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ちょっとそこの異世界まで  作者: 三毛猫
7/297

お試しにも程がある 7

「ここでの目的は、全てしてしまったしな。折角副賞もらったから、取敢えずどこかに家を買わないか?」

「え、買えるの?お高いんじゃない?」

「だから、副賞もらったろ。あれ。」

「そんなの付いてきたの?知らなかった。」

「そーかそーか。家と土地も貰えたから、いい場所探そうか。」

「やったぁ、宿屋じゃなくてマイホームかぁ。落ち着けるね。」

「そうだな、そうできるようにしたいな。」

「ぼくも入れてもらえるの?」

「当たり前じゃないか。元の大きさにもなれるくらいが良いだろ?」

「そんな大きなお家?凄いね。」

「考えてる事があるから、試してみたいが実情かな。」

土地も家も通常サイズにして、中に入ったら広々するよう魔法でできないかと思っている。他にもびっくりさせたいから、あまり話さないけど。

「そんな感じだから、明日からは家を建てたい場所探ししたい。どうだい?」

「「賛成!」」

目的も出来た事だし、今日は寝ようかな。場所探しは時間がかかりそうだし。

「静かな所でもいいけど、ご飯の買出しは近い方がいいなぁ。」

「広々した所で、元の大きさで伸々できるのもいいよ。」

「家造りも拘りたいよね、折角だから。キッチンの希望は出すけど、たっくんはガレージハウスにしたいんでしょ?」

話が弾み出すと、もう止まらない。

「ロフトも良いけど、屋上テラスもいいなぁ。」

「ぼく用の出入口も宜しくね。」

「そうなると何階建てになるのかな。」

「ハイハイそこまで。急いで決めないで、ゆっくり考えよう。とんでもない家になったら困るからね。」

「お家会議だね。皆で考えよう!」

「おぅ!」

次の日から、土地探しが始まった。静かな所は満場一致で決定。首都の中で探さないといけないので、家を見ながら歩いて回る。美味しいご飯もあるか、チェックもしてるらしい。まだ歩いていない辺りから始めて、再度閑静な場所を丁寧に周る。居を構えるとなると、慎重に選ばないと。いくつか候補をピックアップ、皆で検討。家の造りも何回も会議を開き、段々決まってきた。

家の造りを気に入ったようにすると、広い土地が必要になる。見て回った中では、副賞の範囲内で考えるとちょっと足りなそうだ。仕方ないので、考えていた仕掛けを二人に披露する。目をキラキラさせながら聞き入る二人。出来るか試さないととは言っているのに、もうできる気でいる。どこかで試せないものか。


土地探しの途中、誰も住んでいない廃墟を発見。例のものを試す事が出来そうだ。それっぽく手を翳して念じてみる。崩れないのを確認して、中に入る。何ということでしょう、念じた通り部屋は増えていた。外からの見た目は、全く変わっていないのに。

これで心置きなく普通の大きさの普通の家を建てられる。早速場所を決めて、申請。建物も、規定内の大きさで無難にまとめる。自分で建てていいなら、土地だけ決まればどうにでもなるが、体裁もあるので建ててもらうことになった。すぐ出来るようにログハウス風にして、2週間で仕上げてもらう。引渡後が本番である。

皆で考えた内装を、余す事なく創り出す。俺のガレージも、みさとのキッチンも、シビックの大きな部屋もある。更に、広いリビング・お風呂・食糧庫・ロフトに天窓もつけて、畳にコタツまで用意した。寝室も広めに作り、調光も出来るようにした。トイレも洗面台も他の家具も充実の設備。

この世界の人が入ってきたとき用に、普通のログハウス風の部屋もそのままにしてある。これだけの家を作ったら、10階建ての大邸宅になりそうだ。外見は平屋のログハウス。いやー魔法って素敵。しかも、貰った賞金の方は殆ど使ってない。都内に建てたら、土地含めて数十億位かな。ビバ異世界!


