お試しにも程がある 35
「結構高いね、この山。
車で来られるとは思わなかったけど、楽ちんだ!」
「紅葉してたらもっと良かったんだけどね。
針葉樹らしいから、色変わらないか。」
「平たい葉っぱじゃないと、変わらないんだ。
そもそもこっちでも紅葉するのかな?」
「四季は今のところ感じないよね。
通年過ごしやすいのは、それはそれでいいけど。」
久し振りに車に乗り、山まで来た。
周りをぐるっとして、赤い実がありそうなところを探す。
誰も取っていないという話だったが、本当に人が居ない。
小屋らしきものがあり、その周辺に赤い実の木が沢山あった。
「てかさぁ、トゲトゲ葉っぱの木でこの実が付くのが違和感しかないんだけど。」
「みさと、こっちではこれが常識なのかもよ。
確かにこの大きさの実は不自然だけど。」
「見た目柔らかそうなのに、葉っぱでは傷付かないんだね。
不思議!」
山に降り立ち、実際に見てみた感想がこれ。
ぱっと見作り物かと思った程。
鮮やかな赤で、血液の元になると言われても納得するかも。
さて、どうやって採るかな。
「高枝切り鋏的な、枝が掴めるタイプあったじゃん?
あれなら取れるかもね。」
「今はないからなぁ。」
徐ろにみさとが実を掴む。
上に持ち上げるだけで、実が採れた。
「あら、簡単。」
掌に乗せてみると、ほんのり指の跡が付いている。
何処までが傷んでいる状態かは聞かなかったなぁ。
「やっぱり、葉っぱがチクチクする。
手に傷付かないから、気にしなければ採れるよ。」
「ねぇみさと、それは大丈夫って言えるの?」
「だって、傷付かないから後まで痛いわけじゃないし。」
「うーん、それで良いなら良いけど。
俺もやってみるか。」
かくして、みさとの言う通りだった。
その時はチクチクするけど、後は何ともない。
『毒が検知されました。
無効化します。』
え、どういう事?
『葉から毒の付着確認。』
成程、素手で取ってはいけない奴だ。
「みさと、毒大丈夫?」
「うん、ナビさんが無効化しましたって言ってくれた。」
「そうだけどね…まぁ、手早く終わらせようか。」
採った実はそのまま異空間に入れる。
みさとは力加減に気を付けて、俺は空気を纏わせた手で採り進める。
鮮やかな赤と真紅の濃くなった赤もあり、1時間近く取り続けた。
「大分採ったけど、まだまだあるねぇ。」
「いくつ必要かは聞かなかったからなぁ。
失敗した。
これだけあれば足りるとは思うけど。」
「美味しいのかな?」
「食べてみる?」
その前に…ナビ先生、毒ではないかい?
『毒反応なし。』
「毒はないみたいだよ。」
「じゃあ凄く真っ赤なやつで!」
「僕も食べる!」
シビックは一口で1個、俺とみさとは半分こ。
「甘くはないねぇ。
鉄臭いトマトみたいな?」
「僕好きじゃない。
もういらない。」
「無理に食べなくて良いんだぞ。
薬の材料だしな。」
みさともシビックも渋い顔してる。
よっぽど美味しくなかったんだな。
普段から美味しいもの食べてるから、その反動もあるだろう。
ただこれは、生野菜や果物と比べるから美味しくないだけで、そもそも食べるためのものではないから、美味しくなくてもいいんだと思う。
一口食べたけど、鉄臭くて俺ももういらない。
早く持って帰って、依頼完了させよう。
「帰るぞー!」




