お試しにも程がある 316
「また来たの、姉ちゃん?」
カムリの顔を見て、呆れたような顔をするプログレ。
「ほれ、プリンの差入れ。
今度は牛肉のお客さん連れてきたよ。」
「初めまして、みさとです。
美味しい牛さん買いに来ました。」
カムリより小さいみさとを見て、プログレは驚く。
「お、おぅ。
お嬢ちゃん、何処かのお使いかい?」
カムリはプログレをベシッと叩き、物理的にも言語的にもツッコミを入れる。
「失礼なこと言うんじゃないよ。
拓海の奥さんだよ。
この子がさ、すんごい料理上手なんだよ。
この間の武道大会の時の出店の料理も、この子に教わったんだから。
美味しかったろう?」
「あれは美味かったなぁ。
こんな小さい子が料理するんだ、すげぇな。」
プログレからしたら頭2つ分は小さいみさとを見て、感心する。
何故かカムリが自慢気になり、追加情報も出す。
「見た目は若いけど、子供もいるんだよ。」
「え、子持ち?
旦那さんは拓海さんだっけ?
拓海さんだって若いよなぁ?
まだ小さいんかい?お子さん。」
プログレの独り言に突っ込みたい気分は満々だけど、苦笑いしつつ応える俺。
「もう社会人で、働いてますよ。」
「ほぇー、人は見かけによらないねぇ。
てかさ、俺んとこは小さく切って小売りしてるわけじゃないんだけど。
半身か1頭分になるけど、良いのか?」
話しながら、肉を保管している所に移動する。
プログレの質問に、あっけらかんとみさとが応える。
「1頭分下さい。
大喰らいもいるので、助かります。」
「焼くしかないけど、なんだ、丸ごと焼くのか?」
この世界では、本当に焼くしか調理方法試していないようだ。
「それはそれで美味しそうですが、色々調理しようと思います。
カムリさんにも言ったけど、できたら持ってきますから味見してくださいね。」
「それは楽しみだ。
姉ちゃんのお墨付きだし、期待してるよ。」
「そこは私も同意するよ。
待ってるよ、みさと。」
「じゃあ早速だけど、どれにする?」
内臓も皮もなくなった、あとは切り分けて調理するだけの状態の肉を、ズラッと並べてある所に辿り着いた。
「私だと見ただけじゃわからないなぁ。
おすすめでお願いします。」
こういう時は素直なみさと。
「そうかい。
この個体は他より大きかったから、これにしようか。
荷馬車あるなら、そこまで運ぶぞ。」
「えっと、持てるので大丈夫です。」
「は?俺達でもひとりじゃ持てねぇぞ。
みさとが持てるのか?」
プログレが選んだ1体を、みさとが持ち上げる。
あんぐり口を開けたプログレが、その場で固まる。
「たっくん、支払いよろしくね。
プログレさん、このまま持って帰りますねぇ。
カムリさん、色々ありがとうございました。
またお邪魔しますね。」
みさとは、肉を持ったまま器用にペコリと挨拶し、出ていった。
何も言えず見送るプログレ、何もなかったように手を振るカムリ、金貨を取出す俺。
「お代、これで足りるかな?」
プログレの手に金貨1枚乗せると、やっと動き出した。
「何あれ、あんなちっちゃい子が怪力なの?
何か仕掛けあるの?
びっくりなんだが。」
「あぁ、みさとはああいう子なんだよ。
確か、前回の武道大会の優勝者だよね、拓海。」
「そうだね、懐かしいね。
ところで、足りなかったらもっと出せるけど金額教えてもらえるかな。」
俺から金の話が出て、やっと掌を見るプログレ。
「おいおい、充分過ぎだよ。
釣りを持ってこないとな。」
「今回はいきなり来たのに無理を聞いてもらったから、そのまま受取っといて。
また買いに来てもいいかな?」
「勿論だ。
なんならもう1つ持って帰れるけど、どうだい拓海。」
みさとと一緒にされても困るので、俺はきちんと説明する。
「俺はあそこまで力無いから、次来た時に買わせてもらうよ。」
「そうか、そうだよな。
俺、こんな仕事してて力には自信があったんだが、あれにはびっくりしたよ。
お前まで力持ちなら、どうしようかと思ったぞ。」
「あはは、みさとは特別だから、気にしないで。
俺も敵わないし。」
俺のぶっちゃけ話を聞いて、プログレも納得したようだ。
「見た目で判断しちゃいけねぇな。」
「全くだよ。」
そんな話している時に、ひょっこりみさとが顔を出した。
「出口、どこですかねぇ。」