ログハウスを建てている間は、宿屋でのんびりの予定だった。冒険者ギルドに求められて、偶に依頼を受けに行く。顔を売るには丁度良く、指名の依頼も入るようになっていた。

冒険者ギルドでは、「私達失敗しませんので!最強コンビ参上」と勝手に触れ回っていたらしい。おいおいと思いつつ、受けた仕事はパーフェクトにこなす。

仕事内容は、お貴族様の隣町までの護衛や、お子様がちびドラゴン触りたいから来て欲しいとか、優勝したが為に来る依頼が多い。一緒に居るのを見せびらかしたいだけなのか、ハードな指名は来ない。金額高く提示してくれるので割はいいし、今のうちだけと思って取敢えず全て受ける。

評判がいいらしく、ログハウスに引越してからも毎日のように依頼が来る。頻度が増えてきたので、ちょっとは休ませて欲しいものである。

と言うことで、勝手に週休二日制を導入した。

それからは、やっと冒険者らしい依頼を受ける事ができた。魔獣討伐やエリア探索、商人の護衛等、楽しくなってきた。比較的短い依頼を受けているが、長くなった際は休みを取るのがわかっているので、ギルドでもやんわり伝えてくれるらしい。護衛で長期になる場合は、終了後にまとめて休むことも伝えてある。

先日護衛の依頼が終わってから、みさとが一人で買い物に行きたいと言い出した。いつも皆で行動しているので、本当に珍しい。

「シビックはどうする?」

「みさとに付いてく。拓海と二人じゃご飯食べ損ねるもん。」

「しょうが無い奴だなぁ。じゃあ俺も一人で出掛けてみようかな。」

「ゆっくりドライブでもしてみたら?」

「景色の良い場所とかあったら、皆で行けるように探してみるか。」

そんなやり取りのあと、二手に別れた。実は、シビックの行動は以前より決めていた。みさと一人にして何かあったら大変なので、付いていくようにと。負ける心配はないが、色々抜けているのでそっちが心配と言ったら、同意してくれた。不自然にならず同行出来たので、先ずは一安心。みさと達は歩いて街中へ、俺は車で空中ドライブとなった。



やっとたっくんに内緒で買い物できる!ワクワクしながら、みさとは歩いていた。以前街中で良い香りがしていたので、該当のものか確めに来たのだ。こっちに来て3ヶ月、やっぱりカレーが食べたい。たっくんも聞いてきたから、きっと食べたいはず!事前にググってスパイスは調べてある。同じ名前とは限らないから、ナビさんに確認してもらいながら買い物予定。6つ位のスパイスで、なんちゃってカレーができるはず。市場を回っていると、素材のままのスパイス発見!てことは…すり鉢いるな。むむむ。

分量は試行錯誤で沢山使う可能性あるから、多めに買っておこう。一度買っておけば、お店覚えておけるからまた買いに来られるしね。大きめの袋で購入、次々リュックに入れていく。途中ご飯も食べつつ、順調に材料を集めていく。すり鉢も念の為3つ購入。粉にした物を入れる瓶も必要かな。

帰る前には、おやつとお夕飯のおかずになるものを仕入れる。りんごと蜂蜜も念の為。チョコは流石にないか。ひき肉も手に入ったので、メンチカツとカレーなんてどうだろう。作るのが今から楽しみだ。



さて、ドライブに来たものの、探すのは景色ではなくスパイスだ。みさとはソース食べたいと言ってたからな。作り方わかれば、なんとかなるだろう。煮込んでから熟成必要ってなってたな。果物も集めるか。鍋と壺も必要か。一から作るのは大変だな。みさとが喜ぶなら、頑張るか。果物は自分で採ってみるかな。スパイスは、やっぱり面倒だから市場で買ってくるか。

煮込みの際に味が決まるのか?美味しくなる魔法とかあるのかな。萌え萌えキュンて効くのか。まぁ、やってみるか。家で煮込むと、香りでバレるからな。1日でできる方法を考えよう。こういう時ナビが応えてるれるといいんだけど。

