俺を甘く見やがって。」
「根拠はあるのか、オロチよ。」
「あぁ、石を使っての洗脳が得意な奴がいる。
質の悪いことに、洗脳された本人でさえ気付かないうちにされてる事だ。
何故知っているかと言うと、奴は親父の弟だからだ。
習ったこともあり、その時俺は使えなかった。
親父はその洗脳が効かないように、俺達に保護をかけてくれた。
親父の時代にも反乱軍が起きた事があり、その時の原因も奴だ。
親父は媒介となるものを見せてくれて、それが奴の仕業だとも教えてくれた。」
「教わった時の媒介と先代が見せた媒介が同じだったと言う事かのぅ。」
「あぁ、しかもあれはその辺の奴らが出来るような技でもない。」
「その人捕まったんじゃないの?」
「そうだな、捕まった。
だが親父は、処刑はしなかったんだ。
親父のお袋、つまり俺の祖母が、させなかったんだと。」
「まだ存命なのかのぅ。」
「最近は会ってないが、しぶといばぁさんだからな。
親父が先に死んでしまった。
捕まった後は、城から離れた所に隔離になったのだが、ばぁさんも一緒に行った筈だ。
結界も張られ、奴が出たら分かるようになっている。
ただ…」
「対象者以外が出ても分からないのかな?」
「その通りだ、拓海。」
「全てを万能には難しいのぅ。」
「そうなんだよな。
奴に洗脳された者が出てきてもわからない。
そういう事だろう。
そしてその結界がこれだ。」
そう、転移でここまで飛んできて、事情説明してくれた。
前魔王が張って、ずっと維持される様な仕組みらしい。
「さて、この中に奴がいるはずなので、先ずは事情を聞くことにする。
攻撃が来ても対応出来る心構えで居てくれ。」
結界の中に入り、注意して進む。
見える建物はそこそこ大きく、周りはただただ殺伐としていた。
入口から入ると、待ち構えていたのは目的の人物。
「やぁオロチ、いや魔王様かな。
よく来たな。
どうだ、俺からの贈り物は気に入ったか。」
「リューギ、やはりお前か。
事情を聞くも何もなかったな。
自ら暴露するとは、手間が省けたわ。」
「なぁに、死にゆく者に何を言っても構うまい。
お前は此処で死ぬのだ!」
そう言うと、周りから一斉に武器を持った者達が襲いかかってきた。
俺とレジアスで足止め、みさととサイノスで攻撃。オロチはリューギと睨み合っている。
やがて剣戟の音も苦悶の声もなくなり、静まり返った。
「どうやら死ぬのは俺ではないようだな。
リューギ、お前は俺の手で送ってやる。」
「何を小癪な、小童の分際で!」
「今回は止めるものが来ても無駄だからな。」
「ふん、元よりおらんわ。」
「ばぁさんはどうしたんだよ。」
「死んださ、少し前にな。」
「まさか、唯一の理解者を手に掛けたのか?」
「お前の知ったことではないわ!
居なくなったから、やっと計画を動かすことができたのだ。」
「本当に倒すしか無いのだな。
行くぞ。」
オロチは剣を手に、リューギは杖を手に向かい合う。
剣と魔法、どちらが強いかは決められないが、激しい激突の上今回はオロチの勝ちとなった。
「お前は、本当に兄貴にそっくりだ。
嫌になる。」
「褒め言葉として貰っておくよ。
さらばだ。」
そう言うとオロチは、リューギにとどめを刺す。
床に伏したリューギがピクリとも動かなくなると、外の結界が無くなっていった。
そこまで仕込まれていたのか。
「ひとまず片がついたな。
さて、城に戻るとしよう。」




