お試しにも程がある 34
「拓海、宜しく頼む。」
3日間の休みが終わり、研修生達は集合。
事前に念話で打ち合わせした通り、レジアスが話をしている間に、後ろから俺がこっそり理解言語の対応する。
「わかった、やってみるよ。」
今日は、研修生達が先生になる話を、レジアスとアイシスでするそう。
アイシスは、モノクル眼鏡を既にかけている。
話の間も魔力を纏っていること、と最初に言われ、チェックはアイシスがする事も伝えてある。
俺が魔法使っても気にしないように、アイシスにはレジアスから言ってくれたそう。
休んだからか慣れてきたのか、魔力を纏っても研修生達は険しい顔をしなくなっていた。
頼もしいことだ。
研修は交代制・少人数で行う。
魔導士だけでなく、魔力持ちの冒険者でも受けられるようにするとのこと。
職員になる魔法省や魔法協会の人だけじゃないんだな。
レジアスは国全体で魔力の底上げをしたいようだ。
各地域の魔法協会の人から始めるそうで、慣れてから戻ってその人達がまた先生になるとの事。
魔力使える人増えれば、転移装置も使える人増えて、人の動きが活発になる。
その後は犯罪対策もしないとだろうけど、まぁレジアスなら考えているだろう。
用が済んでしまった俺は、レジアスに念話で連絡してから帰ることにした。
(レジアス、できた筈だから帰るね。)
(助かったぞ、拓海。
休みの間に鳥の話が聞こえる幻聴がすると気に病んでいた者も居たくらいじゃ。
もう大丈夫じゃろう。)
後ろの扉から静かに出ていった。
みさとと合流、冒険者ギルドに顔を出す。
早速受付の人に捕まり、受け手の居ない案件を押し付けられる。
「待ってましたよ、拓海さん・みさとさん。
今回ですが、魔王領に近い地域の採取の要望です。
お願いできますか?」
「あれ、転移装置使えるから移動が簡単になって難易度下がってるんじゃないの?」
「ほら、場所が場所だけに、受け手が居ないんですよ。
お願いしますよ!」
「良いけど。
何採ってくるの?」
「山頂付近で採れる、赤い実です。
なんでも、特殊な薬を作る材料になるとか。
傷みやすいので、丁寧に扱ってくださいとのことでした。
特徴は、これです。」
内容の書かれた用紙を出してくれた。
どれどれ…トゲトゲした葉の木で、みかん位の大きさの丸い実。
傷むと色が変わって使えなくなると。
「どうやって取れと?」
「そこを何とかお願いしますよ!
現地で住込みで薬作ってた方がもうお亡くなりになって、作り手がいなくなったみたいです。
使う頻度はそんなに高くないのに、それを使うしかないみたいで…」
「無くなりそうで困ってると。」
「はい!
如何でしょう?」
「まぁ、行ってみるね。
因みに、何に使う薬なの?」
「大量出血時に、元に戻す薬とか。
大怪我をする人減ってるのでそんなに使わないらしいですが、何かあった時に対応出来ないと死ぬしかなくなってしまいます。
予備も少なくなって来たとのことで、確実に採れる人にお願いしたいと。」
「わかった、受領します。
じゃあ、このルキノという所の山に行けばいいよね。」
「はい、宜しくお願いします!」
外に出て、検問所に向かう。
転移装置で移動してみよう。
検問所の外に辿り着くと、転移装置の周りには疎らに人が居る。
聞こえてくる話としては、使い方は教わったけど試す勇気がないとか。
確かに、転移魔法は誰でも使えるわけではないから、最初は怖いよね。
誰も使わなさそうだから、使わせてもらおう。
ファーストペンギンになるかな?
デモンストレーション代わりに、俺達が利用するところを見ることで、利用者も増えるだろう。
そんな期待しつつ、装置まで移動。
ざわめく周りは気にせず、魔法発動。
俺達が消えた後の反応は見られないけど、ちょっと楽しみ。
あっという間に移動終了、ルキノに着いた。
看板はないが、たぶん大丈夫だろう。
検問所の兵士が驚いて、近寄ってきた。
「あんた、転移装置使ってきたのかい?
初めて見たよ。」
「上手く出来てよかった。
ここはルキノで間違いないかな?」
「あぁ、その通りルキノだ。
よく来たね。」
「山で赤い実採りに行くんだけど、あの山で良いのかな。
薬に使うらしいんだけど。」
「あぁ、もうあそこの爺さん亡くなったから、採る人居なくて沢山あるんじゃないかな。」
「他に採りに来る人居ないの?」
「おいおい、こんな魔王領近い所に好き好んで来る奴は居ないよ。
だから爺さんは、大事にされてた。
定期的に村の者が訪ねるようにしていたが、気づいた時にはもう遅かったそうだ。」
「そうなんだ。
有難う、行ってくるよ。」