『煮込んだ後、時間経過の魔法をかける事をお勧めします。』

おぉ、そんな魔法があるんだ。流石ナビ、よく知ってる。ログハウスからは遠い市場に向かい材料が揃ったので、早速煮込んでみる。野菜と果物数種と、シナモン・クローブ・唐辛子等含めスパイスも煮込む。だいぶ良い香りがしてきた。もう少し水分を飛ばしてから、熟成…ではなく時間経過の魔法をしてみるとしよう。ついでに、萌え萌えキュンもしてみるか。一人だからできるけど、他に人がいたら恥ずかしくてやってられない。人のいないところで良かった。

壺に入替えて、魔法をかける。加減がわからないから、美味しくなるようにと願いながらしてみる。ソースが出来たら、食事のレパートリーが増えるな。焼そば・お好み焼・串揚げとか揚げ物にかけても美味しい。楽しみだなぁ。


ウエストポーチに入れて家に帰ると、ソースとは違う良い香りがしてきた。これは、もしかして。

「ただいま!いい香りするね。」

「おかえりたっくん、わかる?」

「もちろん。楽しみだなぁ。久し振りだよね。」

「でしょ!メンチカツも用意したからね。白米は無いけど、麦を変わりに炊いてあるよ。」

「流石みさとだ。何か手伝う?」

「シビックと遊んで待っててね。あ、手は洗ってきてよ。」

「はーい。」

思いがけない香りに、心が踊る。大きいシビックとは遊べないので、ご飯を食べるためにも小さくなってもらう。

「今日はお守りありがとな。」

「お安い御用だよ。美味しいおやつもいっぱい貰ったしね。」

「お駄賃でいいんじゃないか?何も無かったか。」

「ホントにみさとの事になると慎重だな。何も無かったよ。追い払えるくらい軽いのしか来なかったから。一人なら勝てると思ったのかね。魔法も感知したけど、バリアと逆探知でお仕置もしといたよ。」

