お試しにも程がある 312
「プログレ、邪魔するよ。」
カムリとナディアと俺で、隣(というには結構な距離歩いたが)の建物まで来た。
「何だよ姉ちゃん、牛の追加か?
まだ前の加工が終わってないから、いつものとこに連れてっといてくれよ。」
「今日はお客さん連れてきたんだよ。
こちら、ナディアと拓海だ。
私のおなじみさんでね、牛の皮を見せて欲しいってさ。」
カムリの説明で、やっとこっちに向いてくれた。
「なんだよ、早く言えよ。
初めまして、プログレです、ようこそいらっしゃいました。
すんません、お客さんなのにこんなところで立ち話で。
お茶も出しますんで、座って待っててくださいよ。
姉ちゃん、案内宜しく。」
帽子を取ったプログレは、丁寧に挨拶してくれた。
「はいよ、私もお客さんだからね、一緒に待ってるよ。」
カムリは手をヒラヒラさせ、我が家同然に中を進む。
俺達はカムリの後について行くが、振り返るとプログレが今後の指示を残る担当者にしていた。
おしゃべりしながら部屋で待っていると、お茶のセットを自分で運んで、プログレが入ってきた。
「お待たせしました。
改めまして、プログレです。
姉がいつもお世話になってます。」
「ほんと、拓海にはいつも世話になってるよ。
ナディアは、ねぇ。
茶飲み友達で長く付き合ってるよ。」
なんだろう、この紹介の違い。
気を取り直して、挨拶する。
「初めまして、プログレさん、拓海といいます。
いきなり押しかけてすみません。」
「私はナディアだ。
服屋をやってるんだが、牛の皮について話を聞きに来たんだ。」
俺達が自己紹介している間に、カムリがお茶のセットをテキパキ並べる。
ここでもお茶菓子にクッキーが出る。
「姉ちゃんありがとう。
それで、牛の皮って言ってましたよね。
何に使うんです?」
「服や靴・鞄とかに良いと聞いたからね、先ずは試させてもらって、上手くいくなら今後取引もしてもらいたい。
どうだろうか?」
ナディアの説明は簡潔だった。
「牛の皮が?服や靴?本気で言ってるのか?」
「勿論本気だ。
なぁ、拓海。」
バンと背中を叩かれ、苦笑いで説明する俺。
「俺がいたところだと、牛の皮をそういう使い方もしてたんですよ。
勿論そのままじゃなくて、色々加工必要だけどね。
革の服とか靴とか財布とか、使い込むと艶が変わってきて愛着湧く品になるんだ。」
「皮の加工は、知り合いの防具屋が魔獣の皮の加工してるから、牛の皮も同じように加工できないか私が交渉する。
その為にも、試しに1頭分くらい分けて欲しいんだ。
値段は君に任せるよ、プログレ。」
「任せるって言われてもなぁ。
売ったことないし、どうしよう、姉ちゃん。」
「私の経験からすると、拓海が言うことに間違いないんだ。
だから、きちんと売ってきちんと儲ければ良い。
そうだろう、拓海?」
「カムリさんには敵わないなぁ。
俺からもお願いします、プログレさん。
値段は、手間賃含めてちゃんと考えてほしいですね。」
「拓海、その仰々しい言い方はもうなしだ。
俺も拓海って呼ぶから、お前もプログレと呼んでくれ。
ぶっちゃけさ、難しいこと苦手なんだよ。
今の仕事だって、身体で覚えたから動けるんだ。
値段だっけか?
今はよ、姉ちゃんのとこから預かった牛を食用として育てたり解体して、販売できた金額の2割貰ってるんだ。
牛を買ってるわけじゃないから、そこは姉ちゃんに聞いてくれるか?」
「ほんとにあんたは、馬鹿正直だね。
最近はね、酪農家が増えてるらしくって、牛1頭分で40銀貨位するのさ。
とはいえ皮だし、手間賃含め銀貨2〜3枚ってとこじゃないかねぇ。
どうだい、ナディア。」
カムリの話には頷きつつ、慎重になるナディア。
「値段はそれで良いよ。
1頭分の量と状態の確認したい。」
即決のナディアに、プログレも快く応える。
「じゃあ、改めて作業場に行こうか。」




