お試しにも程がある 41
「いらっしゃい、クレスタさん。
この間のお礼なので、楽しんで下さいね!」
俺が連れてきたクレスタに、みさとが挨拶する。
「みさとさん、お招きありがとうございます。
またまた新しいメニューと聞きましたので、楽しみですよ。」
「クレスタ、俺も居るんだけど。」
「ほら、作ってくれるのみさとさんでしょ?
敬意はみさとさんに払わないと。」
「連れてきたの俺だし。」
「さぁさぁ、座って待っててね。」
お茶を置いたみさとは、キッチンに戻っていく。
クレスタは椅子に座って改めてキョロキョロする。
直接転移して来ているので家の大きさは見ていない。
かなり大きい家なんだろうな。
外からも見てみたいもんだ。
隣に座ったペットが飛び回って遊んでも問題なさそう。
前回もそうだったけど、フォーク持って上手に食べるんだよな。
こんな感じだったら、うちでも飼いたいかも。
そんな事を考えながらニコニコペットを見ていた。
でもこれって…いつも大人しいから気にしなかったけど、大きいトカゲかな?
あんまり動物とか魔物の種別はわからないや。
物が持てるってことは、亜種なのか特別個体なのか。
この2人に飼われているんだから、ちょっと変わったものでもあり得るだろう。
ひとりで百面相しているクレスタの元に、俺は料理を運ぶ。
「お待たせ。
先ずはこれからどうぞ。」
コトリと皿を置く。
ナイフとフォークは事前に置いてある。
チーズの良い香りがする。
「えーと、これはガレットって言ってた。
下の生地はこの間教えてもらった蕎麦粉で作って、卵・ベーコン・チーズが載ってる。
次の料理もあるから小さめにしたって、みさとが言ってた。
他も運んでくるから、良かったら味見してて。」
そう言って俺は、みさとの力作を運ぶ手伝いに戻る。
クレスタは、色々な角度から眺めていた。
見たことないものは、そうなるよね。
こっちの世界じゃ、写真も撮れないし。
蕎麦汁・薬味・天婦羅も運んで、席に着く。
「意外にペロッと食べられると思うよ。
本命はみさとがこれから持ってくるからな。」
「拓海さん、あの四角かったモチモチした蕎麦がこんなのになるなんて、予想もつかなかった。
本当に同じ物?」
「同じ素材ですよ。」
笊に盛った蕎麦を持ってきたみさとが、それに応える。
「蕎麦の実を売ってもらって、粉にするところからやってみました。
ガレットは、前に食べた物より生地が薄くなってるから、食感も違うしね。
こっちの笊に盛った方の物は、前回のに近いかも。
お試しくださいね!」
ナイフとフォークで一口大にして、食べてみる。
チーズの香りが強かったが、噛んでいるうちに蕎麦の香りがしてきた。
卵も半熟で、割った黄身を絡めるとこれまた美味しい。
「これはこれは。
こんな食べ方が出来るとは。
蕎麦粉以外は、普通にある材料ばかり。
良いですね!」
拓海に言われた通り、ペロッと入ってしまった。
「こっちが食べて欲しかったやつなので、食べ方説明しますね。
このお椀のスープに麺をつけて、食べてみて下さい。」
「フォークでも食べられるから、こぼさないよう気を付けて。」
俺は箸で麺を持ち上げ、お椀に入れてみせる。
クレスタの横で、シビックは器用にフォークで麺を持ち上げ、お椀に入れた。
クレスタはそっちを見て、真似してみる。
俺が音を立てて啜るのを見て、びっくりしている。
「そんな食べ方するの?」
「そう、麺はこれが普通の食べ方。」
「食べづらいならフォークで巻き取っても良いですし、良かったらスプーンも持ってきますよ。」
「いや、そういう作法ならそれに習わせて頂こう。」
クレスタはフォークで蕎麦を一口、上手く啜れないので諦めてフォークで口に入れる。
ラーメンの時は大きなスプーン付いていたから食べやすかったことに、今更ながら気付く。
甘じょっぱい汁・出汁の風味も感じる。
「美味しい。」
「忘れてた、薬味もどうぞ。」
長葱とすりおろしの山葵を盛ってある皿を、みさとが勧める。
ん?葱はわかるけど、この緑は何だ?
取り敢えず全部入れてみよう。
皿に盛られた全てをお椀に入れて、食べてみる。
入れてる最中に2人が驚いたような顔をしてたが、何だろう。
再度蕎麦を入れて同じように食べると、辛味が鼻に抜けてきた。
「んー!」
「あぁ、言わんこっちゃない。
辛いよって言ったじゃん。」
みさとから水を受け取り、涙を流しながら飲み込む。
「酷いよ、ちゃんと言っといてよ!」
「いや、入れるの少しずつって言ったじゃん。」
「新しいお汁持ってきましたから、山葵は少しだけ入れて食べてみて下さい。
慣れてくると、沢山入れたくなるけどね。」
みさとは、新しいお椀と取替えた。
今度はちょっとにして食べてみると、シルフィで食べたあの辛味に似ていた。
「これ、山で食べたあの蕎麦の味に似てる。」
「そうだよ、山葵っていうんだ。
クレスタと別れてからもう一度シルフィに行ってさ、蕎麦の実と山葵を買ってきたんだ。
前回の塩葱山葵も良いけど、この食べ方の方が俺達にはしっくりくるんだ。」
「あ、天婦羅もあるのでサクサクのうちに食べてくださいね。」
揚げ物の皿を示され、フォークで刺して持ち上げる。
「茄子・南瓜・茸にしてみました。
お汁にちょっと付けて食べてみて。」
言われた通りにすると、甘い南瓜。
汁の甘じょっぱい感じとも合う。
「俺は茄子が好き!」
「僕はどれも好き!」
「温かいお蕎麦も用意してくるね。」
食べ方にも少し慣れてきたクレスタは、音を立てて啜れるようになった。
「これは美味しい。
ラーメンもこうやって食べれば良かったんだ。
拓海さんの使ってる箸というものは。麺を食べるのに適してそうだね。」
「これは、ご飯も唐揚げも掴めるよ。
慣れるまでが大変かもだけど。」
「山葵もうちょっと入れてもいいかな。」
「入れ過ぎないようにな。」