「やっぱりあったんじゃねーか!対応ありがとな。次も宜しく。」

胸を張るシビックにデコピンしつつ、撫でてもやる。

「出来たよ~!」

みさとの声に、ふたりでご飯に向かった。


「カレーだ!久し振り過ぎる!」

「メンチもあるよ。」

「じゃあ俺も出すかな。これなーんだ。」

「この色、この香り…ソースなの?まじで!」

「当たり。試してみて。」

「味もソースだぁ!これも久し振りだね。うまうま。」

「この黄色いの、ちょっと辛いけど美味しいね。何これ。こっちのサクサクも美味しい!」

「流石みさと、美味い。」

「ありがと。メンチにソースも美味しいよ。明日は焼きそばかな。お好み焼きも作る?」

「いいねぇ。楽しみだ。」

「豚カツ・海老フライ・タコ焼き…あ、そんなに無いかな?ソースの残量。」

「みさとさん、俺らのバッグの性能覚えてるかな?」

「増えるねぇ!カレー粉もそうしとこうかな。」

「いいんじゃないか。出汁とか欲しくなるね。作れるかな。」

「順番に作ろうよ。」

「まだまだこっちの世界でも楽しめそうだな。みさとが料理上手で良かった。」

「ググりましたけどね。食材探しは、ナビさんにも手伝ってもらったし。」

「ぼくも手伝ったよ!味見ね。」

「よしよし、お前も頑張ったか。これから更に美味しいご飯になるぞ。」

「ゆっくり作る時間あると、ちょっと手間がかかる料理でも楽しいね。しっかり休むためにもしっかり仕事しないとかな?」

「仕事しなくても暮らしていけるけどね。運動になるし良いんじゃない?」

「またそれかぁ。何もしないと丸くなる自覚はあるけど、食べ物がそんなに脂っぽくないし大丈夫かなぁって。お魚ないのが微妙だけど。」

「川魚ならありそうだけど、市場には並ばないのか。」

「鮮度の関係なのかな。お肉はあるのにね。不思議。」

「みさと、おかわり。」

「シビック、口すごい事になってるね。食べ終わってからまとめて拭くか。流石にスプーンは使えないもんな。」

「はい、おかわりも大盛りね。どーぞ。」

「ありがと!まぐまぐ…」

「たっくんは?おかわりする?」

「ゆっくり味わってるから、まだいいよ。」

「外でも食べられればいいのにね。」

「店でも作るか?」

「それは大変じゃない?誰かが作ってくれた美味しいのを食べたいな。」

「相変わらずワガママだなぁみさとは。こっちの人はこの味知らないんだから無理でしょう。」

「教えちゃう?」

「え、何言ってんの?わざわざ教えるの?」

「駄目?」

「誰に教えるのさ。その辺の訳のわからない人には教えたくないよ。料理上手で信頼できる人なら良いけど。」

「その選別は難しいなぁ。暫くは家で楽しもうね。」

「みさとおかわり!」

「ホントによく食べるなぁ、お前は。」

「美味しいと食べちゃうよね。…んーたっくんには残念なお知らせです。おかわり終了しました。」

「何⁉この食いしん坊め。」

「こんなに食べてもお腹出ないの不思議だよね。今度大量に作れるように、寸胴でも買っとこうかな。」

「それがいいな。ご飯も鍋2つに炊いといて、リュックに入れとけばどこでも食べられる。」

「そっか。粉も増やそうと思ってたけど、完成品も出来るか。後でやってみるね。」

「みさと、明日でいいじゃん。ぼく明日も食べたいよ。材料あるの知ってるもん。」

「ずっとそればっかり食べてると、飽きちゃうかもよ?」

「俺は明日もカレー賛成。具材も変えてみる?シビックはスプーンを持てるよう頑張ってみるか。口が汚れないぞ。」

「う、やってみるよ。ぼく用のスプーン、持ちやすそうなので用意してね。」

「じゃあ、明日の買い物で見てみよう。無さそうなら作ってもいいしな。」

「シビック頑張れ。美味しい物色々作るからね。」

ある日、お隣のカムリさんが訪ねてきた。お隣と言っても家2〜3軒分離れている。牧場を持っているらしく、牛乳が余ったのでお裾分けとのこと。

「最近街で売れてないのか、うちから買ってく人が少なくなってねぇ。貰ってくれるかい?」

「こんなにいっぱい、いいんですかぁ?」

「余って腐らせるのも勿体ないし、かといえ搾乳しない訳にもいかないし。」

「バターとかチーズとか作らないんですか?」

「何だいそれ?」

俺はしまったと思いつつ、みさとはお喋りを続けてる。

「牛乳を元に作れる美味しいものですよ。追加で牛乳買わせてもらっていいですか?作れるか試したくなっちゃった。」

「ありがとね、大きい容器で持ってくるよ。」

「お代はこれ位で足りますか?」

みさとは、革袋から銀貨20枚位を取出した。

「どれ位牛乳持ってくればいいんだい?これじゃ牛乳じゃなくて牛一頭分の値段だよ。」

「じゃあ運べる分だけで大丈夫ですよ。奥さんとこの牛乳美味しいし。取りに行きますね。」

「助かるよ。容器準備出来たら、いつでもおいで。」

「やったぁ!」


カムリさんは帰っていった。みさとはホクホク顔だ。

「ねぇみさと、作り方分かるの?」

「ググってみますよ。生クリームからなら、バターは振るだけで作れるし。」

「その生クリームにするのも大変なんじゃないの?」

「やってみないとわからないよ。美味しくできたら嬉しくない?バターたっぷり付けたトースト食べたーい!」

「確かにそれは魅力的だな。やってみるか。」

「じゃあ、容器を用意して、牛乳貰いに行こう!」


市場で金属の一番大きな入れ物を4つ購入、そのままカムリさんの牧場に向かった。

「牛乳下さいな!大きい容器持ってきたよ。欲張っていっぱい持ってきちゃいました。」

「いらっしゃい、待ってたよ。この容器ならお代わりに来てもいいくらいだよ。」

搾りたてを入れてもらい、蓋をする。

「沢山入れてくれてありがとう。美味しく頂きますね。」

「気を付けて持って帰るんだよ。台車貸そうか。」

「俺もいるから大丈夫ですよ。また買いに来ますね。」

「大歓迎だよ。またね。」

カムリさんには先に家に戻ってもらい、そそくさとウエストポーチに牛乳を入れた。楽ちんだ。

「さてみさと、帰ったら実験かな?」

「ワクワクするね。」


加熱殺菌されていない牛乳なので、静かに置いておくと脂肪分が多い部分が上澄みのように層になるそうだ。一つ分の容器の分だけで、その層を掬う。何となく生クリームっぽい。

「これをフリフリすれば、バターになるって書いてあった!塩を入れてから瓶でフリフリしよう!」

「みさと、瓶壊さないようにな。」

「任せといてよ!美味しいものの為なら頑張るよ。」

「交代して振ろうか。」

「ありがとう。瓶いくつか分になってるから、両手でフリフリしてみるね。」

「それなら、どっちが早くできるか競争してみる?」

「いいよ、楽しそう。準備するね。」

4つ用意ができて、いざ開始。まだまだ材料はあるので、上手くできたら継続かな。冷蔵庫作っといて良かった。

開始すると、暫くシャカシャカしていたものが重くなってきて、更に振ると塊が出来だしシャバシャバという音に変わってきた。そろそろ完成かな?腕が痛い。

みさとは楽しそうに瓶の中の塊を眺めている。

「ホントに出来るんだね!もう食べられるかな?」

「焼いたパンを用意しようか。味見用だから、食べすぎないでね。」

「わかってるよ。私はバター保存用の容器用意するね。」

「水分だけ出してその瓶に纏めれば?」

「そっか、やってみるよ。パン宜しくね。」

二手に別れ、それぞれ作業に取り掛かる。パンの焼ける香りがしだした頃に、シビックもやってきた。

「ご飯?さっき食べた気がするけど、まだ入るよ。」

「実験だから、ご飯じゃないよ。味見はあるけどね。」

「ぼくそれなら役に立つよ、きっと。」

「お前は美味しいしか言わないじゃんか。」

「みさとのご飯が美味しいからだよ。美味しいものを不味いとは言えないでしょ?」

「よく分かってるな。偉いぞ。」

「スプーンもちょっとずつ上手になってきたしね。ほら、たくさん使わないと上達しないでしょ?」

「今回の味見は、スプーン要らないかな。美味しくできてるといいな。」

3つの焼けたパンにバターを乗せて、皆で味見。

「美味しいね!」

「美味い。成功じゃないか?みさと。」

「おかわり!」

「味見って意味知ってるか。また後で!」

「残ってる分もフリフリして、作っちゃうね。後はチーズか。」

「どれどれ。先生曰く、酵素で固めたタンパク質を凝縮・塩水に漬け込んでから半年位熟成だって。これも手間かかるな。」

「それだけ美味しくなるって事じゃない?いいねぇ。」

「魔法で時間経過はかけられるよ。試してみる?」

「うん!早く食べたいし。」

酵素の代わりにレモン汁や酢でも出来るそう。今回は、レモン汁で代用。食べることの準備は本当に早いみさと。手早く塊を作り更に脱水、整形し直した物を塩水に漬ける。少し時間経過の魔法をかけてから取出し、再度時間経過の魔法をかける。水分も抜けるよう調整した。

ちょっと不格好だが、丸く平たいチーズの出来上がり。いくつか出来たうちの1つを、切って試食。

「中々いけるんでない?」

「ちゃんとチーズだね。意外に美味い。とろけるかまたパンにのせて焼いてみるか。」

「そうしよう。上手く行ったら、グラタンとかピザとかいけるね。」

「それは俄然楽しみになったぞ。」

パンに切ったチーズを乗せ、窯に入れる。程よく焼けたので取り出すと、こんがり良い感じになっていた。

「焼き色もぽい感じだね。良い香り。」

「では早速。熱っ、伸びるねぇ。」

「美味しい!大成功じゃん。やったぁ!」

「熱っ、うまっ、ハフハフ。」

「美味しいけどさぁ、水分大量に出たね。ホエーって言うんでしょ?豚さんに飲ませたら美味しくなるのかな。」

「らしいね。いないでしょ?豚。いたら試したいけどね。肉質柔らかくなるって聞いてたし。」

「養豚してるとこないかなぁ。」

「あっちにあるよ。」

「何で知ってんの、シビック。」

「この辺飛び回ってた時に見かけた。豚、いっぱいいたよ。あれのことでしょ?」

「多分それ!でもさぁ、家で一匹だけ育てるのは大変じゃん?養豚場で試せるほど大量には出ないし。むむむ。」

「カムリさんにチーズ作り教えて、横流しするよう仕向けるか。うまくいくといいけど。」

「たっくん、そちも悪よのぅ。」

「いえいえ、みさとさん程では。」

「チーズは時間かかるから、バターも教えてそっちも売れれば、チーズは気長に待ってもらえるかもね。」

「そうだな。最近売れてないって言ってたし。味見用に少し持ってくか。」

「賛成!シビック、教えてくれてありがとね。」

「えっへん!」

みさとはシビックを撫で撫でしつつ、カムリさん家に行く準備も始めた。

翌日試作品を持って、牧場に向かった。

「カムリさん、牛乳美味しかったよ。この間言ってたの作ってみたから、味見してくれる?」

「おやまぁ、嬉しいねぇ。どれどれ。」

バターもチーズも少しずつ味見、びっくりした顔をしている。他の食べ方もあること伝えると、キッチンに行くことになった。

パンを二切れ用意、それぞれバターとチーズをのせて焼いてみる。いい香りで美味しそうな感じがするのか、早速食べてくれた。

「どっちも美味しいねえ。このチーズってやつは、焼くと食感が変わって凄くいいね。」

「でしょ?牛乳で作れるから、余ったらこういうのを作って売ってみたら?」

「確かに売れそうだね。作り方教えてくれるかい?」

バターとチーズと、それぞれ作り方をレクチャー。チーズは時間がかかることは言ってある。後は、作る際に出るホエーについても、豚にあげる提案も忘れない。美味しく出来たら、食べてみたいものだ。それと、誰に教わったかは話さないようお願いした。どこの誰か、俺達の情報は一切出さないようにと。

バターは卵や肉等を炒める時にも使える事、暑いと溶けやすい事、チーズもバターも加熱しなくても美味しいがカビに気を付ける等々、売る際の注意点もわかることは伝えた。

カムリさんはコツを掴んだらしく、バターもチーズも順調に作っていった。その際に出たホエーも、隣(と言うにはかなり遠いが)の養豚場に話がついており、実験してもらえるとの事。

実は養豚場のラッシュさんとは仲良しで、バターとチーズの味見もしてもらい、これを作った人がそう言うなら間違いないだろうと信用してくれたそう。近所付き合いも大事だなぁと思った。結果はすぐには出ないが、気長に試してもらいたいものだ。

後日談になるが、バターは大好評で、街中の飲食店で引っ張りだこだそう。その後チーズも売れ出したので、カムリさんは牧場も含め規模・人員も増加に踏み切り、経営手腕を存分にふるったらしい。それを聞きつけた同業者が聞きに来て、地方でも真似しだし国中に広まって行ったそう。おかげでカムリさんは、農業の女神として有名人になったとな。それでも、誰から教わったかは全く情報は出なかった。


バターが手に入ったので、フレンチトーストが食べたいとみさとは言い出した。美味いよね。卵も市場で手に入るけど、この地域は首都にも関わらず農業してる家が多いので、卵も家の前で売っている所がある。皆で散歩していたら見かけたので、買いに行こうという事になった。実際に行ってみると、籠に盛られた卵が売られていた。

「これだけあったら、プリンもできるねぇ。カスタードも作っちゃおうかな。」

「何ですかプリンって。」

「甘くて美味しいお菓子ですよ。比較的簡単にできますし。」

「へぇ、食べてみたいですね。」

「上手く出来たら持ってきましょうか?」

「いいんですか?嬉しいなぁ。」

「期待せずに待ってて下さいね。」

「みさと、いつも思うけど安請け合いしすぎじゃない?」

「そうかな?出来そうだし良いんじゃない?」

「こっちにない文化を持込むのはどうかと思うけど。」

「美味しいと思うかは別でしょ。」

「そうだけどさ。まぁ言っちゃった事はしょうがないか。美味しくできるといいな。」

「任せてよ!生クリームもホイップしようかな。」

家に帰ってから、早速プリン作りに取り掛かる。カラメル作りも手を抜かない。良い香りがしてきた。シビックも、香りに釣られてやってきた。

「何か甘い匂いする。おやつ?」

「もうちょっと待ってね。冷やしたほうが美味しいし。」

「ねぇ拓海、みさとは何作ってるの?」

「プリンていうお菓子だよ。楽しみだ。あれ、フレンチトーストはどうなった?」

「同時に食べたい?たっくんは甘くていっぱいいっぱいになるんじゃない?」

「それもそうか。じゃあ明日だな。」

「バターたっぷりで焼こうね。さてさて、プリンの固まり具合はどうかな~。うん、いい感じ!」

「プッチンはできない感じ?」

「プッチンはできないけど、逆さにしてホイップのせる方法はあるよ。チェリーは市場でも見かけたことないな。ぶどうならあったけど。後はいちごかな。」

「アイスがあれば、プリンアラモードに出来るか。牛乳で色々できるもんだな。」

「そうだね、作った人凄いよね。おかげで美味しいものがいっぱい食べられる。」

翌日プリンを持っていくと、ターセルおばさんは喜んで食べてくれた。初めての食感らしく、とてもびっくりしていた。

「美味しいねぇ、これ。簡単に作れるって言ってたけど、私でも作れるかしらねぇ。」

「大丈夫ですよ。ホントに簡単ですから。卵、牛乳、砂糖でできるしね。」

「あらまぁ、それだけでいいの?是非教えて。」

そのままキッチンに向かい、プリン以外にも卵で出来るフレンチトーストやカスタードも一緒に作った。ターセルさんも料理上手で、次々作れるようになっていった。その際に、自分で考えた事にしてねと念を押した。

その後街中で、甘いお菓子が色々広まったそうな。

そんなこんなでご近所付き合いが始まり、ひょんな話が出た。

「最近狼や泥棒が少なくなったねぇ。乳牛の被害が無いのは本当に助かるよ。」

「カムリさんとこもかい?ウチも放し飼いの鶏が減らなくなってほっとしてたとこさね。」

「うちの豚も最近元気で、肌ツヤ良くなってるよ。安心してるのかな。」

「あはは、それはいいことですねぇ。皆さん安全に仕事が出来るのはいいじゃないですか。」

お茶会にクッキーとシュークリーム持参でやってきたみさとは、冷や汗をかいていた。実は、シビックは悪意を感じやすいそうで、普段は平穏なこの地域で偶に夜に感じていたそう。イラッとして退治に行ったとか。狼は、シビックの気配に近寄らないみたい。家畜に対しては威嚇はしないので、のんびり暮らせているとのこと。シビックが夜出かけた時に、理由聞いといてよかった。わざわざ話さないけどね。

帰ってから、たっくんに相談してみよう。ログハウスにかけてるみたいに、ご近所に泥棒除けみたいな結界張れないかしら。そうすればシビック含め、皆安心して暮らせるのに。

「安眠て大事ですよねぇ。」


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